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更新日:2004年12月1日
平成14年10月
西駒郷改築検討委員会
西駒郷は、昭和43年7月に知的障害者の総合的援護施設として、全国的にも早期に開所しました。
当時、県内には知的障害児の入所施設が数箇所、知的障がい者の入所施設が1施設しかなく、施設の開設の強い要望があり、県は知的障害児施設、知的障害者更生施設、知的障害者授産施設の3つの機能を有する知的障がい者コロニーとして西駒郷を建設しました。
以降34年間、西駒郷は知的障害者援護施設として大きな役割を果たしてきましたが、この間に県内の各障害保健福祉圏域において民間の社会福祉法人による施設整備が進む一方、施設入所中心の福祉から、障がいのある人もない人も、誰もが社会の一員としてあらゆる活動に参加できることが当たり前であるというノーマライゼイションの理念に沿って地域生活を支援する施策の充実へと福祉施策の重点が転換する等社会情勢が大きく変化しました。
また、施設の老朽化や狭隘な居室等の施設、設備の改善の必要性、利用者の高齢化、重度化や自閉症者の増加等の多様化への対応の必要性など多くの課題を抱える状況となっています。
このような状況の中で、本検討委員会は、昨年7月10日に県から改築に際しての今後の西駒郷のあり方について、前記の西駒郷の諸課題、更には本県の知的障害者福祉の現状及び課題を踏まえ、検討するよう依頼されました。以後、西駒郷における利用者の生活状況を実際に視察するとともに、利用者や保護者の方々から直接意見をお聞きし、さらに関係団体、行政機関を始めとした幅広い県民の皆様の意見を聴取しながら検討を重ねてきました。
その結果、西駒郷の現状と課題、今後のあり方及び改築に際して配慮すべき点について、本提言としてとりまとめました。
この提言が、西駒郷の今後に生かされ、西駒郷利用者の方々の生活の向上につながるとともに、本県の知的障害者福祉の進展に役立つことを願います。
西駒郷改築検討委員会
ア段階的な転換
イ市町村、社会福祉法人、NPO法人等との連携
ウ職員の能力発揮
ア利用者の高齢化、障がいの重度化や多様化への対応
イ居住環境の改善
ウ利用者の地域生活移行への支援
エ利用者本位の開かれた施設運営
ア知的障害者福祉のセンター的機能
イ重度者のセイフティーネット的機能
ウモデル事業の実施
エ知的障害児施設機能
ア知的障害者授産施設の通所への転換
イ入所施設の機能
ウ地域生活の支援機能
委員会における検討経過
昭和43年の西駒郷の開所前は、県内の知的障がい児者の入所施設は、知的障害児施設が6施設(定員388人)、知的障がい者の施設が1施設(70人)、合計7施設(458人)のみという状況で、新たな施設整備の必要性が強く求められていました。
当時全国的に知的障がい者の福祉施設として、生活指導、職業訓練、授産等の機能と長期の居住施設を併せた大規模総合援護施設(コロニー)の整備が検討されており、長野県では全国に先駆けて知的障がい児、知的障がい者更生、知的障がい者授産の3つの機能を持った定員500人の施設として西駒郷が計画されました。
昭和43年に知的障害児施設及び知的障害者更生施設として更生訓練部(200人。その後190人に変更)が開設され、翌年、知的障害者授産施設として生業部(250人)が、昭和46年に重度者の知的障害者更生施設として保護部(50人。その後60人に変更)が順次開設され、以降30年以上、西駒郷は全県域を対象とした入所施設として、県内全域から知的障がい者の方々が入所されてきました。
なお、運営については、生業部の一部業務、給食業務等は当初から県社会福祉事業団へ委託されましたが、更生訓練部、保護部及び管理部門については、県が直接運営を行ってきました。
(2)社会状況の変化と役割の見直しの必要性
この間、民間の社会福祉法人による施設整備が進み、現在、入所施設は児施設が3施設(120人)、者施設が39施設(2,370人)で、合計42施設(2,490人)に増加し、10障害保健福祉圏域のそれぞれに施設が設置されています。
また、知的障害者福祉施策は、従来の施設入所中心から、ノーマライゼイションの理念に基づき、障がい者の方々が自分の生まれ育ったそれぞれの地域で生活できることを目指して、地域生活の支援へと施策の重点が転換し、各種の在宅福祉サービスの充実が進められています。
さらに来年度からは、社会福祉基礎構造改革に基づき、利用者の自己決定を尊重した利用者本位の社会福祉制度として、従前の措置制度が利用制度(支援費制度)に移行されるとともに、知的障がい者の更生援護事務の実施主体が市町村となります。
以上のように、西駒郷を取り巻く社会的状況は開所当時と大きく変化していますので、改築に際しては、これを踏まえて今後の県立施設としての役割、機能、定員等について見直すことが必要となっています。
知的障がい者の地域生活支援を推進するため、民間の社会福祉法人の設置した入所施設等において、通所事業を含めた各種の在宅福祉事業への取組みが進んできています。
西駒郷においては、平成12年から障がい児者地域療育等支援事業の指定施設として、上伊那圏域の在宅障がい児者に対する相談、サービス調整等の地域生活支援事業を実施していますが、今後さらに活発に事業を推進することが求められています。
西駒郷は、在宅福祉に係る事業としては、この障がい児者地域療育等支援事業と短期入所事業を実施してきましたが、今後は、通所事業を含めて、より一層障がい者の地域生活を支援する事業への積極的な取組みを検討することが必要となっています。
西駒郷においては、利用者の平均入所期間が14.5年、入所期間10年以上の利用者が全体の66%と入所が長期化しており、これに伴い平均年齢が39.4才、50歳以上の利用者が23%と、利用者の高年齢化が進行しています。
また、知的障がい者の在宅福祉サービスは、通所施設も含めて順次整備が進み、これに伴い比較的軽度の障がい者は地域生活が中心となり、施設入所は減少しています。その結果、西駒郷では、利用者のうち重度者が43%、最重度者が13%となり、重度者、最重度者の比率が増加しています。
さらに、利用者のうち自閉症、強度行動障がい、重複障がい等の者が増加し、多様化も進んでいます。
以上のように利用者の高齢化、障がいの重度化や多様化が進行しており、これに対応して、更生訓練、作業訓練等の支援内容の見直しや居住施設等の改善が必要となっています。
西駒郷は、建築後30年以上経過し、施設、設備の老朽化が進み、利用者の居住環境が悪化しており、保護者からもその改善が強く要望されています。
また、居室は4人部屋で、1人当たり床面積は国の施設基準の下限である3.3平方メートルとほぼ同じになっており、狭隘です。近年、新設される民間施設においては、施設利用者の居住環境の向上が進んでおり、個室や2人部屋が主流となってきています。国の施設基準の下限も、来年度から6.6平方メートルに改正予定であることが示されています。
以上のように、西駒郷利用者の居住環境は、プライバシーの面からも、また、精神的な安定の面からも好ましくなく、改善が必要となっています。
西駒郷における過去34年間の退所者は1,017人ですが、その半数の500人は悠生寮を中心とした他施設への施設間移動であり、就職又は家庭復帰による退所者は、414人にとどまっています。
西駒郷の利用者が中高年となったときの行き先として、保護者が中心となった社会福祉法人が悠生寮を県内各地に6施設設置し、利用者が終生にわたって施設入所を継続できる体制を目指してきました。一方、利用者が西駒郷を退所して、地域で生活することを支援する体制については、グループホーム等の生活の場の整備やこれを支援する各種在宅サービスの提供体制の整備への取組みが不十分でした。
その結果、現在の利用者のうち、支援を受ければグループホーム等での地域生活が可能と考えられる者は、現在の在宅福祉の水準においても、県の大まかな試算で、全体の約1月4日にあたる100人以上もいる状況となっています。
以上のように地域で生活することが可能な利用者の移行を進めるため、その支援体制の整備に積極的に取組むことが必要となっています。
西駒郷の今後のあり方を考えるに際して、長野県の知的障害者福祉の方向を再確認しておきます。
県は、本年3月に今後10か年間の障害者施策推進の基本的方向を示した新しい障がい者プランを策定しました。
その中で県は、「障がい者が自らの能力を最大限に発揮し、その人らしく自立した生活を送るとともに、障がいのある人もない人も誰もが社会の一員としてあらゆる活動に参画できるよう、「リハビリテーション」と「ノーマライゼイション」の理念のもとに、共に支えあう地域社会の中で、県民一人ひとりが、自らの生き方を自分らしく実現できる社会を創ること」を基本理念としています。
そして、ノーマライゼイションの理念に基づいた障がい者の地域生活支援の充実を今後の施策の重点とし、障がい者が地域生活をする上で必要なグループホーム等の生活の場、ホームヘルプサービス、タイムケア等の在宅福祉サービス、通所授産施設等の就労・日中活動の場、生活支援センター等による生活上の相談、支援体制などの総合的支援体制の整備を推進することとしています。
また、これらを支えるボランティアやNPO活動などの地域ぐるみの取組みを振興することとしています。
県の調査によると、現在在宅で県内の知的障害者施設への入所を希望している方は200人おられますが、一方、現在施設に入所している方のうち現時点でも地域生活が可能と考えられる方は、260人(現入所者の約1割以上)となっており、障がい者プランに基づいて、上記のように全県的に地域生活の支援体制を整備して、移行を促進していくことが必要となっています。
県内の知的障害者施設の状況は、民間施設の増加、障がい者の地域生活支援の重視など、西駒郷の開設時に比べ大きく変化しており、県の果たすべき役割も大きく変っています。
このような状況を踏まえ、西駒郷の改築の基本的な考え方を次のように提言します。
「西駒郷は、ノーマライゼイションの理念に基づいて、知的障がい者の地域生活を積極的に支援する施設として改築すべきである。」
具体的には、
上記の改築の基本的な考え方に基づき、今後の西駒郷の役割を次のように考えます。
ア段階的な転換
上記(3)の2.及び3.の西駒郷の今後の役割への転換は、数年から十年程度をかけて、次のように段階的、計画的に行うことが必要となります。
まず、今後の西駒郷への新たな入所は、上記の2.による全県域の重度者等及び3.による上伊那圏域内の者についてのみ行うこととします。
現在の利用者については、順次、段階的に地域生活への移行を進め、その就労の場として授産施設(生業部)を入所から通所へ、順次転換、縮小します。
なお、これらについては、具体的な計画を策定し、その進捗状況を管理し、到達度を測定することが重要です。
並行して、居住環境の改善に早期に着手し、進めます。
将来的には、3.の上伊那圏域の施設としての役割については、順次社会福祉法人等が担う方向へ進めていくことが適当と考えます。
イ市町村、社会福祉法人、NPO法人等との連携
西駒郷の今後の役割への転換に当たっては、地元の駒ケ根市、宮田村はもちろん、上伊那圏域、全県域の市町村、社会福祉法人、NPO法人等との連携が重要です。
特に市町村は、法改正により来年度から援護の実施者となるところでもあるので、県は西駒郷の今後の役割への転換について市町村の十分な理解を得るとともに、利用者の地域生活への移行のための支援体制の全県的な整備に協力を得ることが必要です。
また、社会福祉法人、NPO法人等には、サービスの提供主体として、各自の利用者の地域生活の支援に一層積極的に取組むことを求めるとともに、西駒郷利用者の地域生活への移行にも協力を得ることが必要です。
ウ職員の能力発揮
西駒郷の今後の役割への転換に関しては、職員(委託先の事業団職員を含む。)が積極的にその役割を果たすことが必要となります。
当然ながら、この提言は現在まで西駒郷が果たしてきた役割や職員の努力を否定するものではありません。これを評価した上で、ノーマライゼイションの理念に基づいた新しい役割への転換を提言しているものです。
新しい西駒郷の役割の中では、職員は今までの長期入所を前提とした生活指導、職業訓練から、地域生活への移行を前提とした指導、訓練を行い、実際の地域生活を支援していくことが主要な任務となります。
そのために県は、一人一人の職員が知的障がい者を支援するためのスキルを向上させるとともに、今まで以上に利用者の立場に立って、自覚と自信と誇りを持って、新たな任務に各自の能力を十分に発揮して取組むことができるように職員の士気を高めることが必要です。
以下の内容は、区分の都合上この項に記載しますが、後記(3)の上伊那圏域の施設としての役割にも該当するものです。
ア利用者の高齢化、障がいの重度化や多様化への対応
(ア)少人数ごとの支援形態
利用者の高齢化、障がいの重度化、多様化が進行しているので、これに対応するため、少人数によるユニットケアを支援の基本形態とすることが適当であり、このための施設、スタッフの体制について検討することが必要です。
(イ)高齢化への対応
高齢化に関しては、生活訓練、作業訓練の内容や健康管理などの支援面において、配慮が必要となるとともに、「親亡き後」の安定した援護の継続の問題として、保護者の皆様方にとっても重大な心配事です。
これに対応するため、西駒郷においては、前記のように利用者の高齢期の入所先として、保護者が中心となって悠生寮を整備してきましたが、西駒郷も悠生寮もその他の知的障害者更生施設も、いずれも制度上は更生のための指導、訓練施設であり、そこで生涯を送るための生活施設ではありません。制度上は、高齢化により介護が必要となった場合は、介護老人福祉施設(特養)等の介護保険サービスを受けることとされています。
しかしながら、現実的には介護保険施設は入所希望者が多く、なかなか入所できない状況であり、実際上は加齢により介護が必要となっても、更生施設への入所を続けざるを得ないことが考えられます。このため、西駒郷のバリアフリー化やスタッフの研修など、利用者の高年齢化への対応を検討することが必要です。
また一方、高齢者においても、地域生活への移行を進めていくことが必要です。
いずれにしても、高齢となっても、その援護は福祉制度全体の中で継続して支えるべきものであることを明確にし、「親亡き後」の保護者の心配を解消することが必要です。
(ウ)重度者に対する支援
重度者については、個別の支援プログラムに基づき、一人ひとりに適切な支援を行うことが特に重要ですので、個人支援プログラムの策定を今まで以上に適切に行うことが必要です。また、ユニットケアにおいては、障がいの重さによる区分でなく、利用者個人個人の特性や生活スタイル、支援の必要度合の別のグループ分けによる支援が適切と考えます。このようなことを通じて、施錠等の身体拘束のない生活支援への取組みをさらに進めることが必要です。
(エ)医療体制
医療が必要な利用者の増加については、精神科の医師の西駒郷への常時配置の要望もありましたが、件数や専門医の現状から現実的な方法とはいえません。
今後、隣接する駒ヶ根病院の定期的な回診や西駒郷スタッフと駒ヶ根病院医師との合同検討会の実施など、連携をより一層強化して、十分な医療体制の確保を図っていくべきものと考えます。
(オ)職員の体制
利用者の重度化、高齢化、多様化に対応していくためは、研修等により職員の専門性を一層高めることが必要です。
また、ケアの必要性や場合に応じた、より効果的、効率的な職員の配置の検討を通じて、利用者1人当たりの職員数等の体制を検討することが必要です。
イ居住環境の改善
西駒郷の4人部屋居室の現状は、利用者のプライバシー保護の面からも、精神的な安定の面からも、好ましくなく、早急に改善する必要があると考えます。
また、自閉症、強度行動障がいの支援上も個室化、少人数化が必要であり、居住環境の改善は訓練成果の点からも効果的であると考えます。
改築により、居室は、4人部屋を廃止して個室又は2人部屋とし、1人当たり面積も新しい施設基準(6.6平方メートル)に基づき、広くすべきです。
また、この居住環境の改善は利用者の毎日の生活の質に係る喫緊の問題ですので、直ちに着手し、次項に記載する利用者の地域生活への移行への取組みと同時並行で早急に進めることが必要と考えます。
具体的には、居住棟の建替、改修計画を早急に立てて、建築を進めることが必要ですが、これと併せ、自立訓練の拡充や地域移行の促進によって利用者が減少することを利用して、当面現在の居室の定員を4人から2人へ減少を図ることを目標とすべきです。
ウ利用者の地域生活移行への支援
(ア)地域生活への移行のための基盤整備
西駒郷の利用者について、グループホーム、福祉ホーム等の生活の場、授産施設等の就労・日中活動の場、生活上の相談、助言を行う生活支援センターの三つの面の地域生活支援体制を整備し、地域生活への移行を促進すべきです。
西駒郷の利用者の出身は、全県範囲にわたっているので、上伊那圏域のみならず、各圏域の社会福祉法人、NPO法人、市町村等に、地域生活の支援体制の整備を働きかけるとともに、その支援策の拡充を検討し、基盤整備を促進していくことが必要です。
特に、松本圏域と長野圏域からの利用者の比率が、それぞれ全体の26%、16%と高いので、両圏域においては、グループホーム、福祉ホーム、通勤寮等への移行に関して、具体的な計画を策定して行くことが必要です。
また、「地域住民の理解促進のための啓発活動」、「生活の場と日中活動の場を結ぶ移動手段の確保」、「地域生活での様々なトラブルから利用者を守るための権利擁護システム」を整備し、随時必要なサービスを提供する体制整備を検討することが必要です。
さらに、地域生活への移行を進めるに当っては、西駒郷職員の役割が大きいので、その必要性について職員の理解を一層深めることが必要です。
(イ)地域生活への移行の進め方
地域生活への移行は、利用者の人権を最大限に尊重して、次のように進めることが必要です。
(ウ)地域生活への移行促進において配慮すべき事項
地域生活への移行は、どのような場合においても、利用者の援護の責任を保護者に転嫁することなく、県が責任を持って進めるようにしなければいけません。
西駒郷の利用者は、入所が長期となっている方が多数おられ、これらの方々は、地域生活への移行やその後の適応に不安が大きいと思料されますので、トライアル(試行)制度として、利用者が地域生活への移行後に定着できなかった場合は、西駒郷への再入所を保障するセイフティーネットを確保する制度を設けるなどの配慮が必要と考えます。
エ利用者本位の開かれた施設運営
西駒郷が今後の役割を果たしていく中で、「利用者が尊厳を持って、その人らしい自立した生活が送れるよう支えていく」ために、サービスの質の向上と利用者の権利の擁護に積極的に取組むことが必要です。
(ア)サービスの質の向上
施設が提供するサービスの基本は、利用者一人一人の意思を最大限に尊重し(自己決定の尊重)、各自に応じた個別の支援プログラムに基づき提供されることにより、利用者のニーズを満たすことです。これを実現するためは、ニーズを把握し、支援プログラムを策定し、これを実行し、その結果を評価し、それに基づき必要なサービスの改善を行う一連の手法を、全職員の共通認識のもとに明確化することが必要です。
さらに、このように提供しているサービスの内容について、西駒郷が自ら点検し、評価(自己評価)を行うとともに、第三者による客観的評価(第三者評価)を受けることにより、サービスの質の向上を図ることが必要です。
(イ)利用者の権利の擁護
利用者のプライバシーの保護と基本的人権の尊重は、施設運営の基本であり、サービス提供の基本理念として全職員に徹底すべきものです。
利用者の権利を守るためは、利用者及び保護者から西駒郷側に対して、要望、意見、苦情を自由に言えることと、その意見等に西駒郷側が迅速に対応する体制の整備が必要です。
また、利用者及び保護者が、外部の障がい者権利擁護に関する相談機関や成年後見制度を利用することを積極的に支援することも必要です。
(ウ)開かれた施設運営
上記のようにサービスの質の向上と利用者の権利の擁護を推進するためには、西駒郷自身が情報公開を進め、積極的に外部の批評、意見を求めていく,開かれた施設運営を行うことが大切です。
具体的には、外部の有識者を委嘱して評議員会を設けること、福祉施設に対して活動しているオンブズマンを導入し、率直に批評を求めること等を検討することが必要と考えます。
ア知的障がい者福祉のセンター的機能
前記の長野県の障害者福祉施策の方向に基づいて、施設入所者及び地域で生活する障がい者の支援を向上させ、推進するため、西駒郷において、県内の知的障害者福祉のセンターとして、研究、研修等の事業を実施することが必要と考えます。
また、これに係る専門的なスタッフの充実を図ることが必要と考えます。
(センターで行う事業の例)
なお、知的障がい者更生相談所、自閉症・発達障がい支援センターの設置についても、併せて検討が必要と考えます。
イ重度者のセイフティーネット的機能
近年、自閉症、強度行動障がい、医療的ケアの必要度が特に高い者などの支援の困難な者が増加しており、これらの方々の援護を行っている民間施設の負担は増大しています。これらの支援の困難な方々の援護を民間施設のみに担わせることは、他の入所者の支援への影響や受け入れ先のないケースが生じることなども危惧されます。
そこで、これらの方々の援護については、引き続き民間施設が主体となりながら、西駒郷においては、特に支援が困難なケースを中心として、最重度者の最終的な受け入れ施設(セイフティーネット)としての役割を担うことにより、民間施設を支援するとともに保護者に安心感を与えることが必要と考えます。
その規模は、強度行動障がい等の特に支援の困難なケースを対象とすると、10~20人定員程度が適当と考えられます。
ウモデル事業の実施
前記アのセンター的機能のうちの知的障がい者の支援方法の研究の一環として、今後の重要な課題である障がい者の地域生活の支援に関して、先駆的、試行的、モデル的な取り組みを実施することが必要と考えます。
(例)
エ知的障害児施設機能
近年、養護学校高等部の整備に伴い、18歳未満の児童の施設入所者が激減しており、県内の知的障害児施設の定員数も順次削減されてきました。現在、3施設(定員120人)の入所状況は、入所者104人のうち18歳未満の児童は37人で、残り67人は18歳以上で障害者施設の対象となる方々です。
西駒郷においても、児童の新規入所は最近5年間で5人で、現在入所者24人中18歳未満の児童は1人であり、残り23人は18歳以上となっています。
このような状況を勘案すると、今後の一般的な知的障がい児の入所施設の機能は、同じ県立の信濃学園(松本市)が中心となって担うことで足りるものと考えられます。
一方、自閉症、ADHD児等への対応が新たな課題となっています。これらの障がい児は、医療や教育と連携して支援することが必要です。
このような状況を考えると、西駒郷の知的障害児施設の機能については、一般的な施設としての必要性はほとんどなくなったと言えるので、今後は駒ヶ根病院のあり方の検討と併せて、同病院と連携した自閉症児、ADHD児等の支援を行う機能への転換について検討することが必要と考えます。
ア知的障がい者授産施設の通所への転換
授産施設は、「雇用されることが困難な知的障害者に自活に必要な訓練を行うとともに、職業を与えて自活させることを目的とする施設」ですが、西駒郷の入所授産施設(生業部)は、入所期間が長期化し、本来の目的である自立、自活を目指す施設となっているとは言いがたい現状です。
国においても、「今後の知的障害者・障害児施策のあり方」(平成11年)の中で、授産施設については、地域で生活する障がい者の就労の場として位置付け、通所施設として整備を促進することとしています。
このような状況考えると、西駒郷の知的障がい者授産施設(生業部)は、現在の全県域を対象とした入所施設を、上伊那圏域の知的障がい者のための通所施設に転換することとし、それに必要な規模へと定員を順次縮小することが適当と考えます。
生業部の利用者のうち上伊那圏域出身者は現在50人ですが、他圏域出身者の内にも入所期間が長期化し、通所転換した場合も引続き利用を希望する方が相当数いることが予想されること、現在の生業部の設備の活用が図られること等を勘案すると、当面、上伊那圏域を対象とした西駒郷の通所授産施設は、50~100人定員程度が適当と思料します。
この通所施設への転換は、利用者の地域生活への移行と並行して、順次部分的に実施して行くことが適当です。
また、現在の生業部の利用者のうち、地域生活への移行が当面困難な利用者は更生施設へ移動したり、現在の更生施設の利用者が地域生活へ移行し、通所授産を利用するなど、生業部の通所転換に伴い、現在の各部の所属を利用者に最も適切な所属に見直すことや、周辺へのグループホームや福祉ホームの整備が必要となります。
上記は機能の転換についての提言であり、当然ながら現在の生業部利用者をそのまま通所に転換する旨の提言ではありませんので、誤解の無いように申し添えます。現在の利用者については、別の項(「改築の基本的考え方」、「現在の利用者に対する責任に基づく役割」)において提言しているとおり、県が責任を持って対応すべきです。
イ入所施設の機能
上伊那圏域の入所施設の定員は、圏域内の18歳以上の知的障がい者数対比62%で、他の9圏域の平均22%に比べて著しく高くなっています。これは、西駒郷が全県域を対象とした施設であったためで、当然の状況ですが、今後は上伊那圏域の入所施設として必要な規模へとしていくことが適当です。
18歳以上の知的障がい者数対比の全県平均26%で試算すると、上伊那圏域の入所定員は217人となり、民間の1施設50人を差し引くと西駒郷分は167人となります。また、現在の西駒郷利用者の出身圏域別内訳によると、上伊那圏域出身者は94人で利用者全体の21%のみとなっています。
これらのことを勘案すると、西駒郷の更生施設(更生訓練部及び保護部)は、現在の全県域を対象とした施設から、上伊那圏域を対象とした施設へ順次転換することとし、それに必要な規模(当面150~170人定員程度)へ順次縮小することが適当と思料します。
なお、この定員は、今後全県的に知的障がい者の地域生活への移行のための支援体制の基盤整備を進めることにより、将来的には漸減していくことができると考えます。
また、重度者を保護部として更生訓練部と分けて支援している現在の体制は、重度者にとって必ずしも適切な状況とはなっていないので、両部を統合し、前記(「重度者に対する支援」の項)のように、単に障がいの重さによるのでなく、利用者の行動の特性や支援の必要度合い別のグループ分けにより、支援を行う体制とすることが適当と考えます。
ウ地域生活の支援機能
上伊那圏域の知的障害者福祉の現状は、県立の入所施設である西駒郷の比重が極めて大きく、これに依存しているため、民間の社会福祉法人等による福祉サービス、とりわけ障がい者の地域生活を支援する体制整備が不十分な状況です。
今後西駒郷は、民間の社会福祉法人やNPO法人等がこれらに取組むことを促進、支援し、民間事業者による地域生活支援体制の整備を進めるとともに、それまでの間は、自らが中心となって、上伊那圏域における知的障がい者の地域生活支援を牽引する役割を果たすことが必要と考えます。
具体的には、コーディネーター、支援ワーカーを配置し、圏域内の地域生活障がい者の生活、就業上の相談指導、福祉サービス利用の調整を行うとともに、圏域内における、グループホーム等の生活の場、授産施設等の就労の場やホームヘルプ等のサービスの供給を民間事業者に働きかけ、上伊那圏域全体の知的障がい者の地域生活支援機能のレベルアップを図ることが必要と考えます。
また、重症心身障がい児(者)通園事業の実施についても、検討することが必要です。
本委員会は、検討の過程において、本年1月9日(第4回委員会)、西駒郷利用者及び保護者の方々との懇談会を行い、改築に関するご意見、ご要望を伺いました。
そこで述べられた保護者のご意見は、居住環境の早急な改善と入所の継続への強い願い、地域生活への移行に対する大きな不安であり、知的障がい者のご家族を持たれ、その療育に苦労を重ねてこられた保護者の切実な心情によるものでありました。
本委員会は、前記の「西駒郷の今後のあり方」の検討において、このような保護者のご意見を十分に考慮し、提言を取りまとめたものです。
県においては、今後の西駒郷の改築の実施に当っては、保護者の居住環境の早急な改善の強い要望と地域生活への移行に対する大きな不安に、十分な配慮をして進めることが必要です。
この2点ともいずれも重要ですが、特に地域生活の移行に関しては、既に記載したように、ノーマライゼイションの理念に基づき、障がいがあっても、地域で当たり前に生活を行うことができることを目指すこれからの障害者福祉施策の基本的な考え方に基づくものです。利用者ご本人の人権の尊重の観点からも、是非とも進めて行かなければならないものでありながら、今まで西駒郷においては、この取組みが十分とは言えませんでした。
今後県においては、早期にグループホーム等の地域生活支援体制を整備して、地域生活の具体的事例を見ることができるようにするなどにより、利用者や保護者の方々の移行に関する不安を解消し、必要性を理解されるよう努めることが緊要であると思料します。
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