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更新日:2025年3月25日
環境保全研究所
長野県の自然環境保全について、当研究所の研究成果を紹介するとともに、その現状と課題、保全に向けた取組について県民のみなさんとともに考えることを目的として開催しました(通算30回目)。
本年度は、北アルプスのライチョウの生息環境や保護活動について知っていただくことを目的に、以下のテーマと内容で開催しました。
質問1:冬が暖かくなってないことや、積雪が減っていないことは、体感と合っていないと思いますが、なぜでしょうか?
回答:体感だと印象的なことが記憶に残りやすいので、昔とても寒かった記憶や積雪が多かった記憶があると、近年は暖かくなったり、積雪が減ったりしているように感じると思われます。標高の低いところは、温暖化すると雪が雨に変わり、積雪が減ると思われますが、標高が高い所は多少温暖化しても雪は減りません。
質問2:夏に暖かくなっていて、冬に暖かくなっていないのはなぜですか?
回答:夏は冷やす要素がなく地球規模の温暖化の影響が出やすいのに対して、寒気の南下など冬は冷える要素が時々あるので夏に比べて暖かくなりにくいと考えられます。
質問3:諏訪だけが上昇しているという話がありましたが、なぜですか?
回答:湖水だけではなかなか冷えにくいですが、諏訪湖の周りは盆地の地形なので、周囲斜面の陸地が冷えて密度の高くなった冷気が溜まり、湖の水が凍ると急激に冷えていきます。近年は湖の周りに人が住み、住宅の暖房の熱で周りの陸地からの冷気が湖に入りにくくなり、余り冷えないので凍結しにくくなっています。冬の気温が上昇していると言うよりも、とても気温が低くなる冬が無くなっていると言うことだと思います。
質問4:ガンコウランとコケモモとライチョウの世界的な分布が重なっているとのことですが、腸内細菌も共通するのでしょうか。
回答:ガンコウランもコケモモも分布が似ています。腸内細菌については情報がないのでわからないものの、一緒に進化してきた可能性もあると思います。
質問5:岡本さんの発表では飼育下のライチョウにはガンコウランは好まれていなかったとのことでしたが、尾関さんの発表で野生のライチョウはガンコウランをついばむ回数が多かったとのことでした。この違いはなぜ生じたのでしょうか。
回答:岡本さんの結果は飼育下のヒナ、尾関さんが紹介した研究は野生下の観察で、ヒナの他に成鳥も含んでいたという点による差異だと思います。また、飼育下で小松菜とガンコウランを並べると、柔らかい小松菜を好むというのもあると思います。
質問6:GPSロガーを装着するときに、ライチョウはどうやって捕獲するのでしょうか?
回答:捕獲方法については、真似して捕まえようとする人が出ないよう、お話ししないことを基本方針としています。捕獲にはいろいろな方法があり、海外では犬で追って捕まえる、手でつかむなどの方法も行われています。
質問7:GPSロガーのアンテナはライチョウの生活の支障にならないのでしょうか?
回答:適切に装着すれば問題ないと思われます。かわいそうだからとゆるめに装着すると逆に支障になり得ます。
質問8:GPSの精度が悪い地点や良い地点の割合は?
回答:森林性の鳥だと精度は落ちますが、ライチョウの場合は密なハイマツの中に入らなければ精度は比較的良いです。
質問9:GPSのポイントが広葉樹の中に落ちていましたが、何をしているのでしょうか?
回答:ライチョウは越冬期にはダケカンバの冬芽を食べますが、冬以外も食べることがあります。林床の草本も食べます。
質問10:中央アルプスで1羽見つかったライチョウの飛来してきたルートは?
回答:わかりません。白山でもメス1羽が数年間居ついたことはありましたが、その飛来ルートはわかっていません。遺伝子解析では北アルプスから来たと考えられています。
質問11:ニホンジカの増加はライチョウに影響を及ぼしますか?
回答:ニホンジカもライチョウも様々なものを食べます。ライチョウが食べる場所は風衝草原や高山ハイデが主なので、ニホンジカの影響はそこまで出てないと思われます。ニホンジカにとっては高茎草原が良い餌場なので、高茎草原では劇的に変化が起こると思われます。
質問12:ニホンライチョウを中央アルプスに野生復帰させることが現実になったとき、生態系への影響にはどのようなものが考えられますか?
回答:中央アルプスからライチョウがいなくなってから何年くらい時間が経っているかが重要です。中央アルプスの場合は数十年くらいなので、ほとんど影響はないと思います。一方で、例えば北海道の山岳はライチョウがいなくなってから数万年といったかなりの時間が経過しているので、風衝草原の植生に影響が出るかもしれません。
質問13:大町山岳博物館から中央アルプスにライチョウを移送中に3羽亡くなってしまいましたが、その原因は?
回答:移送時の高温状態に対するショックの影響を強く受けて死亡してしまった可能性が考えられます。移送の経験不足により温度管理が不十分でした。冷房はかけていましたが、温度が上がってしまいました。ただし、解剖等による検査の結果では、直接的な高温による影響は検出されませんでした。
質問14:今回の野生復帰でどのような学びがあり、今後、どのように生かしていきたいですか?
回答:移送方法を見直すこと、他の動物園の事例と情報を共有しつつ、例えばライチョウがかなり幼いころから細かく刻んだガンコウランを給餌することでガンコウランの味に慣れさせてみること、などがあります。
質問15:サルの追い払いは生態系の保全としてどうなのでしょう?
回答:専門家の方に相談しながら進めていますが、サルの追い払いについては賛否両論あります。ライチョウ保護の観点からは、一時的にサルの追い払いをすることは問題ないと考えています。
質問16:ライチョウが生息する山域に応じて遺伝子レベルの違いはありますか?
回答:論文によると、日本のライチョウに関しては遺伝的な差異は大きくないものの、北アルプスの集団と南アルプスの集団には若干の差異があることから遺伝的な交流は少ないと考えられます。北アルプスの集団の中で北から南、南アルプスの集団の中で北から南、という交流はあります。
質問17:ライチョウを野生復帰させるにあたって留意することは?
回答:遺伝的に差異がないということで、今の中央アルプスの復帰事業が始まっています。域外飼育するにしても、南アルプスで生まれた個体は南アルプスに戻すことが大事です。
質問18:ライチョウの棲み処としての山岳環境は今後どうなっていきますか?
回答:富士山と甲府の気温の違いで説明しましたが、高い山ではあまり気温は上昇していません。富士山や乗鞍休暇村では、長期的にみるとあまり気温は変化していません。積雪は年による変動が大きいですが、山の雪も減少していません。これだけ温暖化していると言われている中で、日本には氷河が9つも残っているので、これからも山の雪は減らないのではないかと思われます。植生の研究をしている方の話では、高山帯の植生は長期的には変化していないという研究もあります。
質問19:今後、気温や雪が変化するとしたら、ライチョウにどのような影響があると考えられますか?
回答:樹林帯が標高の高いところに上がり、風衝草原が減って、ライチョウの生息環境が狭まりよくないと思います。
講座への満足度:満足・おおむね満足が51名(86%)
参加年代:58%が60-70代、20-30代は14%
研究所の認知度:63%が研究所を知っていた
興味深かったのは?:どれも興味深かった
特にGPSロガーと野生復帰を挙げた方が多かった
開会あいさつ
講演
質問タイム
企画展示「五感で知るライチョウと高山帯調査」
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