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更新日:2017年4月1日

指導資料No.49 あたたかい人間関係をはぐくむ学級経営

 「困っている時に力になってくれる」「できたことや努力したことを認めてくれる」「学級会で自由に意見を出せる」このような雰囲気の学級は登校拒否や問題行動とは縁がない学級だと思います。
 本号はそのような学級経営へのねがいをもってつくりました。ご活用をお願いします。

平成3年12月27日 長野県教育委員会 生徒指導幹

目次

  1. 学級経営は生徒指導の基盤づくり
  2. 学級づくりの方途
  3. 学級担任の生徒指導上の役割
  4. 指導実践事例

 学級経営は生徒指導の基盤づくり

学級経営は、生徒指導そのものである

 学級経営とは、学校経営の基本方針のもとに、学級を単位として展開される様々な教育指導の成果を上げるため必要な諸条件の整備をおこない、運営することです。
 この条件整備は、教室や教材教具の整備である物的条件の整備と学級集団の人間関係の改善、調整である精神的条件の整備に大別することができます。後者の精神的条件の整備は学級内の教師と子ども、子ども同士の相互理解、人間関係の促進および集団への適応を内容とするものですから生徒指導そのものです。
 このようなことから「学級経営は生徒指導そのものである」とか、「生徒指導の決め手は学級経営である」と言われるのです。次のようなことが学級に実現した場合、学級経営が充実していると言えましょう。

  • 教師と子どもとの間の共感的理解にもとづく信頼関係の成立
  • 子ども相互があたたかく支え合う人間関係(支持的学級風土)の成立
  • 高い学習意欲、集団活動意欲
  • 学級規律の成立
  • 学級に対する満足感、誇りの成立

学級づくりのめざすもの

 学級は、はじめ「つくられた集団」ですが、連帯感をもってまとまり協力し合う「われわれ感情をもつ集団」に育て上げていくことが必要です。学級は、一人一人の子どもにとって学校生活のよりどころであり、心のよりどころでなければなりません。学級は、子どもたちが気がねなく語り合い、共に喜び悩みを分かち合い、共感的に理解し合うとともに、相互に批正し合い高め合う集団でありたいものです。
 学級経営の充実は、そのまま子どもたちの学習と生活の向上に結びつくものですから、学級を学習と生活の両面にわたって子どもたちの自己実現の場とするように、不断の努力が学級担任に求められるのです。

  1. 一人一人をあたたかく受容する
     反社会的な問題行動を起こしている子どもの多くは、とかく教師から拒否されている、受容されていないという意識をもっています。反対に学校の担い手として意欲的に励んでいる子どもは、教師から受容されていると感じている場合が多いのです。
     言うまでもなく、学級担任が一人一人の子どもをあたたかく受けとめることによって、子どもは受容されているという気持ちになるものです。
  2. 子どもが相互に認め合い支え合う学級に
    次のような指導によって、子どもが互いに相手を認め合い支え合うようにします。
    • 相手の言動について相手の身になり、相手の立場に立ち、考えをくみ取る。
    • (2)相手の言動のよいところを見つけ出す。
    • どんな考えも嘲笑しない。「はみ出し」と思える考えも大事にする。
    • (4)相手に注文するときは相手を責めるのでなく、素直に自分の考えを示す。
  3. モラルを高め誇りのもてる学級に
     生徒指導が機能している学校では、子どもが何かの課題、仕事にひた向きに取り組んでおり、横道にそれて非行に走ることはまずありません。
     皆で協力し合いながら取り組む過程で忍耐力や協調性、人間関係処理能力などの健全な人間形成がなされるのです。学級担任は、子どもの生活意欲を高め集団活動を組織し活性化することが必要です。
     子どもは充実した学級生活が送れると、学級に対する誇りをもつようになります。誇りがもてると子どもは主体的に自己の行動を律していくようになり、集団の規律が生まれてきます。このことが問題行動の発生防止だけでなく、健全な人間形成を促進します。これが最も堅実な生徒指導の道と言えます。

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 学級づくりの方途

子どもへの確かな願いをもつ

 学級担任はまず、学級の子どもがどう育って欲しいのか、そのビジョンを明確にもたなければ、充実した学級づくりは望めません。
 学校目標、生徒指導目標、学年目標に学級の子どもの実態等を重ねて吟味し、具体的な子どもの姿で表した学級目標、学級経営案を作成し、その実現に絶えず努めることが大切です。
 目標設定に当たっては、学級の一人一人が平素考えていることを出し合い、それを整理し統合するための話し合い活動が大事です。この過程で子どもたちは「自分たちの学級目標である」という切実感、親近感をもつことができるのです。この学級目標をもとに、級友と共に毎日の生活に即して改善充実に努めていくことが学級生活の向上につながるのです。この場合、学級担任は一人一人の子どもの課題意識を啓発し、励ましていくことが大切です。

一人一人の子どもを大切にする

 子どもにとって学校が楽しく活気あるものになるか、暗く萎縮したものになるか、しっとりとしたものになるか、荒れたものになるか、それらは学級担任のあり方にかかわってくると言っても過言ではありません。まず、この重みを学級担任はかみしめてみる必要があります。
 では、学級担任の何が子どもに決定的な影響を与えているのでしょうか。端的に言って学級担任の子どもに対する態度ではないかと思います。
 教師の学識、指導技術、教育経験は無論大きな影響を与えますが、学級担任が人間的な関心と愛情をもって一人一人の子どもに接するか、それとも無関心であるかによって、学級の子どもは大きく違ってきます。
 どの子どもももっている次のような欲求(願い)に応えられる教師でありたいものです。

  • 教師から関心をもたれ、働きかけられたい。(関与への欲求)
  • 自分の気持ちや言い分を聴いて欲しい、分かって欲しい。(共感的理解への欲求)
  • 自分の価値を認められたい。(自己承認への欲求)

支え合い励まし合う学級をつくる

 中学1年のA子さんは、自分の学級について次のように記しています。
 「今年は、6組にたくさんの問題がありました。でも、そのたくさんの問題が出る度に、少しずつよくなってきていると思いました。今話し合いをしていて、6組というクラスとしての一つのまとまりとして、物事を考えてきていると思うんです。自分としては何かある人がしたら、それを友達として、その人のために注意できる人間でありたいと思いました。6組というクラスの仲間が、自分にとってすごく大切なものでありたいし、また自分は6組に大切な人物と思ってもらうくらい努力していきたいです。」
 このように一つ一つの問題を皆で力を合わせて解決していく中で、子どもたちは学級に根づき生きがいを見い出していくのです。級友の力なしには自分の成長があり得ないことを互いに実感し合う、支え合い磨き合う学級をつくりあげたいものです。
 互いに相手の身になって考え、励まし合える学級は、子どもたちに安らぎと生きがいを与える活力に満ちた居心地よい場となります。
 このように学級が成長してくると、子どもたちは、必ず学級のために役立ちたいという意欲をもってきます。学級のために役立つことなら何でもかって出るという気持ちになるものです。

心を合わせてつくりあげる感動体験を

 中学1年のB子さんは、運動会の後、次のように感想を述べています。
 「いよいよ学年種目。皆で力を合わせて作り上げた『タイムトンネル日本史』。初めは恥ずかしかったけど、だんだん慣れて本部の前では、堂々と演技が出来ました。松の廊下の絵を持っていたんだけど、すごい拍手が聞こえて感心した顔が見え、とっても嬉しかった。それが土台となってその後の演技にも熱が入って大成功でした。先生方から『よかったぞ』と言われ最高でした。」
 このように学級担任は、お楽しみ会、学級新聞、運動会、クラスマッチ、学級旗づくり等々の学級文化活動に子どもが真剣に取り組み、一人一人が役割を分担し責任を果たし、互いに協力し合い学級が一つになって成し遂げていく素晴らしさ、満足感を体験できるように援助することが大切です。

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 学級担任の生徒指導上の役割

子どもたちの人生におけるよき先達となる

 生徒指導においては、子どもと共に努力する人間的なふれあいを基盤とする教師の姿が基本です。教師には子どもと共に、もろさや不安を内在させながらも、人間として尊重し合い、一緒に求めていく真摯な態度が必要です。
 そのうえに、子どもの前を歩く先達としての自覚と力量と絶えざる自己啓発へのひたむきな情熱を示すなら、信頼関係はますます深まります。ここでたゆみない努力を重ねている教師の姿を例示してみましょう。

  • 子どもに要求する以上に自己に厳しく臨み、率先して自らことに当たる。その誠実な態度が子どもに安心感、信頼感を与える。
  • 教師とても万能ではない。不得手な問題に直面しても、避けることなく果敢に取り組む。その積極的な態度と気迫は、子どもに活力を与える。
  • 教師中心の発想を押さえ、常に子どもの自立を促すという立場に立って援助していく。このことが子どもの真の幸せを願う愛情となり、学級をあたたかい雰囲気に包む。
  • 他人の喜びや悲しみに敏感である。それは子どもに思いやりの心をはぐくむ。
  • 物事の一端をとらえて判断を下さず、常に多角的でかつ全体の流れを把握したうえで結論を求める。この態度は、子どもに広い視野や的確な判断が大切であることを教える。
  • ことが思い通り運ばなくても、感情的になったりいらだつことなく、子どもに対していつも明朗闊達、ユーモアのある態度を忘れない。それは明るさとゆとりのある生き方の大切さを教える。
  • 話し上手であり、しかも聞き上手でもある。先生が理解してくれたという満足感は、やがて信頼感にまで高まる。
  • 豊かな教養と広い視野をもち、話題が豊富である。広く深い学識は、子どもにあこがれと信頼感をいだかせる。

 いずれにしても、真摯に生きる一求道者としての教師の姿に子どもたちが触れることは、出会いによる目覚めを経験するまたとない機会となるものです。

子どものよき理解者となる

 教師は子どもの生育歴、家庭環境と人間関係、性格、学校生活等々の情報を収集することも大切ですが、最も大切なのは、その子が何に悩み、悲しみ、喜びを感じ、どう自分をつくっていこうとしているのか、どのようにして自分を成り立たせようとしているのかという子どもの内なる気持ちを受け止めわかろうとすることです。
 子どもの話を誠意をもって一生懸命聴き、子どもの気持ちにかかわっていく態度が必要です。したがって教師は子どもについての情報によって反応するよりも、子どもの気持ちに反応していくことの方が大切になります。

開かれた学級経営をおこなう

 一人の子どもに対する各教師の態度に一貫性が欠けるようなことがあると、教育の効果は著しく損なわれます。したがって教師間の情報交換、共通理解にもとづく、指導の一貫性を保つことが大事です。
 学級担任は、自分の指導について謙虚に反省し、独善的ないわゆる学級王国のそしりをまねかないように自己をいましめることが大事です。
 学校や学年の方針を考慮せず学級の独自性のみを強調したり、難問を一人で抱え込むことのないようにしなければなりません。
 自分の担任している学級を学年、学校の立場からとらえ直し、学校全体の中での位置や他に与える影響を判断しながら、学級づくりを進めることが必要です。

保護者との信頼関係をつくる

 学級担任は、家庭が子どもの健全な成長と発達に重要な役割を果たしていることを深く理解し、学級の指導方針について家庭の理解と協力を得るとともに、意見や要望が寄せられるような信頼関係を日頃から築いておくことが大切です。
 一人一人の子どもには長所もあれば短所もあります。子どもの短所や課題を指摘するだけでは不信感や反感をいだかせてしまいます。長所を認め伸ばすように働きかけることによって、自らの短所や課題に子ども自身や保護者が気づき、それを主体的に受けとめ克服できるよう援助していくことが大事です。また、教師も人の子の親として、共に悩み力を合わせて取り組んでいく態度で臨むことが、教師への信頼ひいては子どもの信頼を得るもとになります。

落ち着いた学習環境をつくる

 環境は人を作ると言われます。教室環境の構成や整備は、子どもの望ましい生活習慣の確立、学習意欲の喚起、情緒の安定などに大きく影響するものです。
 教室の施設や設備を整え、学級生活にふさわしい安らぎと明るくて清潔な雰囲気を生み出すように努力することです。さらに、草花の栽培や動物の飼育、教室の美化などを通して、うるおいのある美しい環境のもとで子どもの情操を豊かにするとともに、健康・安全面への配慮に努めることは大事なことです。

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 4. 指導実践事例

いじめを克服した―児童を信じながら―(小学校指導事例)

親の願い

 5年生新学級担任として出発して間もなく、C君の母親から手紙が届きました。「生まれたときから足にホクロがあり、今までに5回手術をした。傷跡の回復が悪く、紫外線に当たると悪い影響があるので、いつも靴下をはかせてください」という内容でした。さっそく家庭訪問をし「学級の皆に話し、知ってもらったらどうでしょう」と相談をしたところ、C君とおばあさんが強く反対しました。足の傷跡は大きく、痛々しかった。「いつかぼくからクラスの皆に話したい」というC君の気持ちを大事にしようと考えました。その帰り道、近くまで送ってくれたC君は、化石に興味があること、ファミコンが得意なことなどをききとして話してくれました。学校では見せない明るい表情でした。

発育測定

 発育測定のとき、男子児童が「C君はいつも靴下をはいているんだよ」と早くも気になる反応が出てきました。C君は、体をまるめ、靴下をはいて体重計に乗っていました。C君自身も気にしている様子がうかがえました。その時、皆に事情を話そうとも考えましたが、思い止まりました。C君の気持ちを大事にすることやC君を支えるクラスづくりが先決だと考えたからでした。「心配してくれてありがとう。そのうちにC君が話してくれるから」とその場は収めました。その夏、C君はプールにも入ることができませんでした。友達の少ないC君でしたが、時々D君と二人で話をしました。D君がC君を支えてくれることを願い、二人を呼んでは、共通の話題を作り楽しい時間を持つように心がけました。二人は次第に親しさを増していきました。

ゆれるクラス

 放課後教室を整理していると、“バイキン”と書かれたノートの切れ端が落ちていました。その翌日も同じような紙切れをゴミ箱の中で見つけました。しばらくクラスの様子を注意深く観察することにしました。数日後、D君がC君を連れてやってきました。

 D君は何やら興奮しています。“バイキン”、“きたない”“机にさわるとくさる”などと書かれた紙切れが、C君の机の中に入れられたのを知ったD君は、いけないことだと訴えてきたのでした。D君の立派な態度を褒めC君には、君の味方になってくれる人が他にもたくさんいるはずだからと元気づけました。クラス内にD君の態度に共感する児童が次第に増し、事件も収まったかに見えました。休み時間が終わり教室へいくと何やら騒がしいのです。壁面に貼られたC君の絵の前で、数名の男女が盛んに言い合いをしています。C君の絵の横に貼られていた絵が、他の場所へ移動されていると言うのです。絵を移動した女子の言い分は「C君の絵が汚い」ということでした。D君たちの怒りは収まらず、学級全体の問題へと発展しました。

変容した児童

 学級会で話し合うことにしました。絵はC君が心をこめて描いたものであること、“バイキン”“きたない”などのいたずらにC君がどれほど悩み、苦しんでいたかをC君を支える児童たちが次々に訴えました。次第に共感する児童が増していきました。終わりには涙の学級会となりました。学級会が終わると、C君の周りには、多くの児童が集まり、涙を拭いながら詫びる姿がありました。

心を開くC君

 何週間か過ぎて、C君が「ぼくの足のことを話したい」と相談にきました。学級の皆が信じられるようになったから、朝の3分間スピーチで話したいと言うのです。スピーチの朝、C君は落ち着かない様子で職員室へ来ました。C君の手を握り、肩をポンとたたいて送り出しました。C君はニコッとして走っていきました。「ぼくがいつも靴下をはいているのは……」児童は何事かと息を呑んで聞き耳を立てました。話し終えると、C君は靴下を脱いで皆に見せたのです。級友の目は傷跡に注がれました。誰も一瞬声が出ませんでした。
 「痛くない……」「走ってもいいの……」「手術のとき痛くなかった……」
 次々に出るC君を思いやる言葉が教室を埋め尽くしました。それ以来いじめもなく、C君の生き生きとした姿の見られるうれしい毎日です。

学級をまとめていった(中学校指導事例)

 混乱していた学級の担任を中2から受け持ち、生徒一人一人の自立を高めながら学級をまとめていった担任の取り組みです。

1年の頃の2組

 この学級の生徒が入学した年、学校には3年生を中心に幾つかの突っ張りグループがあり、荒れた状態でした。入学直後に、その3年生におどされてジュースなどを買いに、使い走りをさせられた子もいたようです。
 1組のG男たち男子は、そんな3年生を見習うかのように、次第に好き勝手な行動をするようになっていきました。教科書を持たずに授業に出て、取りに行くと言って遊び歩いていたり、清掃を皆で逃げ出したこともありました。女子の間に、陰でいじめなどがあったようです。

担任の見届けと決意

 3学年を卒業させたE先生は、すぐ2年2組の担任になりました。担任は、「きみ達のことはよく知らないので教えて欲しい」と言って学級の様子を書いてもらいました。「まとまりがない」「男子に悪がいる」「先生から睨まれている」などと悪いことばかりが書いてありました。担任の観察でも大体生徒の言うとおりで、特に、自分たちの学級は駄目学級だという劣等意識が強いこと、他の生徒の失敗を冷ややかに眺めているなど学級の中に思いやりのないこと、男女の間に不信感が根強いことが気になりました。
 担任は当面、生徒に積極的に働きかけて、やらなければならないことはやらせ、3年生になった時には、自分たちで考えて進めるような生徒にしたいという願いをもちました。

担任の取り組み

 4月早々、1年からいじめられていたF子の靴入れがいたずらされました。担任は、学級全体に「いじめは絶対に許さない」と宣言をするつもりで、本気で叱りました。
 給食を整然ととることができませんでした。準備に時間がかかり、食べだすのもまちまち、食べ終わって席を立つのもばらばらな有様でした。担任は「1時までに準備を終了するように」と強く注意しました。その後もなかなか改善されませんでした。そこで担任は、当番の生徒と一緒になって、何の指示や命令もせず準備をし続けました。そして、全員食べ終るまで、生徒と歓談することに努めました。3週間ほどで改善されましたが、その間給食の話は一言も言いませんでした。
 給食の残り物が学校の隣の民家に投げ込まれました。2年2組の生徒がやったのでした。担任は投げられた現物を示し、話し合うように指示しました。担任は話し合いでは見守る姿勢に徹しました。最初の話し合いでは、誰がやったかを追求するだけで、途中から沈黙の状態になってしまいました。これは話し合いではないと、さらに話し合うことを求めました。次の話し合いは、生徒だけでさせましたが充実したものになりました。記録に「見て見ぬふり」「とめようとしない」「全員で謝りにいこう」などと生徒一人一人の反省と、これからの具体的取り組みが書いてありました。

一人一人の子どもに寄り添って

 掃除用具入れが壊されました。誰が壊したのかおおよそ見当がついていましたが、担任は「こういうものの修理が上手な人はいないか」と声をかけると、生徒たちは「G男がうまい」と言いました。担任はG男と一緒に修理をしました。見事な出来栄えで、G男を大いにほめる機会を得ました。実は壊すのもG男、修理するのもG男でした。
 G男の家へ家庭訪問をしたとき、母親はしきりと迷惑をかけて申し訳ないと繰り返しました。担任は別に迷惑を被ったこともなければ、困ってもいない旨を伝えると、母親もG男自身も安心していろいろ話してくれるようになりました。

子どもたちが動き出した ―賞状が欲しい―

 2年生の秋、ベルマーク集めに学級全体が一丸となりました。続いて、ゴミ溜めのようになっていた中庭の池の掃除をやりだして、学校中の注目を集めました。これらは生徒たちだけの発案でした。池の掃除で、一人の生徒が「これで賞状がもらえないかな」ともらしました。かつて担任が卒業するまでに34(学級の人数)枚の賞状を集めようと言ったことによるものです。
 生徒たちは、他の学級と同じことをしていたのでは、今までの評判を回復し、他の学級を越せない。何か違ったことをしようという意識がありました。担任はそれを読み取り、その方向で援助していこうと考えました。

車いすのH君を迎えて

 車椅子で排尿もままならないH君が学校生活に適応できるか試し登校をすることになり、担任は率先して自分の学級に迎え入れました。1年間で学級の子どもたちがH君を包み込んでいくまでに成長していることを確信し、迎えることで一層子どもたちの心が豊かに成長していってくれることを期待しました。
 初めは、2時間おきの排尿の手伝いに担任が駆けつけていました。そのうちに見張りの生徒が立ち、まもなく排泄物の始末をする生徒が現われ、ついに「先生俺達がやるよ」と言うまでになりました。修学旅行も一緒に行くことができました。全行程、すべての見学地の行動を共にしました。生徒がそれを希望し旅行の目的の一つにしました。バスの乗り降り、旅館での寝起きまで、生徒が積極的に計画を立て協力し合って成し遂げました。

この事例に学ぶこと

 E先生は、かつての突っ張り生徒と学校で最も関わることができていたそうです。周りの教師はE先生が粘り強く彼らの話を聞いてやるからだとみています。E先生自身は言葉を大切にしていると言い、生徒の分かる言葉を選んで話すのだと言っています。生徒の分かる言葉とは生徒の気持ちを受け入れ、理解した言葉ということになるでしょう。
 教師の「絶対に許さない」ことは、言葉ではなく、行動を共にするなどして、子どもたちとの間に気持ちが通い合って受け入れられるものです。
 担任のいないところでも「皆で謝りにいこう」と充実した話し合いができたのは、教師が「子どもたちのよい学級にしたい」という気持ちを受けとめ、教師の真剣な願いと適切な援助があって、はじめて可能になります。
 G男はその後学校祭の係になり、進んで担任に相談しながら任務を全うした生徒です。信頼し認めてくれる担任や学級の期待には、応えようとするものです。

「みんな同じに悩んでるんだ」(高校指導事例)

意欲の無くなっていく生徒

 「2年生になってからの特活(LHR)や学活(SHR)での連絡事項に進学関係が増え、担任の話がますます無味乾操になって…」と、I先生が反省し始めたのは五月の連休明けの頃からでした。また、学級の生徒たちの考え方や行動までもが内向的傾向だな、と感じ始めたのもこの頃からです。「どうして?」の疑問を持ちながらも、2年生になってまだ日も浅いし、そのうちに活気も出て来るだろうと安心していました。しかし、六月のクラスマッチの頃になっても一向に改善の兆しもなく、むしろ深刻な様相さえ見え始めてきたのです。

  1. (1)自分の意見をはっきり言わない。
  2. (2)クラス討議に参加の意欲が無くなったり、人の意見にも関心を示さなくなった。
  3. (3)言葉や行動に活気や張りが見えない。
  4. (4)イライラしている様子が見られる。
  5. (5)教室内の清掃が雑になってきた。

などが目立つようになってきたのです。
 昨年の秋のクラスマッチの時にはすぐ決まったのに、選手もなかなか決まりません。「2年生の今年はクラスの得点を考えたり、勝たなければ、と慎重に選考しているのかな」とも思って見ていましたが、選手のなり手が無いことが原因とわかりました。あんなに活発であった生徒がどうしてこうなるのか不思議なくらいでした。

他人のことより自分のこと

 教育実習の時期に入り実習生が学級日誌を担当し、いろいろコメントを書いてくれました。生徒たちからは、質問や意見などがたくさん書かれていましたが、その中に大学受験への内容が今までより大変多くなったことに気づきました。「関心が無いよりむしろいいじゃないか」I先生は歓迎すべきことと当初は思っていましたが、自分のことのみを考え、他を顧みようとしない受験生心理を感じ、がく然としました。

  1. (1)時間が無い。余計なことをしているよりもまず学習時間の確保をしたい。
  2. (2)「仲間と協力しなければ」とはわかっていても、入試のことを考えるとその気持ちにもなれないので、最初から手を出さない。
  3. (3)行事は誰かが頑張ってくれれば、一人くらいはずれても大勢に影響はない。
    などの態度が見えます。

 そんな生徒からは、

  • 仲間と共に歩む楽しさ、愉快さを味わう心
  • 支え合い、支えられた喜びや感謝の心
  • 成就の感動、感激をわかちあう心

を大切にする姿は全く見えません。

 自分の道は一人で切り開くという敢闘精神は見えても、人のために尽くし皆が明るく共に伸びようという思いやりの心が見えません。

進路や学習を話す

 こんな状況を打破するために、I先生は生徒たちにある提案をしました。それは、《自分の進路計画を皆の前で発表しよう≫ というものでした。
 女子生徒の大半はもちろん、男子生徒からも反対されました。理由は、

  1. (1)進路が決定していないので発表できない。
  2. (2)自分の進路を他人に知られたくない。もし実現出来なかった時や、今の成績から高望みだ、と笑われるのは嫌だ。
  3. (3)発表する意義や目的が不明だ。
  4. (4)あまり独自の学習方法は持っていない。 などでした。

それに対しI先生は、次のように話しました。

  1. (1)確定していない人は希望や夢でもいい。
  2. (2)友人の希望を応援する立場で聴こう。
  3. (3)この発表を聴いて自分への励ましにしたり、同じ進路希望の仲間と話し合えるきっかけができるのではないか。
  4. (4)進路の悩み、学習の悩みが分かりあえないか。

 そして何回も話し討議も重ねました。
 話し合いで意見を述べる態度に、以前の元気さや集中力が少し戻りました。
 六月も終わり頃ともかくやってみよう…という意向に固まり発表会がもたれました。
 1年生頃からの希望を継続している生徒、2年生になってやっと固まってきた生徒、「夢だ」と断わってからの生徒、思い付きの生徒等、笑いと真剣さが入り交じった、かつてなかった雰囲気でした。生徒たちは、仲間の将来を見据えている真摯な態度にうたれたようでした。

みんな一緒にやろうぜ

 話し合いの効果はいろいろな面に良い影響を見せ始めました。
 学活(HR)での意見発表への関心が高まり、話しを聴く態度や自分の意見を最後まで話す態度に変化が出てきました。バラバラになりかけたクラスが少しずつまとまりを取り戻し、今一番関心のあることを、皆が考えたり話し合ったことが、「クラス仲間なんだ」という意識を持つことにつながりました。一緒に汗する喜び、共通の問題を解決する支え合いの素晴らしさを思いおこしたようでした。J男から、
 【間もなく開かれる学校祭と体育祭にTシャツを作ろう】という提案が出されました。「例年学校祭には3年生はハッピを作る。でも体育祭にはそぐわない。シャツなら両方に通用するし安価だ」というのが理由です。
 だが、生徒会執行部は基本的にはハッピもシャツも作成には反対で、まして2年生のシャツには難色を示しました。I先生は、一切を生徒にまかせました。
 生徒会執行部との話し合い、学校祭・体育祭に向けた彼らの行動力に期待しました。
 自分たちで決め、助けあって共通の提案に取り組むことに、全員の協力が得られました。
 ともすれば自分の殻の中に閉じこもり、受験競争に走る生徒にとって、自分たちが動き、それぞれの祭を成功に導くための努力を重ねたことが、心の連帯を強くさせました。
 I先生は、進路決定に悩み競争社会に生きる生徒たちに、心の潤いともなり新たな活力を与えるものは、学級の仲間を『支えているんだ』という仲間意識と、『支えられているんだ』という安堵感・安心感であることを強く実感しました。

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