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更新日:2023年7月20日
本号は、昨年3月に出された文部科学省の「学校不適応対策調査研究協力者会議」の報告書の抜粋を中心に編集しました。
各学校で活用いただき、先生方が登校拒否(不登校)に対する理解をより一層深め、児童生徒や保護者への、適切な支援や指導ができるよう役立ててほしいと望みます。
平成5年7月20日 長野県教育委員会 生徒指導幹
最近の県下小・中・高等学校で「学校ぎらい」を理由として、年間50日以上欠席した児童生徒数は、年々増加傾向にあり、平成3年度は図1のとおり小学生293人(前年比+106人)、中学生866人(同+191人)、高校生401人(同+7人)で、それぞれ過去最高であった。
昭和55年度からの登校拒否児童生徒数の推移と、平成3年度の学年別登校拒否児童生徒数の分布を示したものが表1、表2である。
( )内は30日以上の欠席者
年度 |
55 |
56 |
57 |
58 |
59 |
60 |
61 |
62 |
63 |
元 |
2 |
3 |
||
小学生 |
実数 |
36 |
40 |
55 |
50 |
65 |
82 |
94 |
85 |
143 |
148 |
187 |
293(359) |
|
在籍比 |
県 |
0.02 |
0.02 |
0.03 |
0.03 |
0.03 |
0.04 |
0.05 |
0.05 |
0.08 |
0.09 |
0.12 |
0.18(0.23) |
|
全国 |
0.03 |
0.03 |
0.03 |
0.03 |
0.03 |
0.04 |
0.04 |
0.05 |
0.06 |
0.07 |
0.09 |
0.11(0.14) |
||
中学生 |
実数 |
136 |
151 |
202 |
269 |
345 |
369 |
376 |
397 |
514 |
541 |
675 |
866(1028) |
|
在籍比 |
県 |
0.15 |
0.17 |
0.21 |
0.28 |
0.35 |
0.37 |
0.37 |
0.39 |
0.51 |
0.56 |
0.72 |
0.94(1.12) |
|
全国 |
0.27 |
0.30 |
0.36 |
0.42 |
0.45 |
0.47 |
0.49 |
0.54 |
0.61 |
0.71 |
0.75 |
0.84(1.04) |
||
高校生 |
実数 |
95 |
129 |
182 |
227 |
204 |
233 |
272 |
312 |
351 |
360 |
394 |
401(642) |
|
県在籍比 |
0.13 |
0.20 |
0.26 |
0.31 |
0.27 |
0.30 |
0.34 |
0.39 |
0.43 |
0.43 |
0.47 |
0.49(0.78) |
態様(調査時点での登校拒否の状態像の類型)は、表3に示すように、小・中・高校生とも、多い順に
特に、「不安など情緒的混乱型」は小学生で41.2%、中学生で32.1%、高校生でも24.1%を占めている。
また、「不安など情緒的混乱型」と「無気力型」で小学生68.8%、中学生57.1%、高校生49.2%と、ほぼ50%を占めている。
区分 |
小学生 |
中学生 |
高校生 |
合計 |
不安などの情緒的混乱の型 |
148人(41.2%) |
328人(32.1%) |
155人(24.1%) |
631人(31.2%) |
無気力型 |
99(27.6) |
256(25.0) |
161(25.1) |
516(25.5) |
複合型 |
71(19.8) |
178(17.4) |
96(15.0) |
345(17.1) |
学校生活に起因する型 |
25( 7.0) |
100( 9.8) |
62( 9.7) |
187( 9.3) |
遊び・非行型 |
0( 0 ) |
67( 6.6) |
57( 8.9) |
124( 6.1) |
意図的な拒否の型 |
9( 2.5) |
35( 3.4) |
78(12.1) |
122( 6.0) |
その他 |
7( 1.9) |
58( 5.7) |
33( 5.1) |
98( 4.8) |
合計 |
359( 100) |
1022( 100) |
642( 100) |
2023( 100) |
(注)区分の説明
文部省は「学校不適応対策調査研究協力者会議」において、「登校拒否(不登校)問題について」の報告書を、平成4年3月13日まとめた。
それによると、登校拒否問題については、従来ややもすると、関係者がそれぞれの立場から、学校の指導の在り方、家庭の養育態度の問題、さらには社会の風潮の問題等、その要因を他に求めるという形で論議されることが多かった。しかしながら、協力者会議では、この問題の検討にあたっては、登校拒否の要因の所在を明らかにしてそれを問題とするのではなく、児童生徒一人一人の豊かな成長・発達への願いを共有しながら、関係者が、それぞれの立場から、登校拒否の問題にいかに取り組めばよいかを明らかにすることを、基本的な視点とした。
そして、本報告書において、登校拒否問題への対応の基本的視点を5つあげて、それぞれの立場での対応を求めている。
登校拒否はどの子にも起こりうるものである、といった視点に立って登校拒否をとらえていくことが必要である、ということである。
すなわち、現在元気に通学している児童生徒も、様々な要因が作用して登校拒否に陥る可能性をもっているという認識をもつことが、登校拒否の予防的観点から特に必要になってくる。
文部省の学校基本調査に見る「学校ぎらいにより50日以上欠席した児童生徒」以外にも、月曜日に休みがちな子ども、飛び飛びに休みがみられる子ども、夏休みなど長期休業明けに休みがちな子ども等、50日以上とはいかないまでも学校を欠席しがちな子どももいる。また、遅刻を繰り返す子どもの中には、学業が思わしくない、友人関係がうまくいかないなどにより、学校生活にプレッシャーを感じて学校にいきたくないという気持ちをもつなど、登校拒否の可能性をもった児童生徒もいる。
つまり、登校拒否は、特定の児童生徒に特有の問題があることによって起こるといったようにパターン化して予測されるものではなく、児童生徒が、ある程度共通して潜在的にもちうる「学校に行きたくない」という意識の一時的な表出として、登校拒否となるケースもあるということである。
文部省の調査にあるように、登校拒否児童生徒のうち約3割は、当該年度中に再び登校するようになっていることからしても、登校拒否を一種の克服困難な病状であるととらえることは適切ではない、との認識をもつことが必要である。
いじめや孤立など、友人関係の中で起こる子ども同士の葛藤、学業の不振、児童生徒の教師に対する不信感など、学校生活上の問題が起因して、登校拒否になってしまう場合がしばしばみられることに留意する必要がある、ということである。
文部省の調査によると、登校拒否となった直接のきっかけとして、学業の不振や友人関係をめぐる問題など、「学校生活での影響」を挙げるものが4割近く存在している。
例えば、授業の内容がわからない、授業の進度についていくことができない、ということが、学校にいきたくない、学校にいってもつまらないといった、いわゆる学校ぎらいの気持ちを生じさせ、登校拒否になってしまうケースがある。また、児童生徒にとって友人関係がもつ意味や意義は極めて大きいものがあるが、このことがうまくいかず、登校拒否になってしまうケースもある。
したがって、この問題の解決に向けて、教育の専門機関である学校の努力、教師一人一人が児童生徒理解を深め、指導の改善を図る努力は、極めて重要である。
学校、家庭、関係機関、本人の努力等によって、登校拒否の問題は、かなりの部分を改善ないしは解決することができる、ということである。
文部省の調査によれば、家庭訪問を行ったり、電話をかけたりするなど、家庭への働きかけ、いじめなどに関して友人関係を改善したり、教師との関係を改善したりするなど、学校内での指導の改善、教育センター等の相談機関と連携した指導等、学校での取り組みが効果をあげ(本格的な立ち直りかどうかの判断は追跡調査が必要であるにしても)、年度内に、約3割の児童生徒が再び登校することができるようになっている。
また、登校拒否のきっかけとして、全体の3割近くが「家庭生活での影響」をあげている点に注目する必要がある。今日、家庭を取り巻く地域社会の変化、子どもの遊びの変化等により、子どもの調和的な成長を支える教育基盤が脆弱化しており、これらのため、子どもが、たくましく生きる力を十分に身に付けられないまま成長している面もあることが指摘されている。このような状況の中で、学校が家庭の悩みや不安を受け止め、その心理的安定を図るなど、親身の指導を継続的に行った結果、保護者の子どもに対する意識が変わって、積極的に子どもの良さを評価するようになったために、児童生徒が徐々に変化し、登校するようになった例もある。
したがって、学校、家庭、関係機関が、あらゆる機会に緊密な連携を図って取り組むことにより、登校拒否の問題のかなりの部分を、改善ないしは解決していくことができると考えられる。
子どもの自立を促し、学校生活への適応を図るために、多様な方法が検討される必要がある、ということである。
登校拒否の問題については、あくまで、児童生徒の学校への復帰を目指して支援策が講ぜられる必要があるが、様々な登校拒否のケースの中には、子どもや親が、何でもかでも学校にいかなければならないという義務感を抱く結果、それがプレッシャーとなり、登校拒否の状態がかえって悪化してしまうケースも少なくない。例えば、登校拒否が長期化し、あるいは不安などの情緒的混乱が強くみられ、学校がいろいろな努力をしても、登校拒否の児童生徒の学校への復帰が困難であるような場合、当面、学校以外の他の適切な指導の方法も検討される必要がある。
登校拒否の児童生徒にとって重要なことは、単に、再度学校に通える状況になればそれでよいというわけではなく、登校拒否という状況を克服する過程で、児童生徒自身がどのような力を身に付け、いかに成長したかということである。すなわち、学校が登校拒否問題に対応するに当たって、児童生徒の学校生活への適応を図ると同時に、その自立をいかに促すか、という視点をもって指導することが、基本的には重要なことである。
したがって、学校が児童生徒の自立を促し、学校生活への適応を支援する上で必要かつ適切と判断した場合は、当面、他の機関における適応指導の機会も考慮するなど、児童生徒の自立を促し、学校生活への適応を図るための多様な方法が検討される必要がある。
子どもの好ましい変化は、たとえ小さなことであっても、これを自立のプロセスとしてありのままに受け止め、積極的に評価するということである。
上記にいう自立とは、子どもが社会変化の中で主体的に生きていく力を身につけ、豊かな自己実現を達成していくことである。その力は、いったん獲得されればそれで目的が達成されるといったものでなく、子どもの成長発達の状況に応じ、絶えず高められなければならない。こうした自立する力の獲得によって、子どもは様々なハードル(課題)を乗り越えることができるのであり、学校は、まさに児童生徒のこのような自立への営みを支援する場となるのである。
子どもの自立への歩みは、決して一様ではなく、中にはゆっくりとした足取りを示す子どももいる。したがって、教師や保護者は、登校拒否に陥った子どもがその立ち直りを図る中で、明るく生き生きした表情をみせるようになった、朝きちんと起きられるようになった、身の周りのことを自分で整理するようになった、あるいは友人と交わることができるようになった等の変化について、その事柄自体が子どもの成長であり、自立へのステップであると受け止めて、共に喜ぶ姿勢を持つことが大切である。一人一人の子どもの成長発達にも個性があることを、理解しなければならない。
学校は、児童生徒にとって、自己の存在感を実感でき精神的に安心していられることのできる場所-「心の居場所」-としての役割を果たすことが求められている。
学校では、児童生徒の健全な成長発達を目指して各教師が日々様々な努力を行っている。しかしながら、個々の児童生徒への細かな教育的配慮を欠いたり、画一的な指導をおこなったため登校拒否となったケースや学校の指導の在り方に反発して登校拒否となったケースなどが報告されている。
このように教師の児童生徒理解が不十分なために指導に適切さを欠いたり、学校の不適切な指導方針や指導体制があったりしたために、登校拒否のきっかけをつくってしまう場合がある。
そこで、学校は登校拒否の予防的対応を図るために、児童生徒一人一人の個性を尊重し、児童生徒の立場に立って人間味のある温かい指導が行えるよう指導の在り方や指導体制について絶えず検討を加え、次のような取り組みを行う必要がある。
登校拒否の児童生徒をみると、学校生活の中で、児童生徒が自分を生かせる場、個性や能力、自主性や主体性を発揮できる場を見い出すことができずに、登校する意欲を失い登校拒否となったケースがみられる。
学校においては、あらゆる教育活動の中で児童生徒の自主性、主体性を育みながら、一人一人がたくましく生きていくことのできる力を養っていく必要がある。
そのためには、一人一人の児童生徒が毎日の授業や学校行事、部活動などの中で、自らが「必要とされる存在」であることを感じることができるように、配慮する必要がある。
一人一人の児童生徒が楽しい学校生活を送ることができるよう、よりよい集団を育てることは、児童生徒が適応力を身に付ける上で極めて重要である。学級活動をはじめとして特別活動の時間において、児童生徒が集団の中で好ましい人間関係を築いていく力、適切に集団生活に適応する力を身に付けることができるよう、指導・援助することが必要である。
しかし、登校拒否の児童生徒をみると、友人関係をうまく保つことができずに悩んでいたり、いやがらせを受けたり、仲間はずれにされたりすることによって、登校拒否になってしまったケースがしばしばみられる。教師は、一日中教室の中で児童生徒と生活を共にするわけでなく、教師の目の届かないところで、こういったことが起こりがちである。また、教師の指導の在り方によっては、学級での集団のまとまり自体が強調されるあまり、一人一人の考え方や行動が制約されたり、自発性が失われていたり、さらに、集団による個人に対する制裁的な作用が生じたりすることもある。
学級集団の指導に当たっては、一人一人の児童生徒の意識や行動を十分理解したうえで指導を行うことが大切である。
登校拒否の児童生徒をみると、学習の内容が分からなかったり、学習の進度についていけなくなったりしたことが登校拒否のきっかけとなったケース、欠席がたび重なると一層学習が分からなくなるといった悪循環に陥って、登校拒否が長期化してしまったケースがある。
児童生徒は、それぞれ多様な個性・能力、興味・関心等をもっており、一人一人の児童生徒の発達の課題を達成するためには、画一的・一斉的な指導のみでなく、個別学習、グループ学習、ティームティーチング等を取り入れたりして、個に応じた指導方法を工夫し学習内容の理解の定着を図っていくことが大切である。
また、登校拒否の児童生徒を見ると、指導の在り方に対する教師の共通理解が不十分であったり、学校としての指導が不適切であったりしたことがきっかけとなったケースもみられる。そこで、学校においては、校長が登校拒否の問題を重要な教育課題としてとらえ、児童生徒が登校拒否に陥った場合はもちろんのこと、日頃からリーダーシップを発揮して教師の指導力の向上を図るとともに、生徒指導係などの指導組織が登校拒否児童生徒についての理解と対応力を高めつつ、機能的に指導力を発揮できる指導体制をつくっていくことが大切である。
その際次のような考慮が必要になる。
学校における教育相談活動は、一人一人の児童生徒をありのままに受け止め、児童生徒の良さや積極面を評価、理解し、児童生徒がそれをのばしていくことができるよう援助することである。
このような教育相談が行われるとき、登校拒否となっている児童生徒や保護者が抱えている悩みや問題等の解決に、また、登校拒否の前兆を早期に発見するなどに大きな役割をはたすことになる。特に、学級担任は児童生徒に最も身近であり、日頃から触れ合い、かかわり合いをもつ機会が多いため、教育相談に果たす役割も大きい。
しかしながら、学校では、登校拒否の解決を担任の教師や生徒指導担当教師だけの課題に終わらせることなく学校全体の課題としてとらえ、教育相談の充実に取り組むとともに、教師が児童生徒と日頃から積極的なかかわりをもち、温かい人間関係をつくり、児童生徒が悩みや問題を気軽に相談できるような雰囲気づくりに努めることが重要である。同時に、悩みを抱える児童生徒を、ありのままに受け止めるという包容力の大きい姿勢をもつことが大切である。
教育相談は、相談室で行うものばかりでなく、様々な教育活動の中で、状況に応じて積極的に柔軟かつ適切に展開することが望まれている。授業時、休み時間、給食時・昼食時、放課後あるいは、保健室に来ている時等、様々な機会に示される児童生徒一人一人の表情や言動等が意味するところを見逃さないという姿勢をもって、教育相談を進めることが大切である。面接以外にも交換ノート、作文、読書、心理劇等を通した教育相談、スポーツやゲーム等を通した教育相談など多様な方法が考えられる。
平成4年度中間教室推進事業の実施結果等
1通室児童生徒数:小学生49人、中学生98人、計147人
2在籍校復帰児童生徒数:小学生20人、中学生28人、計48人
3近隣市町村からの通室児童生徒数:小学生9人、中学生18人、計27人
平成5年度新たに開室した教室
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