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更新日:2017年4月1日
希望に胸をふくらませて入学した児童生徒の健やかな成長を援助するのが学校教育の目的です。しかしながら、そこには多くの障がいがあります。生徒の喫煙問題もその一つで、しかも低年齢化、常習化などが指摘されています。児童生徒のかけがえのない健康や生命にとって有害な喫煙の防止に、この資料が活用されることを切望いたします。
平成2年8月28日 長野県教育委員会 生徒指導幹
図1に示されているように、タバコはがんや心臓病だけではなく、全身の健康に大きな影響を及ぼし、さまざまな形で健康に害を与えています。
これは、タバコの煙に含まれている50種以上の発がん物質や有害物質が体内に入っていくことによって引き起こされるのです。(表1)
タバコとがんの関係は、図2のように深く、1日に25本以上吸う人の喉頭がん、肺がん死亡率が、吸わない人に比べて、それぞれ約100倍、7.5倍も高いのです。タバコ以外に食生活や飲酒といった因子もある程度関連が見られますが、専門機関の研究によるとタバコより少ないといわれています。
虚血性心臓病による死亡率も、タバコと深い関係があります。
有害成分 |
主な害 |
---|---|
ニコチン |
急に末梢血管を収縮させる。このため皮膚の血流が悪くなる。心臓に負担がかかり、心筋梗塞などの原因となる。 |
タール |
タールには多くの発がん物質が含まれている。口腔や肺に、こびりついてしまうので、喫煙者はヤニくさいだけでなく、肺機能も著しく低下する。 |
発がん物質 |
多くの発がん物質が含まれているので、喉頭がんや肺がんの発生率は非喫煙者の数倍以上を示す。 |
一酸化炭素 |
一酸化炭素は猛毒であるから、タバコの煙を吸って、新鮮な空気を吸わなければ、1-2本のタバコでも一酸化中毒を起こす。 |
図2 がんの部位別にみた非喫煙者の場合を1.00とした毎日喫煙者の標準化死亡比計画調査(1966-81年)(国立がんセンター資料)
タバコの害は、特に発育期に強く受け、若い時からタバコを吸いはじめた人ほど、がんや心臓病になりやすいのです。
未成年のときから吸い始めると、吸わない人に比べても6倍も肺がんにかかる危険性が高くなり、15歳未満から吸い始めた場合には、総死亡率もガン死亡率も非常に高くなります。(図3)
図3 喫煙開始年齢別肺がんの年齢標準化死亡率(人口10万対)計画調査(1966~82年) (国立がんセンター資料)
昭和60年以降、県警では未成年者の喫煙の補導件数を発表していないが、平成元年の不良行為に占める喫煙補導少年の割合は、25.9%で最も多くなっています。
喫煙補導者の学職別割合を見ると、高校生49.8%に次いで、有職少年、無職少年、中学生の順になっています。(表2)
不良行為全体に占める割合 |
小学生 |
中学生 |
高校生 |
有職 |
無職 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
喫煙 |
25.9% |
0% |
8.6% |
49.8% |
27.1% |
12.4% |
深夜徘徊 |
21.9 |
0.5 |
18.3 |
28.0 |
24.7 |
22.4 |
暴走行為 |
13.1 |
0 |
2.6 |
31.7 |
37.4 |
20.5 |
不良交友 |
7.0 |
1.8 |
28.6 |
36.6 |
12.6 |
11.0 |
不健全娯楽 |
4.3 |
0 |
24.4 |
48.3 |
8.4 |
16.5 |
(県警より)(警察官、婦人補導員等が注意、指導したもので、一般ボランティアが取扱ったものは含まない。)
県内のある高校生の喫煙者の男女別割合、1日の喫煙量を示したのが表3、図4です。
M校 |
N校 |
|||
男子 |
女子 |
男子 |
女子 |
|
吸ったことがある |
29.2% |
11.2% |
46.0% |
18.7% |
吸ったことがない |
70.8 |
88.8 |
54.0 |
81.3 |
図4 喫煙生徒の1日の喫煙本数〔昭和63年〕
(M校調べ)
次に、喫煙の動機については、M校の調査によれば男子では、好奇心65.1%、友人の影響19.3%、その他15.6%、女子では好奇心59.3%、友人の影響24.3%、その他16.4%となっています。喫煙の動機は、タバコへの好奇心、友人の影響が大部分です。
児童生徒が喫煙する理由は、発達段階によって違いがありますが、おおむね下のようです。
常習化に至るには、次第に喫煙本数を増やし、気がついた時、常習化していたということになります。ニコチンの中毒症状から、身体がタバコを求めるようになってしまいます。常習化していく理由として、次のことがあげられます。
喫煙防止の指導は、以下の3つを柱として、進める必要があります。
「未成年者喫煙禁止法」で不良行為として補導されたり、学校で指導を受ける生徒が増加しています。この生徒達のほとんどは、喫煙行為が法で禁止されていることを承知して吸っています。
この機会を逃さず、社会の規律の大切さを教え、法を守れる健全な社会人の育成を図らなければなりません。その時、法をふりかざし、無理やり押し付けるような指導ではなく、未成年者が多くの法によって保護されていることを気づかせることが必要です。
未成年者喫煙禁止法 第一条 満二十年ニ至ラサル者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス 第二条 前条ニ違反シタル者アルトキハ行政ノ処分ヲ以テ喫煙ノ為ニ所持スル煙草及器具ヲ没収ス 第三条 未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者情ヲ知リテ其ノ喫煙ヲ制止セサルトキハ一円以下ノ科料ニ処ス (2) 親権ヲ行フ者ニ代ワリテ未成年者ヲ監督スル者亦前項ニヨリテ処断ス 第四条 満二十年ニ至ラサル者ニ其ノ自用ニ供スルモノナルコトヲ知リテ煙草又ハ器具ヲ販売シタル者ハ十円以下ノ罰金ニ処ス |
※この法律は昭和22年12月22日付で改正されて上のような形となったものである。また、昭和47年改正の罰金等臨時措置法により、第三条一項の科料については「一円以下」を「二十円以上四千円未満」に、第四条の罰金については「十円以下」を「四千円以上八千円以下」と改正されている。
喫煙が未成年者の健康に有害であることは、「1.タバコの害」で前に示したとおりです。健康維持のための生活設計として位置づけ、タバコの害については、具体的な資料、実験などによって理解させることが大事です。
近年とくに問題になっているのが受動喫煙の害です。私たちは、他人のタバコの煙で辛い、いやな思いをした経験をもっています。ある医療機関の調査によると、肺がんで亡くなった非喫煙の妻の場合、その夫のほとんどがヘビースモーカーであったという報告もあります。火災の6件に1件はタバコが原因であり、その揖害額は年百億円を越えるという統計もあります。こうしたことから、他人に迷惑をかけない、他人を思いやる心を育てる指導が必要になってきます。
喫煙防止の指導は、学校全体で計画的、組織的に取り組むことが大切で、全校集会、学年・学級の指導、生徒会の取り組み等が考えられます。
児童生徒が喫煙した時、形式的一時的な指導にならないようにします。まず、その動機や経過を聞き、背景を明らかにする必要があります。そのなかで、児童生徒が、自ら立ち直っていくように温かく援助します。
喫煙防止の教育を効果的に進めていくには、家庭や地域の協力体制が必要です。PTA活動の一環として、講演会や生徒との合同討論会等を設けることも効果があります。人目の届かない溜り場、無人駅や列車での喫煙防止を徹底するため、関係機関、家庭、地域住民との連携協力を得る学校の努力が必要です。
喫煙の常習化している生徒には、充実した学校生活を送っていない場合が多く見られます。思いやりのある温かい人間関係を学級等の集団生活を通して育み、児童生徒一人一人が授業、諸活動において生き生きと活動でき、充実感のもてる学校生活を実現することが、喫煙防止の教育の基本です。
A中学校は、地域から生徒指導の期待が寄せられていた大規模校で、暴力、器物損壊、校内徘徊、グループでの喫煙を繰り返す生徒をかかえていました。教職員は、吸い殻の後始末を続け、吸い殻の本数を棒グラフに表示し、学校内外の会合で活用し、問題意識の高揚を図りました。
生徒達の喫煙の実態を把握し、今までの生徒指導の取り組み、校内協力体制のあり方の見直しを行いました。月に数回にわたる自由討議によって、教職員の当面なすべきことが明らかにされ、実践に移していきました。
―自由討議から―
本校は、対症療法的な指導を重ねてきただけと言ってもいいでしょう。喫煙した生徒を集め、ビデオテープ教材を見せたり、喫煙によって肺が汚れていく実験装置を使用したりしました。その結果、生徒は、喫煙が非常に恐ろしいものだという印象をもったと思います。吸っていない生徒や吸い始めたばかりの生徒には特に効果があり、喫煙をしなくなりました。繰り返し喫煙するには、その生徒なりの背景があると思います。学習、部活動、友人や先生方との交流における満されない気持ちと深いつながりがあると思います。
したがって、タバコだけを止めさせるような指導ではなく、充実感を湧き立たせるような働きかけがなくては、基本的には解決しないと思います。以前にこんな失敗をしました。中学2年男子の喫煙を見つけ、係として立ち合い指導していました。私は、小柄な本人をあどけなく感じ、両親もしっかり者に見えました。私達は、これはほんのいたずら心だったのだろう、少し厳しく叱責すればよいと判断したのです。やがて彼は、はみ出し行為をし、注意すると無気力になり、遅刻、欠席、夜遊びをするようになりました。中学を卒業し就職しましたが、長続きはしませんでした。後で分ったことですが、その頃彼は、「勉強についていけない、兄と比較され親の期待に応じられない、部活動でも頭角を現わせない、担任の厳しさにもなじめない」、と悩んでいたのでした。その上両親に離婚話しが出ており、ぎりぎりまで追い込まれていたのです。そんな背景を感じさせない生徒だったからでしょうか、現象的なことのみの指導を加えてしまったのです。結果的には、これが彼のはみ出し行為を促してしまったのではないかと思い、今でも心が痛みます。喫煙をやめられない生徒は、何らかの苦しみを背負っているようです。帰国したばかりで、言葉の通じない苦しみから登校拒否そして喫煙に至ったケースもあります。喫煙を繰り返し、つっぱっていた生徒に対して、彼がかすかに意欲をもっていた数学を親身になって指導しました。その結果、彼は、問題行動を次第におこさなくなり、感謝して卒業していきました。
本来の喫煙防止の教育の方向は、ここにあるのだと私は確信しております。
県下の高校における主な指導実践例をあげてみます。
B高校では、一年生全体がタバコに関する副読本を毎年購入し、年間計画に位置づけられたロングホームルームで使っています。特に一学期に徹底して行います。二学期以降は、クラス単位でビデオ教材「たばこが体を蝕む」、「となりのタバコ」、「それでもタバコを吸いますか」等を見せ、生徒自らタバコヘの誘惑に屈しない決意が出来るよう取り組んでいます。
C高校では、場当り的な指導では喫煙の歯止にならないであろうと考え、生徒指導係を中心に全校あげて、次のような取り組みをしています。
喫煙アンケート調査による実態の把握→全校集会での学校長講話→保健委員会作成資料の全員配布→生徒会によるホームルーム討議→各クラスごとの禁煙宣言
禁煙宣言(案)今や禁煙は全世界の潮流であり、自らの命を守るものである。われわれは法の精神に従ってタバコを買わない、持たない、吸わないことを宣言する。 平成 年 月 日 年 組一同 |
D高校の保健委員会は、高校生の喫煙問題を真正面から受けとめ、全校生徒と保護者に対し、「高校生の喫煙をどう思いますか」「どうしたらタバコをやめられると思いますか」等の8項目のアンケート調査を実施しました。そして、アンケート調査の結果発表にとどまらず、手作りの喫煙人形を用いて、タールの及ぼす影響が一目でわかる実験を行いました。一本のタバコの恐ろしさが、自分の目で確認できるだけに、強い関心を集めました。
E高校では各教科で積極的に喫煙防止の教育にかかわっています。例えば、「家庭一般」では家庭科通信を年間50回発行し、間接喫煙による影響、女性の喫煙、喫煙による社会的損失等をとりあげ、生徒自ら関心を持ち、学んでいくよう工夫しています。
「禁煙友の会」G支部からネーム入り便箋をプレゼントされているF高校では、担任がこのプレゼントについて生徒に伝える時、タバコが健康にどんなに有害であるかを話します。また、「禁煙友の会」G支部のメンバーの方々は、駅前や繁華街において、徘徊、喫煙している青少年に「声をかけ運動」を実施しています。さらに、幾人かの教職員は、電車通勤し、乗車マナー等を含めた列車指導を地域との連携によってすすめています。こうした指導によって、F高校生の喫煙問題は少ないと言われています。
H高校では喫煙した生徒に、喫煙防止に関する図書から一冊選ばせ、読書感想文を書いてもらいます。さらに、ビデオ教材「それでもあなたは吸いますか」を見せて、自分自身の決意を提出してもらいます。
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