山と自然のサイエンスカフェ@信州を開催しました:令和元年度(2019年度)
「山と自然のサイエンスカフェ@信州」(略称“山のサイカフェ”)は、当研究所の研究員や外部からお招きした研究者が、信州の大きな特色と魅力の源である“山と自然”に関する話題を提供し、参加者のみなさまとともに気軽に語り合うというイベントです。
ここでは、令和元年度(平成31年度、2019年度)の開催の様子をお伝えします。
会場:ステーションビルMIDORI長野「りんごのひろば」
第7回「登山者とつくるライチョウの今」
概要
本年度第7回(通算49回)の「山と自然のサイエンスカフェ@信州」では、登山者から寄せられた目撃情報をもとに、ライチョウの生息状況把握を試みる研究を紹介しました。
- 日時:令和2年(2020年)1月30日(木曜日)18時~19時30分
- 参加人数:93名
- 話題提供:堀田昌伸(長野県環境保全研究所自然環境部 鳥類生態担当)
- 講演概要配布資料(PDF:461KB)
- ライチョウの分布と高山植生との関係からモデルを構築し、北アルプスにおけるライチョウの生息に適した環境を予測したところ、気候変動の影響により今世紀末には現在の0.4%にまで減少するとの結果が得られました。
- ライチョウを絶滅の危機から救うためには生息状況の把握が欠かせませんが、高山帯に生息するライチョウの調査は容易ではありません。登山者からの目撃情報を解析したところ、分布予測や繁殖状況の把握に活用できそうなことがわかってきました。
- ライチョウ保護のために、是非多くの登山者の皆さまから目撃情報を提供していただければありがたいです。
当日の様子
「モデル予測の活用により、偏りのある登山者情報をうまく利用できる可能性があることが分かりました。」「登山者からの情報がさらに集まることを期待しています。」などの声を頂きました。
第6回「土がおしえてくれること」
概要
本年度第6回(通算48回)の「山と自然のサイエンスカフェ@信州」では、私たちの足もとにある“土”から過去の地球環境を探ってみました。
- 日時:令和元年(2019年)12月19日(木曜日)18時~19時30分
- 参加人数:62名
- 話題提供:葉田野 希(長野県環境保全研究所自然環境部 地質担当)
- 講演概要配布資料(PDF:464KB)
- 土ができるまでのプロセスはとても複雑で、母材・地形・気候・時間・生物に左右されています。別の見方をすると、土はさまざまな環境の指示者といえます。
- 過去の土(古土壌)をしらべることで、日本列島の古気候変動が明らかになりつつあります。
当日の様子
「古土壌から昔の気候が推定できることが興味深かった。」「用語が専門的すぎて素人には難しかったですが、内容はとても興味深かったので今後に期待します。」などの声をいただきました。
第5回「これからの気候変動にどう備えるか?」
概要
本年度第5回(通算47回)の「山と自然のサイエンスカフェ@信州」では、これから起こりうる気候変動に私たちはどう対応すればいいのか? 気候変動への適応の取組を紹介しました。
- 日時:令和元年(2019年)10月24日(木曜日)18時~19時30分
- 参加人数:33名
- 話題提供:浜田 崇(長野県環境保全研究所自然環境部・気候・気象担当)
- 講演概要配布資料(PDF:303KB)
- 開催日直前の台風19号により長野県内に甚大な被害がもたらされました。すでにこれまでの気候変動によって、猛暑日や激しい雨の日数が増加しています。長野県では、今後100年間で年平均気温が約5℃上昇し、滝のように降る雨の回数は増加すると予測されています。
- りんごの生育適地の減少や熱中症リスクの増加、ライチョウの生息適域の減少など、今後の気候変動による影響の予測を行いました。温室効果ガスの排出削減などの“緩和策”はもちろん重要ですが、新しい気候条件による悪影響を減らすよう備えるとともに、それをうまく利用していくこと(適応策)も必要です。
- 気候変動適応法に基づき、平成31年4月1日に「信州気候変動適応センター」を県庁環境エネルギー課と環境保全研究所に設置しました。気候変動の実態や予測情報の整備と情報発信を行い、県内への適応策の導入支援を行っていきます。
当日の様子
「気候変動の影響と適応策の重要性を改めて認識できました。」「標高が高いという長野県の特徴を踏まえた研究や情報発信に期待します。」などの声を頂きました。
第4回「キノコ(菌)を通して観る自然」
概要
本年度第4回(通算46回)の「山と自然のサイエンスカフェ@信州」では、秋の恵みに感謝しつつ、キノコたちの自然界での活躍ぶりに目を向けました。
- 日時:令和元年(2019年)9月26日(木曜日)18時~19時30分
- 参加人数:45名
- 話題提供:出川洋介さん(筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所)
- 講演概要配布資料(PDF:352KB)
- キノコは、カビ、コウボとともに菌類(真菌類)の仲間で、目に見えない「胞子」で増える微生物。「キノコ」は胞子をつくる構造で、植物でいえば、花や実の部分。葉や茎、根の部分は「菌糸」という細胞の連なりで、菌糸から酵素を分泌し、周りのものを分解、吸収して生きている。
- 菌類は古くは色の無い原始的な植物と考えられてきたが、生態学者ホイタッカー(1969年)による五界説で「分解者・還元者」の役割を持つ独立の界とされた。しかし、近年のDNA解析等により、実は動物に近縁な生きものだと判明している。
- 菌類は他生物の遺体を分解(腐生)する以外にも、寄生、共生をしてあらゆる他の生物と関わって生きており、生態系のバランスの維持に役立っている。菌を通して自然界を見直してみるときっと新鮮な発見があるはずだ。
当日の様子
会場前を通りがかった大阪や北海道の方も御参加下さり、「久しぶりに勉強させてもらいました。楽しい出会いでした。」「菌類と動物が近い仲間であることが、驚きだった」「菌類の役割は地球にとってとても役にたっていることに感心した。」などの声を頂きました。
第3回「高山植物の生活史:山の上の暮らしぶり」
概要
本年度第3回(通算45回)の「山と自然のサイエンスカフェ@信州」では、夏山を彩るコマクサやウスユキソウといった高山植物の生活史に迫りました。
- 夏山登山シーズンを迎え、山で目にする高山植物たちの生活史(暮らしぶり)を紹介しました。コマクサの花に開く穴(マルハナバチによる盗蜜痕)、ハクサンコザクラの花柱タイプ、さらにはイワギキョウの花粉の色など、高山植物には普段目に止めない(?)、ちょっとした暮らしの不思議があります。
- 中央アルプスに固有で、エーデルワイスの仲間のコマウスユキソウ(ヒメウスユキソウ)の研究からは、その成長がとても遅く、野外では発芽から10年ほどたっても開花には程遠いこと、定着すればとても寿命が長い可能性がわかってきました。
- こうした植物の生活史研究は、一見すると、ただただ観察しているだけに思われるかもしれません。でも、高山植物の保護・保全を図ろうとしたとき、その植物がどのような生活を送っているのかを調べることにより、より適切な保護対策(処方箋づくり)を考えることにつながるものとなります。
当日の様子
「高山植物の見方について新しい眼がひらけた」「植物の生活史を調べる重要性が分かった。図鑑にのっていない小さい発見の話をいろいろ聞けて面白かった。」「植物愛が伝わってきて楽しかった」「またマニアックな世界をのぞかせてください」といった反響を頂きました。
第2回「霧ヶ峰のお花畑をどう守る?」
概要
霧ヶ峰では花々を柵で囲ってニホンジカの食害から守っています。本年度第2回(通算44回)の「山と自然のサイエンスカフェ@信州」では、その意義に科学の目で迫りました。たくさんの方のご参加、活発な意見交換をありがとうございました。
- 霧ヶ峰の草原では、2007年頃からニホンジカによるニッコウキスゲなどの花の食害が深刻化し、シカ柵が設置されてきました。調査の結果、シカ柵により植物の多様性や花の数が回復していることがわかりました。
- ドローンによる空中写真の分析でも、シカ柵がお花畑を守る効果を可視化することができました。植物の遺伝子の多様性も、いろいろなエリアにシカ柵があることで守られていることがわかりました。
- これらの研究は、プロ・ナトゥーラ・ファンドの助成を受けて、当日の話題提供者と環境保全研究所などとの共同でおこなわれました。成果は霧ヶ峰を訪れる方々や地域の関係者の方々にも広くお伝えしていきます。
当日の様子
現地での地道な調査や、ドローンを用いた花数の解析等について興味深く聞いて頂きました。「1990年代にニッコウキスゲが一面の折に訪れたことがあり、今回の発表でシカ害の様子が分かりました。」「ニッコウキスゲを守る活動が調査によって効果的だとわかり、より保護活動に取り組む意欲を頂きました。」「ドローンの実物があって分かりやすかった」「陸から空からDNAレベルで、それぞれの調査結果が比較できて大変興味深かった。」といった声をいただきました。
第1回「長野・新潟県境付近の植物のうつりかわり」
概要
今年度の初回(通算第43回)となる山と自然のサイエンスカフェ@信州を開催したところ、多くの方々にご参加をいただきました。皆さま興味深くお聞きいただき、たくさんの質問、活発な意見交換をありがとうございました。
- 北信の新潟県境付近は世界でも有数の豪雪地帯で、年の最大積雪深が3mを越える場所も多い。雪に覆われることによる保温効果、雪解け水による保水効果、大量の雪による圧力、雪崩による害など、多量の積雪は植物の生育にも大きな影響を与える。
- 植物の分布の類型に日本海型というものがある。日本海側の豪雪地域にはその地域に特有の植物が多く生育し、日本海要素と呼ばれる。トガクシソウ・シラネアオイなど氷河期の遺存種や、ユキツバキ、オオバクロモジ(太平洋側にはヤブツバキ、クロモジ)など豪雪に適応した植物が挙げられる。
- ダンコウバイは、太平洋側に分布する低木とされているが、日本海側の豪雪地にも一部入り込んでいる。そのような地域では急な崖の上や崖の中腹など積雪の影響を受けづらい場所に生育していて、姿を変えずに豪雪地で生きている。
当日の様子
「気温だけでなく、積雪量が植物の分布や形態に大きく影響していることがわかった。」「クスノキ科の植物は暖かい地方のクスノキの樹木くらいしか知らなかったが、雪国の信州にもダンコウバイという樹木がクスノキ科ということを知った」などの反響をいただきました。