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更新日:2018年8月9日
平成12年3月27日 長野県教育委員会
「開かれた学校」のあり方は、学校施設の地域社会への開放というような狭義の意味を超えて、地域・家庭と課題を共有する学校づくりをはじめ、他の関係機関との積極的な連携や学校運営への地域・保護者の意見の反映など、今、幅広く求められている。
子どもの育成は、学校・家庭・地域社会等の連携や協力なしにはなし得ない。学校が家庭や地域社会に対して積極的に働きかけて、家庭や地域社会とともに子どもたちを育てていくという視点に立って学校づくりをすることが極めて重要となる。つまり、学校だけを教育の場と考えるのではなく、子どもたちの教育の場を広くとらえねばならない。体験的な学習の場、豊かな社会性をはぐくむ場を学校以外にも広げ、教育活動を展開することが求められている。
近年、児童生徒を取り巻くさまざまな環境の変化を背景として、不登校をはじめ、生徒指導上の諸問題や課題は、憂慮すべき状況にあり、その解決は大きな教育課題となっている。特に、児童生徒の「心の教育」の充実に向けては、学校のみならず、家庭や地域と連携していくべきであるという認識が広まりつつあり、その具体的な展開について期待が高まってきている。
外に開かれた学校づくり
各学校においては、保護者や地域社会へ開かれた連携を図ってきた。しかしながら、ややもするとその在り方が形骸化し、必ずしも実効性のあるものとはなっていない面も見られる。これは、連携しても問題の解決につながらないと考えていたり、どの関係機関と連携すべきかを理解していなかったり、学校が関係機関等に連携を求めると、保護者から「学校は指導を放棄した」と非難されることを恐れたりするためでもある。
児童生徒に有効な指導を行うためには、学校、家庭、地域社会がそれぞれ自らの役割と責務を自覚するとともに、相互に「開かれた」関係を築いていくことが重要となる。この「開かれた」関係は、容易に出来るものではなく、学校や家庭、地域社会、警察等の関係機関との相互の信頼関係が必要である。
そのために、学校は外に向かって学校の教育目標、経営方針、現在抱えている問題点等の情報を保護者のみならず、校区に公開し、説明等の機会を設ける努力をすべきである。
内に開かれた学校づくり
外だけでなく、内に開くことを忘れてはならない。授業を教職員相互で見合い授業改善の参考にする取り組みがなされているが、児童生徒の不登校や問題行動等に関しては、いざ自分の学級から問題が起こると、担任は責任を感じてなんとか自分で解決しようとして問題を抱え込んでしまう傾向がある。
生徒指導に係わる指導では、確かな実態把握と早期の適切な対応が不可欠である。そのために情報の共有化を図り、多くの教職員の目や意見を総合して指導の方向を探り、共通認識の上に立って問題解決にあたることが大切である。
A男(5年生の状況) 小学校入学当初より問題のない子として学級で生活しており、いわゆる良い子であった。4年生になり担任が代わる。1学期中頃より登校を渋り始め、夏休み明けから不登校状態になった。担任は家庭訪問し、家族やA男と話をして登校をうながしたが、頭痛・腹痛を理由に学校へ来られなくなった。 |
担任は4月の学級経営案発表の場で、全職員に見守ってほしい児童として、はじめてA男をとりあげた。A男は保健室に度々来ていたこと、集団活動でも一人でいたことなど、養護教諭や専科教諭から見たA男の様子が出された。A男はクラスの仲間に入れず、また担任とも話しづらい状況であった。担任は、A男の近所の友達からA男の校外での様子を聞き、保健室なら居場所になるだろうと判断し、保健室登校をすすめた。
養護教諭は、A男に対応するために保健室の環境を整えた。A男は保健室にいても、他人が入室すると極度に緊張するので、カーテンで一角を仕切り、その中で過ごせるように工夫した。
養護教諭は、保健室でのA男の様子を担任と教頭に報告し、担任は学級で行われていることを養護教諭に伝え、いつでも学級に戻れる体制と雰囲気を整えていった。
A男の母親から「欠席が多くなり、心配だ。カウンセリングを受けさせたい」と養護教諭に相談があり、受診先を紹介した。その後も養護教諭は担任や母親に対して相談・アドバイスを積極的に行った。
市の学校訪問相談指導員と連携し、母親の相談に応じてもらうなど、担任・養護教諭だけではカバーしきれない部分を担当してもらっている。また、市に中間教室があることを学校から保護者に話し、母親が参観し、相談も受けた。
保健室登録時に本人がみせたサイン
その後のA男は、学級に入って東京への社会見学に参加するなど、少しずつ状況が改善してきた。
A男が見せるささいなサインを見逃さないように全職員の目で見守ってきたことが、A男の気持ちを受け入れる結果につながったと思われる。また、不登校対策委員会や職員会をとおして、職員は、いつ・誰が・何をと、具体的な対応を日常的にとることが可能になった。さらに、外部の機関からも協力が得られた。担任一人が抱え込むのでなく、大勢のかかわりで対応してきたことによって、無理のない援助ができたと考えられる。
県内の中学校で学級編制替えが行われている学校は3%程度である。中学校生活が3年間という短い期間であること、教員の情熱あふれる担任意識や生徒指導・進路指導上等の理由により、実施される学校が少なかったと思われる。
核家族化時代を迎え、家庭のしつけや親の教育能力が十分でない状況が見られるようになり、社会環境・家庭環境など大きく様変わりしつつある環境の中で生徒の様子も年々変化し、学校でも人間関係がうまく築けなかったり、集団行動が苦手であったり、自分の苦手なことや嫌いなことを避けようとする傾向がみられる。
学校には、さまざまな人間関係がある。特に生徒にとって学級は、学校生活のベースとなる集団で、互いの関わりが生徒の成長に大きな意味を持っている。また、教師にとって学級は特別な思いを抱く存在である。教師と生徒により構成されている学級は、教師と生徒、生徒同士の人間関係によって、学級それぞれに特徴が生まれる。
現在B中学は、落ち着いた雰囲気の中、真剣に清掃に取り組む姿や気持ちよい挨拶など、来校者から評価を受け、生徒はそれを誇りに学校生活を送っている。しかし、生徒一人一人は、友人関係・部活動・学習などにおいて、固定化しがちな関係の中で持てる力を活かしきれていない面もある。そこで、学級編制替えを実施して生徒の個性を大切にし、その子のよさをさらに引き出し磨き上げていくことを中心に据えた学校づくりに取り組んでいきたいと考え話合いを進めた。その結果、つぎのような意見が出された。
学級編成替えのメリット
学級編成替えのデメリット
実施に当たっては、学級編制替えは大勢の友人や教師との出会いの場を作り、多感な思春期の時代に生徒の人間関係を広げることの意義などを生徒に説明する必要がある。また、保護者の理解も深めるよう配慮したい。教師にとっては、自分の学級という意識で抱え込むことなく、学年そして学校全体という広い視野で生徒と接し、開かれた学級づくりが重要であることの共通理解を図ることが大切である。これらの点を配慮し、1年から2年に進級する際に学級編制替えをスタートさせた。
B中学では、多くの仲間づくりとより多くの他者との関わりの中で、生きる力をつけてほしいこと、担任がより多くの生徒に係われること、よい緊張感を持って生活してほしいこと、新しい環境での仕切り直しの機会にしたいことなどを願っての学級編制替えの実施である。
現在、学級担任と生徒、生徒相互の人間関係において、お互いに開かれた中で支え合っていく新たな雰囲気ができてきている。
駅前のゲームセンターや広場は高校生を中心とした交遊の場となっており、以前から問題が指摘されていた。4月頃から、無職少年数名が毎日深夜までたむろするようになり、彼らを中心に高校生や中学生にも交友関係が広まり、夕方から深夜にかけて駅前は異様な雰囲気となった。
5月にはその交友関係からC・D高校の男子生徒による他校生への暴力事件、E中学校とC・D高校の男子生徒によるバイク窃盗や無免許運転があった。6月にはE中学校の女子生徒と無職少年が絡んだ深夜徘徊や家出など、次々と問題行動が発生した。
それぞれの学校では巡視などの対応をしていたが、なかなか成果があがらなかった。
このような状況を憂慮した市教委は各方面の関係者に呼びかけ緊急会議を招集した。
中学校・高校・福祉事務所・市教委・警察・青少年補導センターの関係者が集まった。
中学校からは、深夜徘徊や家出を繰り返す女子生徒の状況と指導経過についての説明、職員が毎晩遅くまで駅前を巡視し、女子生徒の居所を見つけては家に連れ戻すという対応や、福祉事務所の家庭相談員も家庭訪問を繰り返し、親と子に指導を続けていることが報告された。無職少年が関係し状況が複雑になっていることから、広く関係者の助言を求めたいということであった。
警察の生活安全課からは、駅前の状況とそこから発生した中・高校生そして無職少年の事件について報告された。
高校からも中退生の問題や在校生の駅前での問題行動について、状況と指導経過が報告された。中退生については、最初は職に就くものの長続きせず辞めてしまう実態があり、その後の指導に苦慮しているということであった。
女子中学生の対応、高校生・中退生の対応、駅前の状況改善の3点について協議を行ったが、その過程で、それぞれの学校が抱えている困難点に対して共通理解が生まれた。
当該中学の献身的な対応に他の中学校や高校からも協力の声があがり、駅前の緊急改善策として街灯の設置や市民協力による巡視活動などの具体案があがった。
その後、PTA連合会からも協力の声があり、学校警察連絡協議会とも相談しながら、市内の中学校・高校・PTA・警察による巡視計画が具体化した。青少年補導センターでも補導計画を立て、駅前だけでなく他の場所も含めた環境浄化の活動を計画した。
こうして7月には、関係機関と市民が協力した1ヶ月間にわたる巡視補導が実現した。
巡視補導計画に従い、夜9時頃駅前に集合し、打ち合わせを行った後、ゲームセンター・カラオケボックス・公園・駐車場など5~6名で数箇所を巡視した。時間は状況に応じて様々であったが深夜近くまでかかることもあった。
中学生や高校生には帰宅を促し、特に無職少年たちには、中学校や高校の教員ができるだけ指導助言をした。最初は「就職先がない」「もうしばらくぶらぶらしたい」と言っていた彼らの中に「9月からは職探しをしたい」というように答える者も出てきた。
巡視をする中で関係機関相互の理解が深まり、連帯感が生まれた。また、ゲームセンターの管理者や駅前の住民との協力態勢ができ、連携の輪が広がっていった。回を重ねるうちに、深夜たむろする中学生や高校生の姿はほとんど見られなくなった。街灯の設置や美化活動などにより環境が改善され、駅前は荒んだ雰囲気がなくなり、平穏になった。
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