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更新日:2024年11月19日
長野県の生物多様性について
「生物多様性ながの県戦略」により、「人と自然が共生する信州」の実現へ向けて多くの皆様との協働によって取り組んでいます。
令和5年度からは、第五次長野県環境基本計画(令和5年3月策定)における「生物多様性・自然環境の保全と利用」を「第二次生物多様性ながの県戦略」として位置付けています。
平成24年2月策定の「生物多様性ながの県戦略」
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最近「生物多様性」という言葉が良く聞かれるようになりました。国際的な会議で取り上げられるだけでなく、テレビや雑誌などでも度々特集が組まれています。
しかし、いまだにその認知度は低く、言葉は聞いたことがあっても、その意味や内容についてはわからない方が多いのが現状です(内閣府の調査(令和4年度実施))(外部サイト)(別ウィンドウで外部サイトが開きます)。
「生物多様性」とはいったい何でしょうか?
実は決まった定義がなく、以下のようにさまざまに定義されています。
すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。
様々な生態系が存在すること並びに生物の種間及び種内に様々な差異が存在すること。
長い時間をかけた自然界の試行錯誤の結果として、さまざまな環境に見合った種類や量の生物が本来あるべき姿で存在する状態が生物多様性の良好な姿であると考えられます。
このように定義も多様な生物多様性ですが、共通しているのは、単にいろいろな種類の生き物がいるという「種の多様性」だけではなく、生き物の生息・生育する場所である「生態系の多様性」、さらに同じ種の中にも遺伝的な違いがある「遺伝子の多様性」の3つの要素があるということです。
以下で、長野県の3つの生物多様性についてご紹介します。さらに、生物多様性の現状と課題についても順に紹介していきます。
(注)内容詳細は、長野県環境保全研究所作成の「長野県生物多様性概況報告書」をご参照ください。
生態系とは、森林・草原・河川などのあるまとまりを持った自然環境と、その中に生息・生育する生き物で構成される空間のことを指します。
長野県は本州のほぼ中央に位置し、日本アルプスをはじめ3,000m級の山々が連なる山岳県で、「日本の屋根」とも呼ばれています。盆地も点在しており、県内での標高差は3,000mにも達します。また、大河川の源流が県内にもいくつも流れており、生き物にとって幅広い環境が提供されています。
さらに、フォッサマグナ(東北日本と西南日本の境目とされる地溝帯)や中央構造線による複雑な地形地質に加え、日本海型と太平洋型の両方の気候の影響を受けるという多様な環境条件が、長野県の「生態系の多様性」を育んでいます。
(写真提供:長野県観光協会、長野県環境保全研究所)
1つの生態系をとってみても、動物や植物、菌類などのさまざまな生き物、言いかえれば多様な「種」(生き物の分類上の単位)が生息・生育しています。このように、いろいろな種類の生き物がいることを「種の多様性」と言います。
多様な生態系を有する長野県では生き物の種数も多く、調査が進んでいるチョウ類では、県内で148種が確認されており、国内でも有数の生息種数を誇ります。また、維管束植物は約3000種が確認されており、この数は日本全体に生育するとされる約7000種のおよそ4割を占めています。その中には、タデスミレやコマウスユキソウなどのように長野県だけに生育する固有種も多く含まれています。
(写真提供:花岡敏道氏、長野県環境保全研究所)
同じ種であっても、個体ごとの遺伝子の組み合わせは少しずつちがっていることがあります。このような遺伝子の組み合わせの多様性を「遺伝子の多様性」と言います。
地質的に西南日本と東北日本の境であり、日本海側と太平洋側の分水嶺(異なる水系の境界線となるところ)でもある当県では、同じ種であっても遺伝的に異なるタイプが異なる地域に生息している例が多数確認されています。
たとえばゲンジボタルでは、東日本と西日本のグループで発光間隔の違いが見られ、東日本グループは4秒に1回、西日本グループは2秒に1回発光することが知られています。しかし、長野県中南部に、この中間型である3秒に1回発光するタイプが存在することが確認されました。
このように同じ種の生き物であっても、生息・生育している地域が違うと遺伝子が異なっている場合があり、このような「遺伝子の多様性」は生物多様性の重要な要素です。
私たち人間は、生物多様性によりもたらされる多くの「恵み」によって毎日の生活を支えられています。食物や木材などだけではなく、私たちが普段実感しにくいものまで、私たちが受けている恵みは非常に多岐にわたっています。
【地域の伝統文化】 | 【木材を使った食器・住宅・家具】 | 【観光、景観を楽しむ】 |
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(写真提供:長野県環境保全研究所)
私たちが毎日、口にするもののほとんどが生き物です。ご飯、肉・魚、野菜・果物、油に香辛料など彩り豊かな食事を楽しむことができるのも、生物多様性の恵みのおかげです。
今後、生物多様性が損なわれていくと、私たちの食事はどうなってしまうのでしょうか。
もしかすると、右の写真のように毎日毎日同じ食事・・。
こんなことにもなりかねません。
私たちは、花や紅葉、鳥の鳴き声などを「美しい」「癒される」などと感じる心を持っています。以下に示したように生き物の恵みは、物資の供給だけでなく我々の精神や文化にも及んでいます。
普段なかなか実感することが難しいですが、例えば森林は土砂崩れを防いだり、気象条件を緩和したりと、自然環境はそれ自身を安定的に保つ機能を持っています。多くの動植物の生態系を、生態系自身が支えている。生物多様性は全ての生命が生きる基盤を整えています。
このように私たちの生活は、生物多様性によって支えられています。生き物の恵み無しには私たちの生活は一日として成り立たないでしょう。
しかし、私たち人間が生物多様性の恵みに注目し始めたのは、ごく最近のことです。なぜ近年、生物多様性が注目されているのでしょうか。
その理由は残念なことに、人間の影響で、生物多様性の状態が非常に悪くなっているからです。
生き物はお互いにさまざまな関係を持ち、支え合いながら暮らしています。あたかも右図の組木のように。ブロックが1つ消える、つまり1つの種が絶滅してしまった場合、少しであれば補いあって保たれますが、度が過ぎると崩壊してしまいます。
このように、生物多様性の崩壊は、その恵みに支えられている私たちの生活基盤が崩壊することにほかなりません。
生物多様性は地球の40億年の歴史によって作り上げられたものです。一度崩れると、その回復は大変困難、もしくは不可能です。将来世代にこの恵みを残す為にも、私たちは自らの行動に責任を持たねばなりません。
生物多様性に関しては、1992年にブラジルのリオデジャネイロの地球サミットで重要な環境課題として「生物多様性条約(CBD)」が採択されました。この条約は1.地球上の多様な生物を生息環境とともに保全、2.生物資源を持続可能であるように利用、3.遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分、の3つを主な目的としています。
また、2022年には中国昆明市において「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」が開かれ、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(外部サイト)(別ウィンドウで外部サイトが開きます)」が採択されました。昆明・モントリオール生物多様性枠組では、2050年までの長期目標と、その達成のために2030年までに実現すべき戦略目標を掲げています。
日本では、生物多様性条約第6条に基づき、施策を総合的かつ計画的に推進するため「生物多様性国家戦略」を1995年に策定し、以降複数回の改訂が行われています。その後、愛知目標やこれまでの国家戦略の実施から得られた経験や教訓を踏まえ、2023年に「生物多様性国家戦略2023-2030」として改訂され、取組が進められています。
国際NGOコンサベーション・インターナショナル(CI)では、地球規模で生物多様性が高く、かつ破壊が進んでいる地域を、緊急に保全すべき「生物多様性ホットスポット」として発表しました。ホットスポットは地球の陸地全体のわずか2.3%の面積しかありませんが、もっとも絶滅が危惧されている生物のなかで、哺乳類・鳥類・両生類全体の75%、さらに維管束植物の50%、陸上の脊椎動物の42%がその狭い地域に生息・生育していることが分かっています。
そしてこのホットスポットとして、日本列島全体が指定されています。
日本列島のなかでも特に長野県内には全国的に見ても固有種が多く、下の図のように絶滅危惧種も数多く確認されています。このことからも、長野県はホットスポットの中のホットスポットと言えます。
【長野県に生育・生息する野生動植物種の内で絶滅が心配される種の割合(資料:長野県版レッドデータブック)】
日本国内における生物多様性の損失の原因として2002年の「新・生物多様性国家戦略」では「3つの危機」が挙げられ、2014年の「第三次生物多様性国家戦略」では、第4の危機として「地球温暖化による危機」を挙げ、以降の戦略でも「地球環境の変化による危機」として引き継がれています。
当県における4つの危機の現状と、現在おこなわれている対策の一例を紹介します。
「第1の危機」とは、人間の活動や開発による種の減少や絶滅、生態系の破壊などの危機のことです。
第1の危機のなかでも、開発や工事は、生息地の破壊など生き物に直接的なインパクトを与えています。美しい山野草や昆虫などは、過剰な捕獲や採取による影響もでています。子どもたちが自然に親しむための昆虫採取は推奨すべきものですが、販売目的など、希少になればなるほど捕獲・採集圧が強くかかるような状況は数の少ない種にとって大きな脅威となっています。
この他にも、高山や湿原に生育する植物に対しては、登山者の増加などによる踏みつけの被害が問題となっています。
【現在おこなわれている対策】
「第2の危機」とは、第1の危機とは逆に、人間の働きかけが減ったことによる影響です。
雑木林(二次林)や草原等の里山の自然がその代表例です。たとえば草原は、人間が火入れや草刈り、放牧を行うことにより維持されてきました。このような草原を半自然草原といいます。温暖で雨の多い日本では、半自然草原は人間が手を加えないと、樹木が成長し森林へと変わっていきます。私たちの生活様式の変化により草原を利用することが激減した結果、森林化が進み、半自然草原は推定で県の総面積3%程度にまで少なくなってしまいました。
その結果、オオジシキ・ノビタキ・コヨシキリ・イヌワシなどの草原に暮らす生き物の絶滅の危険性が増しています。チョウ類では、過去30年以上県内で記録のないオオウラギンヒョウモン、ヒョウモンモドキ、県の指定希少野生動物のオオルリシジミやチャマダラセセリなど多くの草原性の種類に絶滅の傾向が見られます。
【草原】 | 【草原の火入れ】 |
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(写真提供:長野県環境保全研究所)
さらに近年、野生動物(カモシカ・ニホンジカ・イノシシ・ツキノワグマ・ニホンザルなど)の分布拡大による農林業被害などが問題となっています。
特に、ニホンジカは農林業被害だけでなく自然植生にも影響を及ぼし、生物多様性の大きな脅威の1つとなっています。貴重な植物の被食や、樹木の皮剥、林床植物の食い尽くしやそれにともなう土壌流出など、その影響は南アルプス等の高山帯においても脅威となっており、対策が急務となっています。
【現在おこなわれている対策】
【リンク】鳥獣保護管理に関して⇒林務部森林づくり推進課
「第3の危機」は、人間により持ち込まれた外来種や化学物質による影響です。
近年、県内でも数多くの外来種が確認されています。たとえば植物では、昭和23年(1948年)の記録では68種でしたが、平成19年(2007年)までに445種が確認されるまでになりました(長野県植物誌、1997;長野県植物誌補遺1~9、1998-2007)。
日本は島国であり、さらに多様な生態系を有することから、各地域で固有の生き物と生態系が進化しています。中でも長野県は特に固有性が高く、外来種の侵入・定着により、元々そこにあった生態系が改変されてしまう恐れがあります。
例えば、地域に植物を増やそうと植栽する際に、例え国内で一般的に見られる種であったとしても、他の地域から持ち込んだ場合には遺伝子が異なっている場合があり、結果として地域の固有な遺伝子の撹乱(かくらん)を招くおそれがあります。特に長野県には固有種が多く生息・生育しているため、遺伝子の多様性が非常に豊かです。その分、遺伝子の撹乱が起こりやすいともいえます。他地域から生き物を持ち込む際には、くれぐれもご注意ください。
また、現在私たちが日常使っている多くの化学物質のなかには、生態系への影響が指摘されているものもあります。生態系への影響などが広く指摘された結果、減農薬の取組も広く行われるようになりましたが、他国と比べると依然として日本は農薬の使用量が多いことが報告されています。
【現在おこなわれている対策】
【リンク】環境にやさしい農業、有機農業などに関して⇒農政部農業技術課
地球全体で生じる気候変動が、生物多様性を脅かす大きな要因となりつつあります。県内での年平均気温の変化を見ても、1980年代後半から気温が上昇しています。
IPCCの第4次評価報告書によると、今世紀末の地球の平均気温は最大で約4.0℃上がると予測されています。その場合、地球全体に暮らす野生生物の40%以上が絶滅するとみられています。このような予測がある一方で、当県の生物や生態系への影響については十分に明らかになっていません。以下に、長野県内で起こりうる影響の一例を示します。
【リンク】地球温暖化対策について⇒環境部ゼロカーボン推進室
このような危機に私たちはどう行動すべきか。
長野県では、私たち県民の生活の基盤である生物多様性を保全し、同時に持続的に利用する社会の実現を目指すため、本県の特性を踏まえ、施策や活動の方針を示す「生物多様性ながの県戦略」の策定に着手しました。
県では、生物多様性のあるべき姿と、2020年までに行政や県民、事業者等が取り組むべき生物多様性づくりに関する施策や行動規範を示し、生物多様性の保全にかかわる人たちの連携を支援していきます。
県戦略に掲げた取組については、県民一人ひとりがプレーヤーとなって、地域での活動につなげていきましょう!
~「知る」から「行動」へ~
生物多様性は、私たちの日常の暮らしと深い関わりがあり、かけがえのないものです。
私たち一人ひとりがそのことを深く理解するには、まずは生物多様性に関心をもち、自然の中で生き物と触れ合い、豊かな生物多様性を実感してみましょう。
私たちの子どもやその次の世代もその恵みを受けられるようにするためには、便利さばかりを求める生活から、自然や生き物に配慮した生活に変えていく必要があります。
「生物多様性」に対して私たちができることを考え、実践していきましょう!
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