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更新日:2017年4月1日
環境保全研究所
研究所の発足2年目から開始した長野県の土地利用をテーマにしたプロジェクト研究の報告書が昨年度ようやくできあがりましたので、その概要を紹介します。
戦後、日本の自然環境は大きく変化しました。この原因の一つが宅地造成や開発などによる土地利用の変化です。しかし一方で人間は限られた土地の中で生活しなければならず、土地利用は絶えず変化しています。これらの問題を解決し、持続可能な社会を築くためには、自然と人間が共存できるような土地利用をめざしたビジョンと計画が必要となります。本プロジェクトでは、こうした土地利用のビジョンづくりや計画策定のために欠かせない基礎資料である土地利用変化の実態把握と土地利用と自然環境との関わりについて研究を行いました。
以下、プロジェクトの報告書の目次にそってその内容を紹介します。
この章は4編の論文からなり、長野県の土地利用変化の実態をさまざまな空間スケールや分析手法により明らかにしました。
1960年から2000年までの長野県の土地利用変化について統計資料を利用して調べた結果、長野県では都市的土地利用と人工林が増え、農業的土地利用と天然林が減少していることが明らかとなりました。
長野・戸隠地域において、GISを利用して地形図から土地利用図を作成し、昭和35年と平成6年の土地利用変化を比較しました。結果、都市の拡大は大部分が農地の転用、次いで樹林地の転用によることが明らかとなりました。また、この土地利用変化情報を基に土地利用計画の実効性の評価を試みたところ、土地利用の秩序が必ずしも保たれていない地域があることがわかりました。
長野市芋井地区を事例に、土地利用に伴う植生の変化を資料・文献や聞き取りから明らかにしました。この結果、標高帯毎に時代に応じた植生の変化が進行しており、これがこの地域に生息する大型野生動物の分化・拡大・絶滅に影響を与えてきたと考えられました。
長野市芋井地区広瀬を事例に、土地利用変化とその要因について聞き取りを行いました。この結果、土地利用変化の主たる要因は経済的なものでしたが、農地の維持には個人の信条も影響を与えていることがわかりました。
この章は3編の論文からなり、土地利用と自然環境の関わりや土地利用の変化が野生動物に与える影響について明らかにしました。
飯縄山南東麓の地形・地質・気候条件の特徴について記載し、それらと土地利用との関係について考察しました。対象地域は各環境特性の違いから4つの地域に区分され、その区分に対応する明瞭な土地利用の特徴が明らかとなりました。
長野市飯綱高原で捕獲したフクロウの冬季の行動圏を明らかにしました。この結果、行動圏の広い個体があることや特定の環境をよく利用することがわかり、またフクロウ保護のためには繁殖地の保護だけではなく、越冬に利用する平野部の林の保護も重要となることが示されました。
推定したフクロウの生息可能地と開発行為の生じた地域とのオーバーレイ分析から、生息地保護の観点から重要性が高いにもかかわらず保護されていない地域(ギャップ)を抽出しました。このようなGap分析は生物多様性の保全戦略を地域レベルで具体化するに際しての有効な手段であることを示しました。
最後に、総合考察ではこれまでの論文の内容を受けて、自然環境保全に配慮した望ましい土地利用のあり方を実現するためのポイントについての提言を行いました。それは、以下の4つにまとめられます。
このプロジェクトで示された結果は主に1)の部分に相当しており、今後の土地利用のあり方を考える際のヒントになると考えています。これからもさらに4)を目指して研究を進めていきたいと思っています。
(プロジェクトリーダー浜田 崇)
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