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更新日:2014年6月24日
水産試験場
水産試験場増殖部 傳田郁夫
「信州サーモン」という新しい養殖魚が話題にのぼる機会が増え、この名前をご存知の方も多いと思います。
ここでは、その「信州サーモン」について、紹介させていただきます。
開発の背景とねらい
長野県の養殖業の中心魚種の一つであるニジマスは、100~120gの塩焼きサイズを中心に普及してきましたが、新たな需要の開拓をめざして昭和63年(1988年)にニジマス三倍体が実用化され、刺身や切り身に使える大型魚の生産が本格的に始まりました。しかし、ニジマス三倍体は全国各地で生産されており地域の特色を出せない、飼育期間が長いため魚病による生残率の低下が大きいなどの問題が生じました。
このため、水産試験場では、ニジマス三倍体に替わる大型魚の品種開発に取り組み、平成16年(2004年)から「信州サーモン」の稚魚の供給を開始しました。昨年の秋からは、民間の養魚場で育った信州サーモンが1~2kgの商品サイズに達して出荷が始まりました。
信州サーモンとは
信州サーモンは、ニジマス四倍体雌とブラウントラウト性転換雄の交配で生まれた一代限りの養殖用品種です。普通のニジマス(二倍体)とブラウントラウトの交配では、稚魚になるまでにすべて死亡してしまいますが、ニジマスの染色体を二組、ブラウントラウトの染色体を一組持った異質三倍体(三倍体性の雑種)にすることで、交雑品種の生産が可能となりました。
信州サーモンは、ニジマスの全雌三倍体生産で培ってきた、(1)三倍体化による不妊化、(2)三倍体を作るための四倍体親魚の作出、(3)性転換技術による全雌化、の三つのバイテク技術と古典的な交雑による雑種強勢という新旧の技術を駆使して誕生した魚といえます。
信州サーモンの特徴
○成熟しない
信州サーモンも多くの三倍体性の雑種と同様に、成熟しないという特徴をもっています。普通の魚は、成熟期になると卵に栄養をとられたり、生殖行動にエネルギーを使うことにより、成長の停滞、肉質の低下、死亡の増加などが生じます。
しかし、信州サーモンは三倍体にしたことにより不妊になっているため、成熟に伴うこれらの問題は生じません。
また、雄の三倍体は、正常な精子を形成することはありませんが二次性徴を示します。このため、信州サーモンの実用化に当っては、全雌化技術を導入して雄が含まれないようにしています。
さらに、不妊であるため、万が一、養魚場から散逸した場合でも、子孫を残したり、雑種を形成する心配もありません。
○成長の停滞がない
信州サーモンを普通のニジマスと同じ条件で飼育した場合、通常時の成長には差が見られません。しかし、成熟期も成長を続けるため、結果的にニジマスを上回る成長を示します。
稚魚(2g)から主要な商品サイズの1.5kgまでに要する飼育期間は、養魚場の水温条件等に大きく左右されますが、1年半から2年が目安となります。
○病気に強い
最近のニジマス養殖においては、IHN(伝染性造血器壊死症)、OMVD(サケ科魚類のヘルペスウイルス病)、連鎖球菌症による被害が大きな問題となっていました。
このうち、IHNとOMVDについては、信州サーモンはニジマスに比べて罹りにくいことが確認されています。
飼育上の留意点
信州サーモンの飼育に当っては、基本的にマス類の飼育管理技術や施設をそのまま利用できます。ただし、三倍体魚に共通な酸素欠乏に弱いという特性がありますので、収容量や移動・選別時の取扱いには注意が必要です。
また、本来自然界にいない魚なので、絶対に放流してはならないことはもちろん、他の魚種との混用をせず、散逸の防止に十分な対策をとってください。
食材としての評価
信州サーモンを、調理師の方々に実際に使ってみて頂いたところ、
・淡水魚特有の臭いがほとんどない。
・きめが細かく、舌触りがよい。
・脂のりが適度である。
など高い評価をいただきました。
料理方法としては、刺身のほか、昆布〆、冷燻(スモーク)、カルパッチョなどに適しており、生の素材に少し手を加えることで、より信州サーモンの美味しさが引き出せるとのご意見をいただいています。
現在、信州サーモンを生産する技術を持つのは長野県だけです。県では、信州サーモンを信州の特産魚に育てるため、関係者の皆さんと一緒に取り組んでまいります。
月刊誌ながの「農業と生活」(長野県農業改良協会)9月号に掲載
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