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更新日:2016年12月1日

指導資料No.69 暴力行為をなくすために2

目次

  1. はじめに
  2. 9年度における本県の「暴力行為」の状況について
  3. 小学校の事例
  4. 中学校の事例
  5. 高等学校の事例

平成11年6月1日 長野県教育委員会

 1.はじめに

 平成9年度中に、全国の小・中・高等学校において発生した「暴力行為」の件数は、調査方法を変更したことにもよりますが、調査を開始した昭和57年度以来最も多い、28,526件となりました。長野県の状況につきましては、8年度の53件に比較して約3.8倍の199件に増加するなど、全国同様、深刻な状況にあります。また、非行の低年齢化が進んでいると言われているなかで、小学校における「暴力行為」の状況についても、今年度はじめて調査したところ、県内でも5件の報告がありました。いわゆる「学級崩壊」などと呼ばれる新たな問題も現れてきている今、小学校から、暴力否定、生命尊重の教育を計画的に展開していくことが急務となっています。

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 2.9年度における本県の「暴力行為」の状況について

(1)種別・種類別発生件数について

発生した暴力行為を校種別、種類別にみると、下表のようになっています。

 

対教師(件)

生徒間(件)

対人(件)

器物損壊(件)

計(件)

小学校

0

1

0

4

5

中学校

30

71

6

27

134

高等学校

0

38

16

6

60

30

110

22

37

199

 校種別では、中学校で最も多く発生しており、全体の約67%を占めています。また、種類別には「生徒間暴力」が最も多く、全体の55%を占めています。校種、種類の両面からみると、中学校での「生徒間暴力」の発生が最も多く、次いで、高等学校の「生徒間暴力」、中学校の「対教師暴力」となっています。

(2)学年・男女別加害児童生徒数について

 暴力行為に加わった児童生徒数を、学年別、男女別にみると下表のようになっています。 

 

1年(人)

2年(人)

3年(人)

計(人)

中学校


13
0

50
1

138
15

201
16

高等学校


46
10

25
8

24
0

95
18

計 ※計は、小学校5年、6年の男子6名を加えた数値

302
34

 中学3年生の男子が最も多く、全体の41%を占めています。次いで、中学2年生の男子、高校1年生の男子という順になっており、これらが全体に占める割合は、約70%となります。

(3)発生の背景や傾向

 暴力行為は、中学校の2年生から高等学校の1年生にかけて多く発生していることから、中学校では、学業不振や進路の問題、高等学校では、中途退学者の約半数が1年生であることなどに関係して、入学した学校で意欲がもてない、新しい環境に馴染めず人間関係が取り結べない、などの問題がその背景にあると思われます。
 また、発生の傾向としては、

  • 同一の中学校で繰り返し発生する。
  • 複数の高等学校にまたがり、同一中学校卒業生が、「集団化」して引き起こす。
  • 相手に重傷を負わせたり、時に死に至らしめるなど、「粗暴化・凶悪化」の進行が見られる。

などのことがあげられます。

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 3.小学校の事例

 生活グループ替えにあたり、仲良しのB君と一緒になれなかったA君が、教師のグループの決め方に反発し、机を蹴ったり、掲示物を破いたりしたため、担任教師がこれを制止しようとしたところ、興奮したA君が、教師の左頬を殴り、教室を飛び出した。(小学校6年・男子)

(1)発生のきっかけ

 これまでA君の学級では、生活グループを担任が中心となって決めてきており、孤立しがちな児童には、仲の良い児童を一緒のグループにするなどの配慮をしてきていた。
 一方で、A君のような元気のよい児童は、意識的に仲間関係を崩し、各グループの構成が均等になるよう配慮してきた。このような配慮が、A君をはじめ活発な児童には、不公平感をもって受け止められていたところへ、今回のグループ替えでも、最も仲のいいB君と一緒のグループになれなかったことが、事故発生の直接のきっかけとなった。

(2)指導及び対応の概要

  1. A君に対しては、直ちに非を納得させたり、謝罪させたりすることのみを急ぐことなく、なぜそのようなことになったのか、時間をかけて行為を振り返らせた。そのうえで、「大人に許されないことは子供にも許されない」という観点で行為を反省させた。
  2. A君の保護者に対しては、保護者と学校が共に手を携えてA君の行為の背景や原因を探り、健やかな育ちのために協力して取り組むよう話し合った。
  3. 学級の児童に対しては、事故当日も、はやし立てるものがいたことや、日頃から児童同士のけんかなども多いことから、生徒指導係会が中心となって、一人一人と面談を行い、個々の状況を把握するとともに、事例をもとに暴力行為の不当性について指導した。
  4. 学年全体に対しては、児童会活動として、学年集会で最高学年としてのあり方を考えさせるとともに、学級の枠を外して授業を行うなど、多くの教師による指導ができるよう工夫した。
  5. 職員全体では、この事例を職員会の議題として取り上げ、指導の方向を全員で考え合った。
    特に、小学校で在りがちな「学級王国」的学級経営になっていないか、児童の話をよく聴いているか、学年・学級の枠を越えて情報交換や指導の連携を図っているかなど、確認し合った。
  6. 保護者全体に対しては、学級懇談会等の機会を活用して、最近の生徒指導の状況を資料化して扱ったり、学校で子供達に起きていることや、家庭での様子などについて話題にしたりして、こういった問題に対して、家庭と学校が連携して取り組めるよう啓発を図った。

(3)この事例から学んだこと

  1. これまで、とかく「反省」させたり「謝罪」させたりすることを急ぐあまり、本人の気持ちや問題の背景を深く掘り下げることをおろそかにしてきた面がある。
    本事例の場合は、母親がパートに出るようになり、独りぼっちで過ごす時間が多くなったことによる寂しさに加え、担任も話を聴いてくれないと感じるなど、不満が重なり発作的に行動に出てしまったものと思われる。家庭と連携して情報交換をきめ細かく行い、温かく見守ったり、言葉をかけたりするなどの個に応じた配慮が大切である。
  2. 本事例が発生したとき、周囲の児童に、はやし立てたり、笑って見ているなどの行動がみられた。暴力的なテレビ番組の氾濫や、ゲームソフトの普及などの影響も大きいと思われるので、温かい心や生命をいとおしむ心が育つよう、体験等を取り入れた取り組みが必要である。
  3. こういった事故が発生した背景には、学級担任制など、小学校特有の問題もあるように思う。全校の児童を全校の教師集団で支え、伸ばすという観点で、互いの学級経営の工夫など、アイデアを交換し合ったり、学級の枠にとらわれずに教師と児童が触れ合う機会を数多く取り入れるなどして、学校全体が温かな人間関係で結ばれ合うようにしていくことが必要である。本事例については、学級担任の指導がやや一方的だったことに加え、不満を受け止めたり誤解を解くための連携指導が不足していた。

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 4.中学校の事例

 始業のチャイムが鳴り、体育館で準備運動を開始しようとしていたとき、3年男子の、B君、C君、D君、E君の4人が入り込み、バスケットボールを始めた。教科担任が外に出ることを指導したが聞き入れる様子がないので、B君の肩に手をかけると、とたんに激昂し、教師に殴り掛かった。その後、4人で教師に殴る蹴るの暴力を振るったのち、がラス窓にものを投げて割ったり、廊下にあるロッカーなどを倒すなどの器物損壊を続け、制止しようとした生徒指導主事や学級担任等にも暴力を振るったため、警察に連絡。4人は、一旦学校から外に出ていたが、再び学校に戻ったところを警察が補導した。4名の生徒の保護者には、市教育委員会の判断で、当面、生徒の出席停止措置が講じられた。(中学校3年・男子)

(1)発生のきっかけ

 日頃から、この4人を中心に、校舎徘徊や爆竹などでの授業妨害、・教師への暴言など、目に余る言動があった。ここ数日は、4人が登校せずに他校生や無職少年などと街をぶらついたりする行動が目立ってきたので、学校につなぎ止める意味とスポーツにより発散させる目的で、体育館での運動は大目に見てきていた。暴力行為の発生した時間は、本来体育館が空いている時間だったが、授業変更で急に使うこととなった。その連絡がつかず、遊んでいた4人が、大勢の生徒の前で退去を命じられたため、恥をかかされたと感じ、逆上したものと思われる。

(2)指導及び対応の概要

ア 加害生徒に対する指導については、

  • 出席停止期間中は、学級担任が家庭訪問し、時間をかけて話し合うなかで、原因・背景の把握をするとともに、行為の責任の取り方や今後のあり方について十分に考えさせた。
  • 学級担任、教科担任、クラブ顧問などを中心にチームを組み、進路希望を踏まえた教育相談や学習指導、職業体験等を計画、実施した。

イ 加害生徒の保護者に対しては、

  • 今後の指導について、学校では進路決定を援助し、目的をもった学習や生活に取り組ませること、家庭では服装を整えたり、決められた時間に登校させるなどの基本的な生活の建て直しを図ることなど、同一歩調で取り組めるよう理解と協力を求めた。
  • 出席停止期間中の生徒の監護、けがをした職員の治療費や故意に損壊した校舎や備品等の修理代等、行為に対する保護者の責任を今後も含めて明確にした。

ウ 学校全体に対しては、

  • 当該の生徒が所属している学校では、学級の仲間という原点に立ち返り、積極的に声掛けをする、給食に誘うなど、日頃おろそかになっていたことについて再度取り組み、学級に戻ってくるよう働きかけさせた。
  • 校長講話で、改めて暴力否定について全校に訴えかけるとともに、生徒指導主事により、暴力行為に関する指導・対応について下記の点を生徒及び保護者に周知・徹底した。
    ・暴力行為を受けた時は必ず教師や保護者にすぐに伝えること。
    ・学校は、暴力行為については、基本的に犯罪として扱うこと。
    ・生徒同士が互いに人権に配慮し合って生活し、暴力行為が発生しないようにすること。等

(3)この事例から学んだこと

  • 時間をかけた面談により、加害生徒が、複雑な家庭事情や学業不振などの苦しみ、自暴自棄になっている気持ちなどについて吐露するようになった。切なさや苦しさに寄り添い、絶対に見捨てないということを言葉や態度で示していくことが指導を可能にする。
  • 警察に協力を依頼することや出席停止措置を講じることは、冷たい措置でもなければ、学校の指導を放棄することでもない。暴力をくい止めないでいて重大な過失を犯させてしまえば、加害者という名の被害者を、学校が生むことになる。毅然とした対応の意味がそこにある。
  • 4名の生徒は、この指導を機会に学級の生徒と再び親密になり、表情も穏やかになった。生徒同士の温かな人間関係づくりが第一である。

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 5.高等学校の事例

 高校入学後2ヶ月にもならない5月中旬、有職少年2名を含むF中学出身者10名がG中学出身のH君を公園に呼び出し、「態度が悪い」などとして、集団で暴力をふるった。
 直接手を出したのは二人で、H君は背中と顔面を殴られた。一時失神状態になったが、幸い大事に至らずに済んだ。付近の人の通報で警察に連絡がなされ、関係者全員が補導された。この事件に関わっていた高校生は被害者H君の高校を含め6高校に渡っていたが、相互に密接に連携して指導にあたった。その後、一部の生徒は中退し、他は反省の結果、高校生活を続けている。(高校1年・男子)

(1)発生のきっかけ

 F中学校出身の生徒たちは、中学時代から遊び仲間であった。一部の生徒には少し気になる言動があったが、学校を混乱させるほどのことはなかった。F・G両中学出身のこれらの生徒たちは中学時代にもトラブルがあった。このトラブルの時の関係生徒が同一高校に入学したことが今回の事件のきっかけとなった。F中学の関係生徒達は、五つの高校に別れて入学したが、それぞれの高校に馴染めず、コンビニをたまり場として遊んでいるうちに、「Cは生意気だ、やっちまえ」との相談が出来上がった。

(2)I高校の指導及び対応の概要

 2名の生徒が関係し、そのうちJ君がH君を殴った。他の1名は直接手を出してない。

ア 加害者J君に対する指導については、

  • 本人が希望して入学した学校でないこともあってか、入学直後から遅刻、早退、中抜けなど勝手な振る舞いが目立っていた。事件後の指導の結果、被害者H君への敵対心や自分への鬱屈した思いが重なり、短絡的に暴力行為に走ったことが分かった。
  • 家庭は母子家庭で母親は生活に追われ、子供への指導力は全くない状態であった。
  • 担任と生徒指導係が家庭訪問を繰り返して指導した結果、暴力の罪悪性は自覚したが、学業への意欲は薄く、事件を機に退学した。

(3)K高校の指導及び対応の概要

 2名の生徒が関係したが、直接暴力をふるってはいない。1名は関わりが少なく、口頭で注意を与えた。

イ 加害者L君の指導をめぐっては、

  • 自営業の父母と姉、F君の4人家族である。基本的生活習慣がやや欠如していたが、根は素直な生徒である。手を出さなかったとはいえ、集団に加わり、暴力が行われることを予知しながら、現場へ行ったことを咎め、家庭反省指導とした。
  • 担任などによる5回の家庭訪問指導の中で、はじめは「どうせ自分などは」との投げやりな態度であったが、生活面での考え方の甘さについて、父母・担任とともに何度も話し合った結果、深刻に反省できるようになった。
  • 特に姉が自分のことを真剣に心配し、一緒に考えてくれたことに大きく動かされ、心を開いた。その結果、家庭も円満になり、現在は明るく学校生括を送っている。

(4)I・K両高校の全校生徒に対する指導

  1. 両高校とも、特設のLHRで担任が、「暴力の罪悪性について」生徒たちに自覚を促し、軽はずみな言動が他を傷つけ、他の人権を侵すことになることや好ましい友人関係のあり方を指導するとともに、暴力は犯罪であるという認識を周知した。
  2. I高校では学期末の終業式に全校生徒に対して生徒指導主事から注意を行い、K高校では全校集会で校長が暴力の卑劣さと犯罪性について講話を行った。

(5) この事例から学んだこと

  • 本件を機に中途退学した3名(含、私立1名)はいずれも希望した入学ではなかった。
    このことは中学における進路指導の問題であるとともに高校における早期適応指導が十分なされていたかが問われる問題でもある。
  • 学校と家庭の連携・協力の大切さが改めて確認された。家庭の協力が得られない場合には校長や担任は機を逸せず親身になって生徒を支えてやらなければならない。

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所属課室:長野県教育委員会事務局心の支援課

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