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更新日:2024年2月2日
林業総合センター
清水香代・大矢信次郎・岡田充弘*・小山泰弘
県内で大きな問題となっているマツ枯れやナラ枯れ被害の対策として,被害地の森林を健全に再生させるために天然更新や樹種転換事業が行われている。効果を検証するため、被害跡地を調査した結果,マツ枯れ被害地の大部分がナラ類や,サクラ類等の高木性広葉樹により更新していたが,表土がない場所では再度アカマツ林に推移し、樹種転換ができていなかった。また,ヒノキやカラマツを植栽した場合は,適正な手入れも行われ,確実な更新が図られていた。ナラ枯れ被害地は,被害前の林床植物によっては更新できない場合があり,ユキツバキが多いと更新が難しかった。カラマツの健全木を加害するカラマツヤツバキクイムシは,県内のほぼすべてで認められた。しかし,健全木への加害は林地残材量と標高によって異なり,標高1,000m以下では,少ない残材量でも健全木が枯死し,標高1,000m以上では残材量が多い場合に限られた。この結果から,残材は可能な限り搬出すべきと判断できた。
キーワード:ナラ枯れ,松枯れ,カラマツヤツバキクイムシ,更新,樹種転換
戸田堅一郎・小山泰弘・山内仁人
森林施業が土壌侵食に与える影響を調査するため,松本市山辺の薄川流域寒沢小流域で土砂受け箱による調査を実施したところ,搬出間伐実施後3年目以降は実施前よりも土壌侵食が低下しているという結果が得られた。地形や地質構造が災害発生機構に与える影響を明らかにするため,地形判読を容易にする立体図法としてCS立体図を開発した。過去の災害事例調査として,2006年に岡谷市を中心に発生した豪雨災害と2012年に茅野市北山地区で発生した豪雨災害の発生機構を検討した。また同様の発生機構による災害が発生しやすい場所をGISの条件検索により長野県内から抽出した。
キーワード:土壌侵食,表層崩壊,CS立体図,地質構造,危険地抽出
戸田堅一郎
国土地理院による干渉SAR解析で検出された深層崩壊危険地の候補地から3箇所の調査地を選定し、CS立体図を用いた微地形判読を行った後,現地調査により実際の地形変状の有無を確認した。微地形判読の結果,3箇所の対象地全てにおいて地すべり地形がみられ,干渉SARによる検出範囲は,それぞれが地すべりブロックと一致した。現地調査の結果,検出した範囲において林道路面の沈下,法止めブロックの亀裂,地面の亀裂などの地形の変状が確認できた。
キーワード:干渉SAR解析,航空レーザー測量,CS立体図,微地形判読,地すべり跡地形
岡田充弘*・清水香代・大矢信次郎
カシノナガキクイムシが病原菌を媒介するブナ科樹木萎凋病によるナラ類枯損被害対策として,注入容器を使わない微量樹幹注入処理の被害予防効果および本処理による作業コスト低減効果等を検討した。その結果,1孔当たりの薬液施用量がこれまでの1/400で,従来の殺菌剤樹幹注入と同等の被害予防効果が確認された。また,従来の方法に比べて,資材の運搬労力が大幅に低減されるとともに,作業時間とコストが従来の1月2日以下と大幅に低減された。人口フェロモン剤を利用したカシナガ駆除対策として開発されたおとり丸太による誘引技術の現地適応性について検討したところ,(1)おとり丸太での誘引は,ヒノキ人工林などの針葉樹林でも実施可能で,周辺木への被害防止のコストが不要になること,(2)2~3立方メートルのおとり丸太では3,000孔/立方メートル程度までの誘引が可能,(3)周辺の誘引物(伐根,傷ついた立木など)があると誘引効果に負の影響を与えること等が確認された。
キーワード:カシノナガキクイムシ,微量樹幹注入,被害予防,防除技術
増野和彦・福田正樹*・山田明義*・市川正道*・古川仁・片桐一弘
長野県内の「カラマツ間伐手遅れ林分」を対象として,地域バイオマスである腐生性きのこ及び林内有機物を利用した複合培養技術,環境整備と菌根苗によるきのこの増殖技術を開発し,森林空間を有効に活用したきのこの栽培及び増殖技術を実証することを目標として研究を行った。その結果,以下の成果が得られた。
(1)除間伐後のカラマツ林で「わりばし種菌」「培養殺菌原木」を接種源に,クリタケ,ナメコの栽培試験を行い,順調な菌糸体のまん延とカラマツ原木からの子実体発生を確認した。このことにより,森林空間と林内有機物を有効活用したカラマツ等針葉樹の切り捨て間伐木の腐朽促進ときのこ生産技術を実証した。
(2)カラマツに適したクリタケ菌株の選抜を行い,コナラ原木に対して50%以上の発生量を示す菌株を選抜した。さらに,収量性・形状に優れた菌株を優良育種素材として選抜した。(3)腐生性きのこによる森林空間の活性化効果を数値化するため,腐朽度をピロディン貫入量で,経済性を栽培の収支計算で,それぞれ表わした。
(4)長野県内でカラマツ手遅れ林分の施業(雑木皆伐,落葉層掻き取り,腐植層はぎ取り,ハナイグチ胞子散布)を行い,ハナイグチの発生量が顕著に増加すること,シロヌメリイグチの発生も増加傾向にあることを明らかにした。これにより,カラマツ林施業により食用イグチ類の収量が増加することを実証した。また,ハナイグチ収穫の目安となる発生刺激温度を明らかにした。
(5)カラマツ林分に隣接する雑木林において,ホンシメジ菌床を樹木根系に沿って埋設することで,林地に菌根定着できる技術を開発した。また,シモフリシメジの定着したナラ類の菌根苗を林地に定着させる技術を開発した。これにより,シメジ類の発生林を造成する技術を確立した。
(6)菌根性きのこ増殖の経営収支を算出して,カラマツ林の環境整備や胞子散布による増殖効果の経済性を示した。(7)ハナイグチ増殖のための環境整備法については,長野県内6か所に現地適応化の試験地を技術の普及拠点として,林業改良普及員,森林所有所,林業関係団体と連携して設定した。
キーワード:森林空間,簡易接種法,クリタケ,ハナイグチ,ホンシメジ
古川仁・増野和彦・竹内嘉江
長野県内6か所のマツタケ試験地で,地温・気温・降水量の気象観測、マツタケ子実体の発生調査を行った。その結果,子実体発生に重要な気象条件として,(1)菌糸体が成熟する8月に一定温度が確保されること,(2)9月下旬の十分な降水,(3)原基形成が始まってから地温の再上昇がないことが考えられた。豊丘村試験地等標高800m程度の試験地では,近年マツタケ子実体の発生時期が遅くなる傾向があり,この原因として秋季の地温低下時期が遅くなっていることが考えられた。標高の高い辰野町試験地にこの傾向はみられなかった。これは辰野町試験地では8月下旬~9月上旬ころに原基形成が始まると推測されるが,この時期の地温は近年も過去もほぼ変化がないためと考えた。
一般に高冷地とされていた長野県の気温も年々上昇し,この気温上昇によりマツタケの生育も影響を受けていると推測される。従来長野県のマツタケ発生林施業では,地温確保の目的で下層植生を全て刈払う方法が推奨されていたが,今後は状況に応じて一部下層植生を残す施業も必要と考えた。今後,原基形成に適した期間が短くなる可能性が考えられ,この短くなる原基形成期に十分な水分を与えることがマツタケ山持続のためには重要,と考えた。そのため降水を確実に土壌内へ流下させるための腐植除去や,散水も今後検討する必要がある。
キーワード:マツタケ,原基形成,マツタケ発生林施業,気象条件,地球温暖化
田畑衛・今井信・吉田孝久
長野県産アカマツ丸太から製材した心持ち正角につて,蒸気式,蒸気・圧力併用型乾燥,及び天然乾燥を行い,乾燥時間の短縮と割れの抑制を目的とした乾燥スケジュールの検討を行った。蒸気式は5.3日で平均10.9%,蒸気・圧力併用型は3.3日で平均12.0%であった。材面割れについては,乾燥直後で蒸気式が平均433cm,蒸気・圧力併用式が532cmで,天然乾燥の1,174cmに比べ高温セットにより低く抑えられてはいるものの,他の樹種よりも依然として大きく,更なる乾燥条件の検討が必要であった。
キーワード:アカマツ,蒸気式,蒸気・圧力併用型,材面割れ,曲げ強さ
今井信・吉田孝久・柴田直明・山内仁人・高野弌夫*
前号報告の4種類の乾燥方法で乾燥したスギ桁材の曲げ強度試験を行った。その結果,(1)全ての試験材が、スギ無等級材の基準強度22.2N/㎟を上回った。(2)機械等級区分材の基準強度に関しては,弱加圧型高温乾燥で5体,蒸気圧力併用型乾燥で4体,高温セット+中温乾燥で3体,高温セット+高温乾燥で4体が基準値を満たさなかった。(3)曲げ強さの平均値に統計的な差は認められなかったが,曲げ強さの5%下限値は,蒸気圧力併用乾燥で29.4N/㎟,高温セット+中温乾燥で29.0N/㎟,高温セット+高温乾燥で27.3N/㎟,弱加圧型高温乾燥材で24.4N/㎟となり,高温で乾燥する時間が長いほど曲げ強さが低下する傾向
がみられた。
キーワード:高温セット,蒸気・圧力併用型乾燥,スギ桁材,曲げ強さ
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