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更新日:2023年1月30日
水産試験場
シナノユキマスの採卵とふ化
水産試験場佐久支場は千曲川の河川水でシナノユキマスを飼育しており、水温は夏期には20℃前後まで上昇し、冬期には水温1~3℃に低下します。サケと異なり産卵後も死なず、一生のうち2~3回は産卵します。産卵期は水温が7~8℃に低下する11月中旬から始まりますが、12月上・中旬が産卵盛期となります。
採卵作業は、産卵期の雌の中から卵が搾出できる個体を選び出すこと(熟度鑑別)から始めます。薄氷の張るほど冷たくなった親魚池に入り、引網で親魚を一か所に寄せてきて、1尾ずつ腹を手で触って卵が出る雌を選び出します。この際、精子の出る雄も選んでおきます。
採卵は、体表の水をタオルで拭いて、背中側の尾柄部を左手で支え、右手の親指と人指し指、中指で腹側の胸部から肛門に向けて軽くしごき、ボールに卵を搾出します。1尾の雌からは体重500gサイズで約10,000粒、体重1kgサイズで約20,000粒の卵が採卵できます。
受精作業は、タライやバケツ等に良卵を集め、卵3kgに対し精子5mL程度をスポイト等を使って直接卵にふりかけ、全体がよく混ざるように手で静かにかき混ぜます。この段階で水を注ぐと精子が活性化して数秒で受精が完了します(乾導法)。
採卵作業 |
水を注ぎながら静かに撹拌 |
受精卵は、若干の粘着性があるので、受精後4~5時間は水をかけ流したタライに静置しておき、卵管理専用のビン式ふ化器に収容します。
ビン式ふ化器は、一升ビンの底を切って2つを貼り合わせた構造で、給水は下から水量調節バルブを経て行われ、排水は上端部のホースを経てふ化仔魚収容槽に集めるようになっています。
受精から発眼(眼が形成され卵が黒色に見える)まで約1か月かかり、さらにふ化までは約1か月半の日数を要します。その間、ふ化ビンの中に収容された卵は死んでしまうものも多く、発眼卵まで生き残る卵(これを発眼率といいます。)は40~60%ぐらいです。死卵を放っておくと水カビが繁茂して水の流れが妨げられ、さらに多くの卵が酸素不足で死んでしまうことになりますので、卵管理ではこまめに死卵を取り除きます。
受精卵をビン式ふ化器に収容 |
発眼して黒く見えるようになった卵 |
シナノユキマスのふ化は2月下旬から始まり、3月になって水温が上昇する暖かい日にはふ化が集中します。ふ化仔魚は全長10mm程の大きさで、ふ化直後の仔魚は水流に乗って浮上し、ふ化ビンの排水から流れ出て収容槽に集まります。仔魚はサケ・マス類の仔魚と異なり、大きなサイ嚢(鶏卵の黄身に相当する所)がなく、ワカサギやアユ仔魚のように生まれてすぐに餌を食べるようになります。
ふ化仔魚は、プランクトンを繁殖させた池(あらかじめ12月以前に鶏糞等で施肥をした池)に放流します。ここで、ふ化仔魚はワムシやミジンコ等の動物プランクトンを餌にしますが、アユ仔魚用の微粒子配合飼料を併用することで生残率も高くなり、4月下旬には体重0.1g前後の稚魚にまで成長し、池壁に沿って群れで泳ぐようになります。
最近では、小規模な施設でも稚魚生産ができる流水式円形水槽(山形水試考案)も用いられています。
直径50cm程度のタライを加工して、中央部底面に排水パイプを取り付けたものです。注水部を塩ビパイプ等を利用して水量調節可能にしておけば、一定方向の流れを円形水槽内に作ることができ、残餌や糞を中心部排水口付近に集める効果があります。
シナノユキマスは、仔魚期から水槽壁に沿って一定方向に回遊する習性があるので、仔魚から稚魚期の人工配合飼料による飼育に適しており、仔魚ならば1水槽2,000尾程度は収容可能です。
初期の給餌管理は、微粒子配合飼料を1.5~2.0gを1日8回以上に分けて与えることと、水質管理面での掃除が重要で、これを怠ると生残率や成長が低下します。なお、給餌については市販の熱帯魚飼育用のフードタイマーを補助的に利用して、成長にあわせて徐々にマス用配合飼料に切り替えていきます。流水式円形水槽での飼育では0.1gの稚魚になるのに約60日を要し、5月中旬頃には50平方メートルの屋外池に移動して自動給餌器による飼育に切り替えます。
体重1g以上になった稚魚は長野県漁業協同組合連合会を通じて県内の各養殖業者と漁業権設定湖沼のある漁協に放流種苗として出荷します。また、残りは種苗生産用親魚候補として大切に飼育します。
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