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更新日:2023年5月20日
環境保全研究所
セイヨウオオマルハナバチの逸出状況のモニタリングをおこなっています
研究期間:H21年(2009年)度~
タンポポの花をおとずれたセイヨウミツバチ
クララの花に来たウスリーマルハナバチ(在来の希少種)
信州の野山では、多くの野生植物の花をハナバチがさかんにおとずれています。ハナバチとは花から集めた蜜と花粉で子育てをするハチのなかまの総称で、植物の授粉にも重要な役割を果たしています。ミツバチやマルハナバチがその代表的なものです。市街地の近くでは主に養蜂にもちいられているセイヨウミツバチが、自然のよく残された地域ではマルハナバチなど多様なハナバチがみられます。
なかでも野山でよく目につくマルハナバチは全身に毛の生えたまるっこいハチのグループで、ユーラシア北部に分布の中心をもち、日本では北海道(11種)、長野県(10種)を中心に在来種(15種)が生息しています。「長野県版レッドデータブック」に掲載されているホンシュウハイイロマルハナバチ、ウスリーマルハナバチなどの希少種もこのなかにはふくまれています。
セイヨウオオマルハナバチの標本(写真:京都大学・田中洋之氏提供)
これらの在来のマルハナバチに近縁なヨーロッパ原産種セイヨウオオマルハナバチが、外来生物法で定める特定外来生物に指定され、2006年9月からその輸入や飼養などに規制が加えられることになりました。セイヨウオオマルハナバチは、トマトなどのハウス栽培作物を授粉させるのに役立つため、1990年代から広く輸入・利用されてきました。
しかしこの外来種は、特に北海道などで野外に定着して生息地をひろげており、競争や交尾の撹乱・寄生生物のもちこみにより在来のマルハナバチを衰退させる、花の下部をかじりあけて蜜を吸う習性により植物の正常な受粉をさまたげるなどの悪影響をもたらすことがわかってきました。
長野県内では2001年に諏訪市、2002年に飯田市で野外に逃げ出したセイヨウオオマルハナバチの個体がみつかったとの情報があります。特定外来生物に指定された現在、この種を利用するには国の許可を受け、栽培用の施設などから野外に逃がさないようにすることが義務づけられています。
ヒゲナガハナバチの一種(在来種)
メハナバチの一種(在来種)
当研究所では、長野県内でセイヨウオオマルハナバチの野生化が生じていないかどうかについてのモニタリングをおこなっています。国に対しセイヨウオオマルハナバチの飼養などの届出が出されている地域を中心に、県内各地で野生植物の花などをおとずれているハナバチを調査し、セイヨウオオマルハナバチの野外への逸出がひきつづき起きていないかどうかを確認することがその主な内容です。
2001年・2002年の情報以後、これまでの調査ではセイヨウオオマルハナバチの野外での発見はありません。調査した地域の一部では他の地域にくらべて在来のハナバチ類の多様性が高く、レッドデータブックに掲載されている希少種が確認された場所もありました。このような場所でセイヨウオオマルハナバチの野生化がすすむと、在来のハナバチや植物に大きな影響がおよぶおそれがあります。
これまでの情報から判断する限りでは、長野県内の野外でセイヨウオオマルハナバチが分布を広げている兆しは今のところないといえそうです。しかし今後もふくめてその可能性がないとはいいきれません。現在法律にしたがって届出がなされている施設では、開口部に網を張るなど、逸出を防ぐための適正な対策がとられているはずです。しかしセイヨウオオマルハナバチは特定外来生物に指定される以前にも十年以上にわたって国内で使用されてきました。仮に隣の県などで分布の拡大がすでに起きている場合には、今後長野県内に分布を広げてくる可能性も考えられます。
セイヨウオオマルハナバチは原産地のヨーロッパではスカンジナビア半島にも分布しており、日本でも北海道の大雪山系でみつかっています。長野県の冷涼な自然環境はセイヨウオオマルハナバチが分布を広げやすい条件をそなえていると考えられます。もし高山帯のお花畑などに広がってしまうと、その駆除は困難です。万一の場合にそなえてひきつづきモニタリングをつづける必要があります。
セイヨウオオマルハナバチには、腹部の末端の毛の色が白いという、長野県に生息する他の在来のマルハナバチにはない特徴があります。このようなマルハナバチを野外でみかけられた場合には、ぜひ研究所までご一報ください。
(担当:須賀 丈)
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