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更新日:2022年4月26日
農業試験場
原村試験地は諏訪郡原村の標高1,017mに位置し、水稲等の高冷地(主に800m以上)における適応性、耐冷・耐寒性等の試験を行っています。
現在の場所に設置されたのは昭和18年で、日本の農業技術史においても特筆される「保温折衷苗代技術*」はこの試験地で開発され、全国に広がったものです。
立地条件を活かし地域ごとに特色のある農業が展開され、それが長野県農業の大きな特徴となっていますが、水稲においても平坦地から高標高地帯まで栽培され、800m以上の高冷地では7.4%が作付されています。
また、全県中山間地域ともいうべき本県では、ひとたび冷害が発生すると、高冷地はもとより中山間地の水稲まで大きな被害をうけ、収量の大幅な減収となるだけでなく、社会的にも大きな影響を及ぼすことから、低温に対する適性を試験することは特に重要となっています。
本試験地では、耐冷性の強い品種の育成試験だけでなく、温暖化に適応した品種を育成する際の耐冷性試験や、麦の耐寒性試験等も実施しています。
なお、平成21年度からは常勤職員は置かず、行託職員1名が日常の栽培管理を行い、研究職員が調査等随時出向き、試験を行う体制をとっています。
*保温折衷苗代:昭和20年代のこと、長野県農事試験場原村試験地の岡村勝政氏(故人、昭和42~46年、農事試験場長)が県内の精農家荻原豊次氏とともに確立した技術です。高冷地における水稲の作期が前進し、飛躍的に生産が安定しました。長野県はもとより全国的に戦後の食糧難時期にあって、冷害回避、増収のための基幹技術として今なお語り継がれています。
耐冷性検定試験のための一斉田植え
耐冷性検定試験ほ場の深水灌漑7月下旬より15℃の低温水の自然灌漑水で検定
障がい型不稔に弱い品種は半分以上の籾が不受精となる
保温折衷苗代設置の様子
(昭和20~30年代)
平成5年大冷害時に知事が現地調査
高冷地向け早生・耐冷・良食味水稲品種「ゆめしなの(旧系統名信交485号)」
平成5年に全国を襲った大冷害を覚えているでしょうか。全国の作型指数は74、長野県でも作柄指数78(高冷地は10~50台)と過去に例をみない不作となりました。「米屋からコメが消えた」などの報道や米の緊急輸入も行われ、大きな社会現象となりました。
長野県としても冷害に強い水稲品種の育成にさらに力を入れる契機ともなり、平成8年には耐冷性が強く、「コシヒカリ」並の良食味の早生品種「ゆめしなの」を育成、平成9年に奨励品種に採用しました。平成11年には極早生の耐冷・良食味品種「きらりん」も奨励品種に採用しました。この2品種は現在でも長野県高冷地の主力品種として栽培されています。
長野県の水稲作況指数の推移をまとめました(下図)。何年かおきに作況指数が100(平年作)を大きく下回る年が見られます。この作況指数が低下した要因のひとつは冷害*や冷夏の影響とされます。高標高地帯を多く抱える本県の水稲栽培において、冷害の克服は長年の大きな課題でした。現在も耐冷性の強い良食味品種の育成は大きな目標のひとつとなっていて、原村試験地の冷水灌漑ほ場における系統選抜試験は、重要な役割を果たしています。
*冷害:冷害には穂ばらみ期に低温を受けて花粉が死滅し、籾が実らなくなる「障がい型不稔」と生育をとおした低温、特に出穂後の気温が低く、登熟が遅くなり、実入りが悪くなる「遅延型冷害」があります。冷害年は低温多雨傾向となるため、「いもち病」も併発し、さらに減収が大きくなります。
冷害対策としては、(1)先述した耐冷性の強い品種の栽培(2)危険期の深水栽培(幼穂の水温による保護)(3)前歴深水灌漑(幼穂の成長に合わせて徐々に水位を深くする)(4)いもち病の予防的防除などがあります。
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