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更新日:2023年6月30日

環境保全研究所

野生鳥獣の保護管理に向けた生態解明および被害対策の普及啓発

研究期間

 平成27(2015)~平成30(2018)年度

目的

 自然豊かな長野県では、シカ、サル、クマ、イノシシ、魚食性鳥類の生息数や生息域が変化し、農林水産物被害、人身被害、生態系への影響が懸念されています。当研究所では、被害を引き起こす野生動物の生息環境、生息数、食性、行動などを調べ、現場で対策を行う方々や、特定鳥獣保護管理計画を策定する鳥獣対策本部へ、科学的な知見に基づく情報を伝えていく役割を担っています。野生動物に関する正確な生態情報は、効果的な対策を行うための重要な情報となります。本プロジェクトは、野生鳥獣被害対策本部の被害対策支援チームとして対策を支援し、野生鳥獣と人の暮らしを両立させることが長期的な目的です。

内容

(1)捕獲鳥獣からの生態分析
 被害を出す動物のうち、捕獲された個体を対象にした化学分析を行っています。捕獲された個体を調べることで、現在彼らが長野県をどのように使っているか、野生個体群はどのような状態か、などを知ることできます。調べたのは、クマの食性、遺伝構造、年齢構成、シカの年齢構成、カモシカの食性です。4年間の分析ではクマもシカも年齢構成に大きな変化はなく、シカはまだまだ増加過程であること、クマについては高齢化や若齢化が生じていないことが確認されました。

 安定同位体比分析による食性分析では、農作物や飼料を味わったクマは、その後も継続的に人里の食べ物を利用し続け、里に出没しやすくなることから、人身被害を出しやすい個体になってしまうことが明らかになりました。人里で農作物や飼料、残飯などをしっかりと管理することが、里地へ出没するクマを減らすことにつながります。また、カモシカの胃内容分析からは、広葉樹の新芽が幅広く検出されましたが、スギ・ヒノキへの加害は確認されませんでした。カモシカが採食する植物は非常に種類が多く、ある特定の樹種ばかりを食べることはないため、植樹にも広く面的な被害は出しにくい動物であることが明らかとなりました。

(2)野外調査による生息および被害状況の把握
 現在長野県ではニホンジカの分布拡大が続いており、かつては南アルプスや中信高原でしかみられなかったシカも、県内どの地域にも生息するようになりました。ニホンジカは大型草食獣のため、農作物や果樹に大きな被害を出すだけでなく、高山植生や希少植物に対しても、地域からその種を消失させる勢いで採食します。

 研究所では後立山連峰を中心に、ニホンジカの生態系被害の調査を行いました。過去100年ほどシカの生息が確認されていなかった後立山連峰山麓でもシカの食痕が確認され、大町市から小谷村にむけて分布拡大しているようすが明らかになりました。大町市扇沢や小熊山では、林床植生を変えてしまうほどの採食圧があり、より高標高域に広がる北アルプスの希少な高山植生の存続が危ぶまれます。

 ニホンジカの分布拡大は、現場で取り組む被害対策にも影響しています。これまでシカがいないと考えられていた地域では、農作物へ採食痕があると、昼間に観察されるカモシカによる被害だと判定してきました。しかし実際は、食痕を対象にしたDNA分析や赤外線センサーカメラによる夜間の画像記録によりニホンジカの群れが農作物を食べていることが明らかとなりました。被害を引き起こす獣種を正確に把握し現場に伝えることで、効果のある対策の推進につながります。

(3)正確な生態情報を普及することで対策を支援

 カモシカではなくニホンジカによる農産物被害であったこと、人里の食物やごみをしっかりと管理することがクマの出没を減らすことなどデータから明らかになった情報は、以下の方法で現場に還元されています。

野生鳥獣保護管理計画を策定する委員会への資料提出

対策を行う現場生産者や市町村担当者の方を対象にした講座での発表

県の鳥獣対策関係者を集めて行う研修会での発表

成果一覧

学会発表
田村大也ほか(2016)長野県ツキノワグマ個体群における集団遺伝学的研究 第63回日本生態学会
中下留美子ほか(2016)長野県塩尻市における捕獲ツキノワグマの人里依存度-体毛および骨の生元素安定同位体比分析. 野生生物と社会
黒江,大橋,田中,松井 (2018) 積雪地におけるニホンジカの冬季生息場所特性. 日本哺乳類学会2018年度大会
 比留間, 岸元, 黒江, 小池 (2018) ニホンカモシカの冬期における食性の長期的変化とその要因 -個体群動態への影響-.日本哺乳類学会2018年度大会.
工藤, 中下, 黒江, 岸元, 津村 (2018) 長野県北アルプス北部におけるツキノワグマの炭素・窒素安定同位体比. 日本哺乳類学会2018年度大会
黒江, 大橋,松井 (2019) 積雪深度が変えるニホンジカの冬季生息地選択. 第66回日本生態学会.
比留間, 岸元, 黒江, 小池(2018)ニホンカモシカの冬季における長期的食性の変化とその要因~個体群動態への影響~.第66回日本生態学会.
工藤, 中下, 黒江, 岸元, 瀧井, 泉山, 津村 (2018) 炭素・窒素安定同位体比分析によるツキノワグマの自然個体と人里出没個体との食性比較. 第66回日本生態学会.

論文
細谷, 黒岩, 黒江(2015) 屋久島の昆虫相と危惧されるシカ害の影響 (特集 日本の世界遺産の昆虫と自然). 昆虫と自然 50(5), 20-25.
中下ほか(2016)長野県塩尻市における過去10年間のツキノワグマ捕獲状況と捕獲個体の人里依存度.
信州大学AFC報告 (13), 89-98.
Kuroiwa, Kuroe, Yahara (2017) Effects of density, season, and food intake on sika deer nutrition on Yakushima Island, Japan. 32(3): 369-378.
水谷, 黒江(2018) 信州大学カヤノ平ブナ原生林教育園における自動撮影カメラによる中・大型哺乳類相調査:2016年調査の結果. 志賀自然教育研究施設研究業績(55) : 13-16.
黒江, 尾関, 大橋, 堀田 (2019) 北アルプス北部山麓の下層植生に対する大型草食獣の影響. 長野県環保研報告15 ,1-11.

お問い合わせ

所属課室:長野県環境保全研究所 

担当者名:黒江 美紗子

長野県長野市大字安茂里字米村1978

電話番号:026-239-1031

ファックス番号:026-239-2929

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