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更新日:2024年1月11日
畜産試験場
最近、異常気象が激しくなり、誰もが日常生活での地球温暖化の影響を実感しているのではないでしょうか。信州に住む私達も、「夏の猛暑が以前より増えた」、「雪があまり降らなくなった」、「諏訪湖が凍結しなくなった」、などの異変を感じる機会が増えています。
地球温暖化とは、人間の活動が活発になるにつれて、大気中に含まれる二酸化炭素(CO₂)等の「温室効果ガス」が大気中に放出され、地球全体の平均気温が上昇している現象のことです。地球規模の気温上昇により異常気象の頻発、自然生態系や生活環境、農業などへの影響が懸念されています。特に農業は「温室効果ガス」の主要な排出源であり、中でも牛など、反すう動物の消化管内発酵に由来するメタンの発生量は、CO2換算で農林水産分野から発生する温室効果ガスの34.6 %と推定され、世界的な問題として注目されています。
このような状況の中、カギケノリ、カシューナッツ殻液等を給与し、牛のメタンガス放出を抑制する飼料の研究が世界的に進んでいます。
今回、当場は、下伊那地域の「市田柿」製造過程で大量に廃棄される柿皮に注目しました。以前より、柿等に含まれるタンニンは反すう動物の消化管由来メタンを削減させることが報告されています。そこで、その柿皮を長野精工金属(株)が開発した色差分解技術(加水分解処理の一種)で処理、乾燥させパウダーを製造しました。この柿皮パウダーを当場で牛に給与したところ、健康や生産性に影響無く消化管由来メタンガスが給与前よりも抑制されました。(令和4年度長野県農業関係試験場 試行技術「柿皮パウダー400gを牛に給与すると乳用牛と肉用牛の生産への影響なく、第一胃内メタン古細菌が抑制されメタン濃度は低下する」)
このたび、柿皮パウダーの生産性への影響を検証するため、本パウダー200gを黒毛和種の去勢肥育牛に18か月齢から10か月間、毎日給与し、成長速度や肉質成績を調査しました。その結果、柿皮パウダーを給与した牛(6頭)は、未給与の牛(6頭)と比較して成長が良好で、出荷時の体重も大きく、上々に仕上がり、肉質成績も柿皮パウダー給与牛すべてが信州プレミアム牛肉に認定されるほど高品質なものとなりました。12月13日には、飯田市のJAみなみ信州本所で、この肥育牛の牛肉の“おいしさ”を調査する食味試験を実施しました。JAみなみ信州や県関係者など43名が参加し、試験の結果、半数以上の参加者から「柿皮パウダーを給与した牛の方が“おいしい”」と高評価を得ました。
温室効果ガスの削減技術は、「角を矯めて牛を殺す」ではありませんが、生産体系を妨げたり、生産性を損なうものであってはならず、牛の特性を生かすものであるべきと思います。その点、柿皮パウダーは、温室効果ガス削減に有用な飼料としての可能性や、それを給与した牛の肉質向上やおいしさという特徴を持ちつつ、地域特産の市田柿とのコンビネーションによる新たな地域ブランド牛開発への期待も生まれました。
今後は、牛肉の成分分析などを進め、引き続き柿皮パウダーの実用化の可能性を検討していく予定です。また、試験において得られた有益な結果については、積極的に県民の皆様に情報提供をしていく考えです。
柿皮パウダー未給与牛の肉 | 柿皮パウダー給与牛の肉 |
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食味試験の様子 | 食味試験の様子 |
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