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更新日:2017年4月1日
登校したくてもできない子どもや高校を中退する生徒等「学校生活に適応できない」児童生徒の問題がますます深刻になっています。県教育委員会では、こうした状況を打開し、一人一人の児童生徒が楽しく健やかな学校生活を送れるように、平成元年度、大学教授や精神科医等専門家、父母を含めた「学校不適応対策委員会」を設置しました。本年度は、「登校拒否」に焦点をあてて検討してきました。その成果を、生徒指導キーポイントシリーズ3.「学校不適応児童生徒に対する指導の在り方」としてまとめました。その主要部分を中心に再編集したものが本号です。
登校拒否に対する理解は次第に深まってきましたが、しかし、専門家からは学校や教師の理解、対応等の甘さが指摘されています。原因を教師自身や学校生活上の諸問題に求めず、児童生徒個人の資質や家庭の問題に多く求めているといった指摘がされています。そして、子どもの置かれている状況を子どもの立場から見つめなければ成果のあがる対応ができないと論じています。
登校拒否の原因・背景は、学校、家庭、社会のそれぞれの要因が複雑に絡みあっていると考えられ、学校のみによって解決されるものではありません。しかし、解決にあたって教育の専門機関としての学校の役割は大きく、教師の責任は大きいといわなければなりません。
本号及び生徒指導キーポイントシリーズ3.を参考にして、登校拒否についての理解を一層深め、指導のあり方を検討してほしいと思います。
平成2年2月28日 長野県教育委員会 生徒指導幹
県下の公立小・中・高校の登校拒否児童生徒(学校ぎらいを理由に年間50日以上の欠席)の推移は表1のとおりです。
表1 県下公立小・中・高校の登校拒否児童生徒の推移
(%在籍比)
年度 |
小学生 |
中学生 |
高校生 |
||
長野県 |
全国 |
長野県 |
全国 |
長野県 |
|
54 |
43人 |
0.03% |
118人 |
0.24% |
|
55 |
36 |
0.03 |
136 |
0.27 |
95人 |
56 |
40 |
0.03 |
151 |
0.30 |
128 |
57 |
55 |
0.03 |
202 |
0.36 |
182 |
58 |
50 |
0.03 |
269 |
0.42 |
227 |
59 |
65 |
0.03 |
345 |
0.45 |
204 |
60 |
82 |
0.04 |
369 |
0.47 |
233 |
61 |
94 |
0.04 |
376 |
0.49 |
272 |
62 |
85 |
0.05 |
397 |
0.54 |
312 |
63 |
143 |
0.06 |
514 |
0.61 |
351 |
<注>高校は55年度から調査
表2 登校拒否児童生徒数の全児童生徒数に占める割合(%)の推移
この10年間に小学生は2.3倍、中学生は3.4倍となっています。また高校生は55年度からの調査で、この9年間に2.7倍といずれも増加が目立ちます。在籍比を全国と比較すると表2のとおりで、小学生が63年度急増して全国平均を上回っています。
また文部省が毎年行う学校基本調査の結果によると、国・公・私立の小・中学校において、63年度「学校ぎらい」を理由として50日以上欠席した者の数は、小学生6,285人、中学生36,100人であり、いずれも昭和41年度の調査開始以来最も多くなっています。
63年度の小・中学生の登校拒否の態様は表3のとおりです。
学校生活に起因するもの | いやがらせをする生徒の存在や、教師との人間関係等、明らかにそれと理解できる学校生活上の原因から登校せず、その原因を除去することが指導の中心となると考えられるもの。 |
遊び・非行に起因するもの | 遊ぶためや非行グループに入ったりして登校しないもの。 |
無気力に起困するもの | 無気力で何となく登校しないもの。登校しないことへの罪悪感が少なく、迎えに行ったり強く催促すると登校するが長続きしない。 |
不安等情緒的混乱に起因するもの | 登校の意志はあるが身体の不調を訴え登校できない。漠然とした不安を訴え登校しない等、不安を中心にした情緒的な混乱によって登校しないもの。 |
意図的な拒否 | 学校に行く意義を認めず、自分の好きな方向を選んで登校しないもの。 |
複合しているもの | 上記の型が複合していていずれが主であるかを決めがたいもの。 |
区分 |
小学生 |
全国値 |
中学生 |
全国値 |
学校生活に起因するもの |
7人(4.9) |
(5.4) |
45人(8.8) |
(6.5) |
遊び・非行に起因するもの |
0 ( 0) |
(1.9) |
22 (4.3) |
(19.1) |
無気力に起因するもの |
39 (27.3) |
(29.7) |
165 (32.1) |
(30.0) |
不安等情緒的混乱に起因するもの |
68 (47.5) |
(39.4) |
188 (36.6) |
(27.2) |
意図的な拒否 |
5 (3.5) |
(3.2) |
31 (6.0) |
(5.0) |
複合しているもの |
18 (12.6) |
(13.3) |
44 (8.5) |
(9.6) |
その他(上記のいずれにも該当しないもの) |
6 ( 4.2) |
(7.1) |
19 (3.7) |
(2.6) |
計 |
143 (100) |
(100) |
514 (100) |
(100) |
小・中学生とも「不安等情緒的混乱に起因するもの」「無気力に起因するもの」が多くなっています。これらの態様に次いでは、小学生が「複合しているもの」中学生が「学校生活に起因するもの」が多くなっています。
全国と比較すると「不安等情緒的混乱に起因するもの」の割合が高いことと、「遊び、非行に起因するもの」の割合の低いことが自立ちます。
63年度小・中学校の登校拒否児童生徒の登校拒否の直接のきっかけは表4のとおりです。
登校拒否に陥った直接のきっかけは、小学生では「家庭生活での影響」中学生では「学校生活での影響」とするものが多くなっています。さらに「学校生活での影響」の内訳をみると「学業の不振」「友人関係をめぐる問題」が多くなっています。(表は教学指導課調べ)
区分 |
小学生 |
中学生 |
|||
長野 |
全国 |
長野 |
全国 |
||
学 |
友人関係をめぐる問題 |
19人(13.3) |
(10.5) |
83人(16.1) |
(15.0) |
教師との関係をめぐる問題 |
10 ( 7.0) |
( 2.9) |
15 ( 2.9) |
( 1.5) |
|
学業の不振 |
8 ( 5.6) |
( 7.1) |
113 (22.0) |
(16.9) |
|
クラブ・部活動等への不適応 |
1 ( 0.7) |
( 0.4) |
9 ( 1.8) |
( 1.7) |
|
学校のきまり等をめぐる問題 |
0 ( 0 ) |
( 0.7) |
6 ( 1.2) |
( 2.8) |
|
入学、転編入学、進級時の不適応 |
4 ( 2.8) |
( 4.4) |
22 ( 1.3) |
( 1.2) |
|
小計 |
42 (29.4) |
(26.0) |
248 (48.3) |
(42.2) |
|
家 |
家庭の生活環境の急激な変化 |
14 ( 9.8) |
(12.2) |
34 ( 6.6) |
( 9.0) |
親子関係をめぐる問題 |
31 (21.6) |
(19.3) |
72 (14.0) |
(14.2) |
|
家庭内の不和 |
19 (13.3) |
( 6.3) |
29 ( 5.6) |
( 7.6) |
|
小計 |
64 (44.7) |
(37.8) |
135 (26.2) |
(30.8) |
|
本 |
病気による欠席 |
6 ( 4.2) |
( 8.3) |
34 ( 6.6) |
( 7.7) |
その他本人にかかわる問題 |
12 ( 8.4) |
(12.0) |
59 (11.5) |
( 9.2) |
|
小計 |
18 (12.6) |
(20.3) |
93 (18.1) |
(16.9) |
|
不 |
その他 |
10 ( 7.0) |
( 7.0) |
15 ( 2.9) |
( 3.1) |
不明 |
9 ( 6.3) |
( 8.9) |
23 ( 4.5) |
( 7.0) |
|
小計 |
19 (13.3) |
(15.9) |
38 ( 9.4) |
(10.1) |
|
合計 |
143 (100) |
(100) |
514 (100) |
(100) |
登校拒否という状態は、<子ども側の要因>、<家庭側の要因>、<学校側の要因>、<社会的な要因>が複雑に絡まり合って生じます。従って、これらの要因が登校拒否の背景や原因になります。登校拒否の背景や原因はこの30年間にさまざまに論じられてきました。単純に「子どもが悪い」「家庭が悪い」「学校が悪い」という表面的なとらえ方では何も解決されないと言うことは明らかになっています。それをあえてここで検討するのは、単なる調査や研究のためではありません。登校拒否への指導や治療のために欠かせないからです。登校拒否の事例に出会った時に、<子ども側の要因>の中のどの項目がその事例に見られるか、<家庭側の要因>の中ではどの項目か、<学校側の要因>では、などを的確に把握することが、その事例の背景や原因を考えるさいの視点になるからであり、その視点が対応や治療に結びつくからです。また、難しい事例を再検討する時に、次ページの表をチェックリストとして、それぞれの要因の中に当てはまる項目はないか考え直してみることも有用です。例えば、中学2年A君の登校拒否の事例では、<子ども側の要因>は受身の人間関係の持ち方の項目、<家庭側の要因>は親が表面的なことだけで内側を見ないで子どもを評価してしまう項目、 <学校側の要因>は受験本位の授業になり、基礎学力の不足している生徒への対応策がないことの項目などが見られ、これらに取り組んで行くことがA君の事例への対応策となります。ただし、1つの要因だけに登校拒否の背景や原因があることはまずありません。子どものしつけの悪さだけ、教室のいじめだけ、母親の育て方だけにとらわれていると登校拒否はいたずらに長期化するだけです。
長期化している事例の中に<家庭側の要因>も<学校側の要因>も解消されたのに、登校拒否の状態が依然として続いている事例をしばしば経験します。また、中学校での登校拒否が何とか改善したのに、高校に進んで再び登校できなくなる事例もよく見られます。
これらの事例では<子ども側の要因>の中の人間関係の持ち方の片寄りがなかなか変っていかないことがその最大の原因と思われます。ここでいう人間関係の持ち方とは、子どもが親や教師に対してあるいは友達の中で、いつもどのように自分の本当の気持や意見を表わして、それを行動に移しているのかということです。この人間関係の持も方の片寄りは否定的に見るのでなく、今まで家庭や学校の中でそうするしかなかったと肯定的にとらえることもできます。また、登校拒否の子どもに限らず、非行の子どもや普通に登校している子どもにも多く見られます。
指導や治療のために、「人間関係の持ち方の片寄り」を過剰適応のタイプ・受身のタイプ・衝動のコントロールがへたなタイプの三つに分けます。
具体的には、最初にこのような子どもの人間関係の持ち方を親に十分に理解してもらう必要があります。親の理解があって初めて、親と子どもが対等で余裕のあるかかわりが持てるようになるからです。
過剰適応のタイプの子どもには、そんなに無理して背伸びをしないで、本当の自分の姿をそのままに出すように根気よく支えていくことが大切です。
受身のタイプの子どもには、その子どもが本当はどうしたいのかを表わせるようにじっくりと接します。また一人でもかかわれる教師か友達を学校の中に探していくことが欠かせません。そのような人が一人でも校内にいるだけで、子どもはとても気が楽になります。
衝動のコントロールがへたなタイプの子どもには、学校の内外にかかわる友達の仲間や集団を見つけ、その中で自分の衝動をコントロールして行動することが身につくように支えていきます。
もちろん、以上のような取り組みは、<家庭側の要因>およびく学校側の要因>を改善させていく取り組みと並行して行われなければなりません。
【人間関係の持ち方の片寄り】
【学習不振】
【強い分離不安】(保育園・幼稚園や小学校の低学年の登校拒否の場合)
【表に現われた家庭内の問題】
【裏に隠された家庭内の問題】
【登校拒否が起こった後の問題】(長期化する要因)
【登校拒否が起こる前の問題】
【登校拒否が起こった後の問題】(長期化する要因)
※ここ数年の登校拒否の激増は、この社会的要因が深刻になっていることが強く関係していると思われる。実際の指導や治療の際には直接に関係してこないが、これへの対策を講ずることも重要である。
「登校拒否の背景や原因」で述べたように登校拒否の背景や原因をとらえていくと、登校拒否の子どもを指導・治療していく時の目標は、次の3点にしぼられます。
子どもが学校を休むことの意味はさまざまであり、最初の頃は、子ども自身も気持が不安定でその意味にほとんど気づいていません。子どもの気持を十分に受入れるようにしてつきあっていくと、すなわち子どもと余裕のある対等な人間関係ができるようになると、子どもの方から休むことの意味が少しずつ語られるようになってきます。そのような中から子どもは自分の内面の整理をしていきます。この過程に寄り添っていくことが指導・治療であり、それは生徒のパーソナリティーの発達への援助とも言えます。
子どもの内面の整理がなされていくと、子どもは自分の意見や気持を進んで話すようになります。その中に、これからどうしたいのかという話も含まれてきます。登校拒否の子どもは「学校にまた行きたい」という選択をすることがほとんどです。しかし1の過程がなされないままに、教師が性急に登校を前面に出して指導すれば、子どもとの信頼関係が築かれることは決してないでしょうし、子どもは学校に目を向けるようにはならないでしょう。
子どもが再登校という選択をした時には、教師は子どもと相談しながら登校しやすい学校や教室をつくっていくことが大事です。さらに、登校できた後、子どもが教師と持てたような人間関係を同級生とも持てるかどうか、同級生の中に入って自分の気持や意見を自然に言えるのか、という点は注意して見守っていかねばなりません。
高校生の場合には、社会に参加するという選択をすることもあります。その時にも、子どもは援助を待っています。
子どもが学校を休むことの意味の中には、子どもを取り巻く家庭や学校への問題提起が含まれていることもあります。家庭や学校が変っていくことが大事なのは言うまでもありません。
登校拒否の場合には、担任の教師が一人で子どもを抱えこんでしまうことが多いのですが、非行の場合と同様に学校全体として取り組んで行くことが大切です。また、担当の教師が自ら相談機関に出向いて、相談の場に参加することも欠かせません。
「登校拒否の背景や原因」で述べたように子ども側の要因、家庭側の要因、学校側の要因、社会的な要因が複雑に絡み合って、登校拒否が生じています。これらの背景や原因のうち、学校として、家庭として何ができるかを考えてみます。
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