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更新日:2014年6月20日
水産試験場
○信州サーモン
水産試験場が約10年かけて開発した養殖専用の品種です。開発しているころは、まだ信州サーモンという名前は付いていませんでした。ニジマスの四倍体とブラウントラウトの交雑種なので、「ニジニジブラ」と呼んでいたのです。
かつて長野県は日本一のニジマス生産県で、内水面養殖業が発展してきました。しかし、消費者の淡水魚離れや海外からの輸入魚などに押されて需要が落ち込み、生産量、生産者数ともに減少して県内養殖業は厳しい状況にあります。こうした状況を打開し養殖業を振興していこうと、新たな需要の開拓を目指してお刺身でもおいしく食べられる大型魚生産の研究が始まりました。大型魚になれば、お刺身はもちろん、様々な料理の素材として需要が広がります。そこで、着目されたのが成熟しない三倍体のメスです。通常、ニジマスは父親由来の染色体を1セット、母親由来の染色体を1セット、合計2セット持つ二倍体です。三倍体は、この染色体のセットを人為的に一つ多くして三つ持たせたもので、成熟しないという特性があります。
一般にサケマス類は、成熟すると精子や卵に栄養が吸収され肉質が低下し、成長も停滞します。しかし、成熟しなければ、肉質は低下せず、成長も続きます。また、成熟しないため、寿命が延び、結果的に大型魚を作ることが可能となります。
ところが、サケマス類の三倍体ではメスは成熟しませんが、オスは成熟してしまいます。そこで、すべてメスの三倍体を作り出すことにより、一年中肉質の低下のない大型魚の生産を目指したのです。
当初、二倍体(普通のニジマス)の受精卵を26℃のお湯につけることで、温度ショックを与えて三倍体を作っていました。しかし、処理した卵のすべてを三倍体にすることは不可能で、5%くらいは二倍体になってしまいます。また、お湯につけるため、発眼率が通常の半分になってしまうという問題がありました。さらに、処理の作業そのものが大変です。
そこで、四倍体を作って二倍体と交配させ三倍体を作り出すことにしたのです。四倍体を作るには二倍体卵の最初の細胞分裂を強制的に抑えてやらなければなりません(専門用語では「第1卵割阻止」と言います。)。作業は、受精卵を6時間後から6分間、1平方センチメートル当たり650kgというものすごい圧力をかけて行います。
三倍体のもう一つのメリットは、異種交配を可能にしたことです。
ニジマスと他の魚(イワナ、ヤマメなど)の交配は、ほとんど発眼しないので通常はうまくいきません。しかし、ニジマス四倍体の卵に精子をかけてやると普通に発眼して、たくさんの子供ができることがわかりました。これらの子供は異質三倍体と呼ばれていますが、このような異質三倍体は両親の中間的な性質を持つこともわかりました。
病気に強くて、成長が早くて、姿が良くて、食べておいしくて、飼育しやすい…etc.
こんな夢のようなスーパートラウトができないか?
ニジマスと様々なマス類と組み合わせ、試行錯誤を重ねた結果、ブラウントラウトとの交配に利点が多いことがわかりました。すなわち、育てやすく肉質もよいニジマス、ウイルス性の病気に強いブラウントラウト、この両方の性質を持ったニジニジブラが誕生したのです。
水産試験場が開発した、「四倍体を使ってすべて雌の異質三倍体を作り出す技術」は、全国初の手法です。また、水圧処理で四倍体を作り出すのは難しいことであり、三倍体を効率よく作り出す技術を確立したことは、「世界的成果」だと高い評価をいただいています。
こう書くと、簡単な話のように思われますが、この技術で作った三倍体が本当に大きく成長するのか、病気に強い性質が保たれるのか、生態系に影響はないのか、地道な実験、観察、データ集めなど、何代にもわたる研究担当者の苦労があって、今日の「信州サーモン」が生まれたのです。
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