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更新日:2016年12月1日

指導資料No.70 家庭との連携を図るために

目次

  1. はじめに
  2. 円滑な連携を図るために
  3. 家庭との連携・対応事例
  4. まとめ

平成12年1月25日 長野県教育委員会

 1.はじめに

子どもを中心にすえて

 問題傾向の見られる子どもへの対応では、子どもが直面している問題等の実態や子どもの心の痛み、子どもと親の気持ちや意識とのずれを、学校や家庭が相互に連携して的確に把握するところから始まる。
 学校(教師)は、家庭と連携を進めていく場合に、そのことをまず念頭において、家庭への助言や支援などの働きかけを行っていく必要がある。家庭との間で心を開いた意見交換や連携がとりにくいと、教師としての限界を感じたり自信や誇りを失いがちであるが、どんな場合にも子どもを中心にすえて家庭と正面から向き合い、家庭教育への支援を続けていくことが重要である。

家庭への働きかけ

 学校(学級)の中で不登校や問題行動等、気にかかる児童生徒について指導を進めていく中で、家庭の問題、特に親の意識や在り方に行き当たることが多くある。児童生徒の成長発達にとって、家庭の在り方や家族の考え方が大きな影響力をもつことはいうまでもないことである。それゆえ、児童生徒に関わる問題が起こったとき、いちはやく家庭の協力を求め、児童生徒を育む家庭そのものの在り方の改善を図るような働きかけが求められる。

家庭の教育力の低下

 共に、手を携えて児童生徒の健全育成を図ろうとしたときに、家庭からの協力的な姿勢を得られないばかりか、教師への批判が起こったり、学校との連絡さえも避けようとすることがあり、連携の取りにくいこともある。学校や教師への否定的感情が原因のこともあるが、家庭崩壊、監護能力の欠落、保護者自身の生き方や価値観の問題など、複雑化・多様化している家庭の姿と家庭の教育力の低下も、その背景として指摘されている。たとえば、子どもの言葉をうのみにし、子どもに対して躾や善悪の判断を培うことができない家庭、問題の原因さがしや教育批判が先行する家庭、学歴・家柄などの社会的地位や面子を守ろうとする家庭、教育に対する独自の価値観をもって子どもに期待する家庭など、学校と家庭との連携を妨げるさまざまな要因にぶつかることがある。こうした場面でこそ、粘り強く家庭へ働きかけていく教師の姿が大切である。

学校を見直す好機

 また、連携を学校から家庭への一方的な関係としてではなく、学校と家庭との双方向的な関係として考えると、連携は学校(教師)の在り方を見直す機会となる。教師としての資質や力量を高めるとともに、開かれた学校づくりを進めるための好機と考えたいものである。

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 2.円滑な連携を図るために

 多様な家庭・保護者への対応のなかで、連携上の困難に突き当たることもあるが、次のことを日頃から心がけ、円滑な連携を図りたいものである。

普段から理解しあう努力を

  1. 学校(担任)として、学級経営や生徒指導に対する方針や考え方を、機会あるごとに家庭・保護者に理解をしてもらうように努める。
  2. 家庭訪問等を通じて、積極的に家庭へ働きかける姿勢が大切である。問題を抱える子の保護者は、周りから温かい言葉や励ましの言葉をかけられることが少ない。家庭訪問等の際、問題点ばかりを指摘するのではなく、まず、子どもの長所や親のこれまでの養育の良い点を認めながら関わるようにしたい。
  3. 親の考えや意見・気持ちを謙虚に、受容的態度で、また、時間をかけて聴くこと。とかく指導的な姿勢が先行し、子どもに関する悩みを共感する姿勢に欠けると、家庭との胸襟を開いた協力関係はなかなかつくれない。
  4. 普段から子どもへの声かけに努め、子どもとの信頼関係をつくっておくことが大切である。連携困難な家庭へ働きかける際、日頃の児童生徒との信頼関係こそが家庭との連携の大きな力として作用する。
  5. 家庭から相談を受けたとき、家庭教育の意義や父母の果たす役割について分かりやすく助言できるよう、普段から研修しておく。

問題が生じたときには

  1. 問題が起きた場合にはすぐに対応する行動力をもつようにする。特に家庭への対応を迅速に行う。また、普段から家庭への通信・連絡等は早めに行うように心がける。
  2. 問題の解決にあたっては、事実を確認し、判断が公平・正確であるように努める。曖昧な判断や体面をつくろうような対応は問題解決をかえって困難にする。
  3. 親から学校批判や教師批判を受けた場合、親の姿勢を問う前に、自分の側に問題はなかったか、本当に親の気持ちを受け止めていたかどうか自分自身に問うことが必要である。

連携への体制づくり

  1. 一人で問題を抱え込んで悩まずに、他の教師や専門家からの助言や協力を得ながら家庭への対応ができる体制づくりに努める。
  2. 児童生徒や家族は、問題解決のための道筋が見えにくくなっていることが多い。進路の選択肢の提示や専門的相談機関についての情報提供が大きな意味を持つこともあるので、そうした対応の準備をしておくとよい。

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 3.家庭との連携・対応事例

事例1(小学校) 母親の自立によって子どもが変わっていった家庭
概要

 A男は、共に農業を営む父親と母親、祖父母、姉の6人家族の長男。保育園の頃から粗暴傾向が強く、小学校に入学してからも落ち着いて自分の席に座っていられない子であった。家庭内では父親の権限が強く、母親は父親に言いたいことも言えず、農業に追われながら、日に日に父親に似てくるA男を遠ざけるようになっていった。A男の粗暴傾向は、そんな母親に受け入れてもらえない不安な気持ちが原因となっていると考えられた。担任は母親と歩調を合わせていくことが大切と考え、母親の悩みに寄り添い、人間関係をつくることに努力した。すると、母親に以下のような変化が見られてきた。

  • 自分の悩みについて話してくれるようになった。
  • 父親に自分の気持ちをぶつけるようになった。
  • 農閑期にはパート勤めに出るようになった。
  • 自分から進んでPTA役員にもなった。

 母親の話を聞く中で、担任自身も今までA男に対して偏った見方をしてきたことを反省した。A男の行動の裏にある寂しさが理解できた。学級内ではA男の良さをクラスに広めてきた。母親の変化にともない、敵意に満ちたA男の目が穏やかになっていった。

対応のポイント
  • 母親の悩みに寄り添い、話を受容的に聞くことにした。
  • 担任のA男に対する見方を反省した。
  • A男の良さを学級内に広めた。
考察  今まで家庭の中で夫や祖父母に押さえられて自分を出せないでいた母親が、A男の問題行動をきっかけに自分を振り返り、自立していった。それによってA男が変わり、父親の考えも変わってきた。家庭の問題に担任がどの程度かかわっていくかは難しいが、今回の事例で父親や母親の考え方に耳を傾け、共に考え合うことの大切さを感じた。また、教師自身も子どもとの人間関係を見直し、改善していくことが必要である。学校と家庭とが子どものためにお互いに歩み寄ることが、良い結果に結びつくと思われる。

 

事例2(小学校) 学校と地域が連携して支えた家庭
概要

 B男は父、母、姉(小3)、弟(5歳)の5人家族。1年生のB男は入学当初から落ち着きがなく、授業中の立ち歩き、服装の汚れ、忘れ物、朝食抜きの登校など、気に掛かる点が多かった。
 担任は、次のような情報を得ていた。

  • 母親はやや知的な障害がある。
  • 父は建築会社勤務、遠い現場に通っている。
  • 近くに両親の身寄りがいない。
  • 姉が、家事や弟たちの世話をかなり手伝う。

 B男は、一学期後半に学校を休むようになり、そのうち、B男が家にいる時は弟も保育園を休みたがり、手に余る母親は姉を休ませて弟たちの面倒を見させる事態も生じた。実直な父は対処に困り、「先生お願いします」というばかりである。
 担任は、両親の同意を得て、市の福祉事務所の家庭児童相談員に相談した結果、次のような支援体制がとられることになった。

  1. 担任、養護教諭、地区の主任児童委員、保健婦が交代で訪問し、母の話し相手や家事の援助、子どもの宿題等の援助をする。
  2. 家庭への訪問援助には、民間ボランティアグループの力も借りる。
  3. 母が福祉的援助(年金、療育手帳等)の対象となるか検討。児童相談所に依頼。
  4. 児童養護施設等の利用が可能か検討。
  5. 就学指導委員会に依頼し、B男の知能検査を実施。(その結果、特殊学級へ通級することになった。)

 こうした対応により、B男の生活面や学習面での落ち着きが見られるようになり、安定して登校できている。

対応のポイント
  • 各機関と積極的に連携し、専門的立場から家庭支援の体制がとられた。
  • 支援体制をとることについて、その都度家庭に理解を求め、了解を得ながら進められた。
考察  担任が一人で抱え込まず、専門機関との連携を進め、また、その連携の中で地域のボランティアの力を借りながら、家庭支援の体制をとれたことが大きな力として働いている。

 

事例3(中学校) 学校の生徒指導に非協力的態度で、教師に対して威嚇・暴言を繰り返す父親
概要

 C生は入学後、不安定な精神状態を繰り返し、再三問題行動を起こした。2年になると授業妨害、怠学、他生への威嚇・暴行、器物損壊、教師への暴言・暴力、深夜徘徊等とエスカレートした。
 家庭は、自営業の父、勤めの母、姉、弟の5人家族で、両親は学校への不信感が強く、特に父親は、常軌を逸する言動で学校や他の生徒に凄んだり、教師に対しても、日本刀でたたっ切ると威嚇したり、車で引き倒そうと追い回したりした。
 学校の力だけでは解決できないと判断し、民生児童委員、教育相談員、警察、裁判所、児童相談所等と連絡をとり対応を進めた。
 対応を進める中で、養護教諭が以前よりかかわりのあった保健婦から父親が神経科にかかっていたことを聞き、C生についても医師との面談を勧めたらどうかと助言を受けた。
 そこで母親を説得し、養護教諭同席で母親と本人が面談を受け、2週間に1度養護教諭の付き添いで通院し投薬治療を受けることにした。
 担当医師が以前父親の主治医であったため、途中から父親も面談に参加し、両親は学校への非協力的な態度を改めるよう医師から指導された。
 その後、遊び仲間とのトラブルが発端でC生は不登校傾向となったが、かつて適応指導員をしていて、家庭から信頼されている児童館員との関わりの中で、落ち着きが見られるようになっている。

対応のポイント
  • 考え得る関係機関との連携をとった。
  • 担任を孤立させないように、学校長を中心に各主任による連携体制をとり、C生に対し、共感的態度で温かく接し、かつ善悪についてはていねいに諭すという職員の共通理解を確認して対応した。
  • C生の学級内での居場所づくりに努めた。
  • 家庭と学校が共に改善の方向を考えるという姿勢を大切にした。
考察  C生の心の安定の糸口となる医療機関との連携に漸く辿りつくことができ、家庭との関係にも改善が見られた。病気の治療面については医療機関、落ち着いている時の心の教育については学校という役割が少しずつ見えて来たが、C生の学級復帰や家庭支援の在り方に関して新たな課題も生まれている。

 

事例4(高等学校) 姿を見せない父親への働きかけ
概要

  D男は、両親、妹、祖父母の6人家族の長男。中学校では不登校であった。1年生で原級留置となり新しいクラスで心機一転、登校の意志を見せたものの、1学期末には再び不登校状態となる。
 家庭内における祖父母の実権がたいへん強く、父親の存在感が希薄で、祖父母の意向を受けた母親が、D男の不登校問題や学校との対応等に一人で格闘している感がある。
 家族全体の力関係を変え、D男の自立を促すため、母親に対して次の3点を提案した。

  1. 不登校の状況を客観的に理解するため、精神福祉保健センターに相談する。
  2. 家庭内における父親の子どもへの働きかけをできる限り多くする。
  3. D男自身が自分で判断し行動できるような場面や機会をできる限り多くする。

 母親には熟慮する時間が必要だったが、1についてはセンターに相談に出向くことになった。2については、さらに困難で、結局最後まで担任は父親と接触ができなかった。1年を経過する中で、D男と母親は、あせらずに生きていくという結論に到達し、学校へ中退を申し出ることになった。
 その後の家庭連絡によると、D男は父親とモトクロスを始め、また、アルバイトも始めたということである。家庭と本人には、再入学も含め、様々な可能性があることを伝えてある。

対応のポイント
  • 専門機関との連携を行った。
  • 母親を通じ、家庭内における父親の役割を高めるような働きかけをした。
  • 可能な選択肢を提示し、最終的には生徒本人が自ら選択決断するような指導を進めた。
考察  結果的に中退という道を選択することになったが、その後の連絡のなかで、D男はゆっくりとではあるが自立の道を歩み始めているようである。
 また、家庭での存在感が希薄であった父親が子どもの自立に寄り添いつつ父親の役割を自覚して努力している様子も伝わってきている。

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 4.まとめ

 家庭は、子どもたちが最初に生き方を学ぶ場です。その家庭が温かい愛情と社会の基本的なルールを習得する教育力を保持していなければ、子どもたちは心豊かにたくましく成長していくことができません。
 子どもたちの健やかな成長にとって、家庭教育の重要性、さらには「心の教育」の必要性が、今改めて指摘されています。
 学校(教師)は、学校という領域に留まるのでなく、日頃から、家庭、さらには地域との積極的な連携を進め、子どもを育む教育環境の創造に努めていく必要があります。

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お問い合わせ

所属課室:長野県教育委員会事務局心の支援課

長野県長野市大字南長野字幅下692-2

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