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更新日:2021年8月18日

林業総合センター

研究報告34号(2020)

高齢級人工林の管理技術に関する研究(p1-10)

大矢信次郎・戸田堅一郎・柳澤賢一・西岡泰久*

高齢級カラマツ人工林の樹高成長特性を明らかにするため,以下の試験を行った。(1)116年生カラマツ人工林の胸高直径に及ぼす各種因子を解析した結果,樹冠占有面積及び樹冠長との相関関係が認められ,大径材生産のためには樹冠サイズの拡大が重要であることが確認された。(2)114年生カラマツ人工林において,伐倒木の梢端部分の年輪解析を行った結果,100年生を超えても最大0.4m/年程度あったことが判明した。(3)航空レーザー測量による17齢級以上のカラマツ人工林の樹高測定データを既往の樹高データに加えて樹高成長曲線を作成した結果,17齢級以上の曲線は既往のデータの延長線上にあり,おおむね適合していると考えられた。また,人工林の高齢化に対応するため,以下の施業技術を検討した。(1)胸高直径の大径化が伐倒及び造材作業の生産性に与える影響を明らかにするため,個体ごとの各作業の生産性を解析したところ,各作業の生産性は胸高直径と正の相関関係が認められたものの,従来サイズのプロセッサの能力を超える立木サイズでは,作業効率の低下も示唆された。(2)過去に2残1伐の列状間伐を行ったカラマツ人工林において搬出間伐の手法を検討した結果,生産性,コスト,残存木損傷の面からは,再度列状間伐を行うことが現実的な選択肢となることが示唆された。

キーワード:高齢級,樹高曲線,大径材,航空レーザー測量,生産性

カラマツの天然更新を活用した革新的施業技術の確立(p11-20)

大矢信次郎・清水香代・今井信

カラマツの天然更新の確実性を高めるため,4~5月の雌花着花の見極め,種子落下前の9月までの伐採と地表処理,母樹の樹高以上の伐開幅の確保,等を組み合わせることによって,カラマツ実生の発生と定着,成長を促進することが可能であることを確認した。また,天然更新材の特性を調査した結果,天然更新材は人工植栽材と年輪幅・強度とも差が認められず,その原因は除伐等の施業や気象害による立木密度の低下によるものと考えられた。

キーワード:カラマツ,天然更新,伐採幅,成熟材,未成熟材,木材強度

カラマツ種子の安定供給のための技術開発-採種園カラマツへの着花促進処理と採種方法の検討-(p21-30)

清水香代・西岡泰久*

近年のカラマツ再造林において必要なカラマツ種子を安定的に確保することを目的として,着果促進処理のうち物理的処理とされる環状剥皮やスコアリング処理を行った。その結果,品種間で差があるものの,処理区は対照区と比較して平均雌花着花指数と当年生から3または4年生枝の雌花着花数が増加した。また,列状に受光伐を実施し光環境を改善した場合も平均雌花着花指数が増加した。さらに,着生した球果を安全かつ効率的に採種するため,高所作業車による採種を検討した。その結果,着果指数4以上の場合,トラック式及びクローラ式高所作業車の1時間あたり球果採種量は,ツリーワーク用品を用いて木に登る従来方法と比較してトラック式で2.0倍,クローラ式で3.2倍となった。

キーワード:カラマツ,環状剥皮,スコアリング処理,受光伐,採種効率

優良苗の安定供給と下刈り省力化のための一貫作業システム体系の開発-緩傾斜地から中傾斜地における機械地拵え作業の生産性とコスト-(p31-40)

大矢信次郎・中澤昌彦*・猪俣雄太*・陣川雅樹*・宮崎隆幸*・髙野毅・戸田堅一郎・柳澤賢一・西岡泰久*

皆伐と再造林を一連の作業として行う伐採・造林一貫作業が全国各地で実施され始め,皆伐時に使用した伐出機械を地拵え等に利用することにより,再造林作業の効率化とコストの低減が期待されている。本研究では,長野県の皆伐地4か所の緩傾斜地から中傾斜地において,バケットおよびグラップルローダによる機械地拵え作業を行い,その生産性とコストについて人力地拵え作業と比較した。その結果,同試験地・同傾斜の人力作業と比較して,両機械による地拵えの労働生産性は約2~12倍に増加,コストは14~90%に減少し,コスト削減効果が認められた。枝条量が少ない場合は両機械ともコスト削減効果が高い一方,枝条の量が多い場合は特にグラップルでは低コストになりにくいことが示され,機械地拵えのコストには枝条量が大きく影響していた。また,バケット及びグラップル地拵えの生産性と傾斜及び枝条層積の関係から重回帰式を求め,伐採前の林況から皆伐後の枝条量を推定した結果,バケット地拵えの生産性は予想枝条量と傾斜から皆伐前の予測が可能と考えられた。

キーワード:機械地拵え,一貫作業,枝条層積,傾斜,生産性予測

優良苗の安定供給と下刈り省略化による一貫作業システム体系の開発-コンテナ苗生産・種子の品質評価-(p41-46)

清水香代・飛田博順*・松田修*・岩倉宗弘*

再造林時に用いられているコンテナ苗は,一貫作業に使用される苗木としても期待されている。しかし,大部分のコンテナ苗は,発芽率が低い種子を使用しているため,直接播種することができず,1年生幼苗を移植せざるを得ない。その結果,育苗コストがより多くかかることで苗木の価格が高額になっている可能性がある。そこで,本研究ではコンテナ苗の作成方法に焦点をあて,直接多粒播種と直接1粒播種による作業時間を調査した。その結果,1年生幼苗移植と比較して直接1粒播種では作業時間が約66%に抑えられた。あわせて種子の発芽率を向上させるため,充実種子選別装置を用いて県内産カラマツ種子の選別を行い,その効果を検証した。その結果,充実種子と判定された種子はシャーレ内平均発芽試験が30日後に92%に達し,十分な発芽能力を備えていることが確認できた。

キーワード:コンテナ苗,移植,発芽率,直接播種

シカ等に対する新たな物理的防除を中心とした森林被害対策技術に関する研究(p47-64)

柳澤賢一・清水香代・大矢信次郎・秋山巌・西岡泰久*・岡田充弘*

シカ被害の防除対策である防護柵,単木保護資材,獣害忌避剤のそれぞれについて,低コスト化を目指した処理方法を開発・検証した。また,林業被害額の大きいカモシカとクマの被害に対応できる方法の検証もあわせて行い,複数獣種に対応した低コスト防除手法の提案を行うことを目的とした。その結果,防護柵については,小面積の簡易柵で支柱の側面側に立木を使用しすべての支柱に控え支柱を設置する方法,または斜面上下面の簡易柵の支柱に立木を使用した方法が,シカの侵入リスクが小さくトータルコストを抑えられる方法として,有効と考えられた。一方,簡易柵のネットが脱落した場合は15日ほどでシカが柵内に侵入したことから,台風等で柵の破壊が想定される時は,早急に見回りと補修をする必要がある。単木保護資材については,伸縮性のあるネットがシカとクマ両種の剥皮害防止に効果があった。ネットを樹幹に固定することで,長期的にメンテナンス頻度の低い低コスト防除となる可能性がある。忌避剤については,毒性が低い天然物の「硫黄」を有効成分とした散布型忌避剤を水で10倍希釈しヒノキに散布した結果,既存の登録薬剤以上の効果を示し,カモシカ食害防止に対して有効であった。また,本剤をさらに低濃度の20倍希釈で散布しても対照薬剤より有意に食害を軽減したことから,低コスト処理の可能性がある。

キーワード:ニホンジカ,防護柵,単木保護資材,獣害忌避剤,低コスト

ホンシメジ等の菌床栽培技術の開発(p65-80)

古川仁・片桐一弘

ホンシメジの菌床栽培技術の開発は,これまで西日本を中心に収集された菌株を用いて行われてきたが,本研究では長野県内を中心とする東日本で収集されたホンシメジ類38菌株を用いて検討した。その結果ホンシメジ4菌株が子実体形成可能なことを確認した。またこのうちAT2155(ホンシメジ)は環境適応範囲が広いことも合わせて確認した。また,培養時の乾燥対策として培地に吸水させる手法を検討し,今後の栽培技術として活用できる可能性も見出した。

キーワード:ホンシメジ,菌床栽培,菌株収集,吸水,子実体形成

「美味しさ」に着目したきのこ栽培技術の開発-ナメコの味の数値化-(p81-94)

増野和彦・城石雅弘*・中村美晴*・古川仁

美味しいきのこの生産技術開発の第一歩として,味の数値化の可能性を検討した。その結果は以下のとおりである。(1)味認識装置により系統間差,培地組成別,栽培形態別,収穫時期別,栄養材添加量別の観点からナメコ子実体の味の数値化を試みたところ,旨味,旨味コク,苦味雑味,苦味,渋味,渋味刺激が検出可能なことを確認した。これにより,ナメコの味の客観的評価手法として味認識装置が利用できることが示唆された。(2)食味官能評価により培地組成別,収穫時期別の観点からナメコ子実体の味の数値評価を試みたところ,外観,えぐみ,舌触り,食感,旨味が生産条件による味の差を検出しやすい調査項目であることが示唆された。

キーワード:ナメコ,味認識装置,官能評価,菌床栽培

蒸気・圧力併用型乾燥機を用いた県産材乾燥スケジュールの確立(1)(p95-106)

山口健太、吉田孝久、奥原祐司、今井信、田畑衛*

断面の大きな梁桁材を、より短時間で乾燥させるために、蒸気圧力併用型乾燥に着目し、乾燥試験と強度試験を実施した。本研究報告では、心持ち平角材について、アカマツは、1年間の天然乾燥と5日間の蒸気圧力併用型乾燥との比較試験を行い、また、スギについては、15日間の蒸気式乾燥と7日間の蒸気圧力併用型乾燥との比較試験について報告する。

試験の結果,(1)アカマツ心持ち平角材では、5日間の蒸気圧力併用型乾燥で、目標含水率15%をほぼクリアーしたが、含水率のバラつきが大きく、材面割れや内部割れ、狂いも多く発生し、強度の低下がみられた。(2)スギ心持ち平角材では、7日間の蒸気圧力併用型乾燥で、含水率を17.0%まで低下させることができ、また材面割れ、反り曲りの発生量及び強度についても蒸気式乾燥と同程度の少ない結果となった。

キーワード:アカマツ心持ち平角材,天然乾燥,蒸気圧力併用型乾燥,スギ心持ち平角材,曲げ強度

 

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