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更新日:2017年4月1日
教師にとって、子どもがみえるということは、子どもの心の発達や心の働きがみえることであり、子どもの内面があたかも自分の内面のように、教師の心に感ぜられることである。
それは、教師が感じとろうと努力しなければ分からないことです。
子どもがみえる眼力と感性を養うことによって、一人一人の子どもの内面と深くかかわることができ、子どもの自己実現を援助することができるのだと思います。
平成5年2月20日 長野県教育委員会 生徒指導幹
児童生徒の心に寄り添う教育相談の進め方
児童生徒が登校拒否や学習ぎらい等の学校不適応を起こしたり、盗み、乱暴などの反社会的行動に陥るのには、それぞれにさまぎまな原因があります。
その原因の一つに、教師の子どもへのかかわり方があげられます。
児童生徒は「自分は担任に嫌われている」と感じると、理由をつけては教師の言動を批判し、自己防衛に努めることがあります。これは、裏をかえせば、「教師に自分をわかってもらいたい」という心情の吐露でもあります。
以下、教師が児童生徒のこのような心情に着目し、本人の心に寄り添う努力をしていくために、どのような姿勢や態度で臨むことが大切かを、個別による指導・援助が中心となる教育相談を通して考えてみます。
学校での教育相談は、一人一人の児童生徒の発達と、教育にかかわる諸問題をめぐって、本人及び保護者などに、必要な心理的・教育的援助を行うものです。本人及び保護者が、自分の課題をとらえ直し、主体的に解決できるよう、側面から援助することを基本としています。
このように考えると、学校での教育相談は、一部の教師が行うものでなく、それぞれの教師が教育相談的な心構え(カウンセリング・マインド)をもって、児童生徒それぞれに対して、あらゆる教育実践の場で行うべきものであります。
学校における教育相談を充実させるためには、教師児童生徒の信頼感に基づく、日頃の人間関係が欠かせません。
そのためには、教師の日頃の心構えとして、次の点が大切になります。
学級担任は、学級の児童生徒に最も近い関係にあり、日常的な触れ合い・かかわり合いをもつ立場にあります。
そうした学級担任が教育相談を行うときの主な利点や困難点は、次のようなことです。
生徒指導(教育相談)係が、児童生徒に対して直接教育相談を行うときの主な留意点には、次のようなことがあります。
養護教諭は、教育相談をしやすい立場にあります。養護教諭が相談を行なう時の主な利点や困難点には、次のようなことがあります。
教育相談は、まず児童生徒の話をよく聴くことから始まります。聴き方はなかなか難しいものですが、教師が勝手に解釈したり評価したりせず、ただひたすら聴くことです。
上手に聴くと、児童生徒が、「私をわかってくれた」「ぼくのことを本気で考えてくれた」「私の気持ちを大事にしてくれた」と感ずるのです。
このように、学校での教育相談は、それぞれの教師が、教育相談的心構え(カウンセリングマインド)をもって行なうことが何より大切になります。
A先生は、現在の6年生の学級を4年生から担任しています。学級経営が難しいクラスであることは、前担任から聞いて承知していました。落ち着きのない児童の指導は、当初から悩みの種で、学級全体が授業に集中できない状態が続いていました。
特に、B君を中心とした数人のグループが、目立つ存在でした。A先生は、何とか授業に集中させようと、大声を張り上げることが日常的になってきました。しかし、苦労する割りには、目に見えた効果が表れないことへのいらだちや不安を感じながら、毎日を過ごしていました。そうした中で、4年生の後半には、担任の指導に対し、保護者から、暗に不満を示す電話があり、その都度状況を説明し、その場を収めていました。
5年生の1学期、B君の母親から教頭に電話が入り、クラス担任のA先生のことで相談したいとのこと。
翌日、教頭に会いに来校したのは、B君の母親だけでなく、クラスのPTA役員2名が一緒でした。相談はおよそ次のような内容でした。
B君の母親は、「先日、孝が、クラスの女子に濡れたぞうきんを投げつけ、洋服を汚したとの理由で、先生に激しくしかられました。孝は自分がやったのではないと強く主張したのですが、先生は相手にしてくれなかったとのことです。泣きながら訴える孝の様子から、今回のことは孝を信じてあげたい。A先生とも電話で相談したが、全く聞き入れてくれません。教頭先生から話していただけないでしょうか。」と訴えました。そして他のPTA役員も、「昨年から、A先生の指導について、多くの保護者が不満を持っています。その一番の理由は、子どもたちをしかるだけで、子どもや親の話を充分聞いてくれない。最近の子どもたちの様子を見ていると、心配で仕方ありません。何とかしていただけないでしょうか。」と言いました。
クラスの何人かの父母と相談して、お願いにきたとのことです。教頭は、よく調査をし善処することを約束しました。
教頭から連絡を受けたA先生は、保護者がこれ程不満を持っているとは思っていませんでした。しかし、クラス経営が必ずしもうまくいっていないことや、保護者からの不満の電話などを考え合わせると、今までの指導の在り方について反省せざるを得ませんでした。
早速、B君の件について調査したところ、B君は直接かかわっていなかったことがわかり、母親とB君に心から謝罪しました。
今までの学級経営、児童への接し方等について、次の点について反省しました。
そこで、今後の指導の方向を次のようにしました。
小学校においては、個人的教育相談もさることながら、担任が、学級全体に対して、日頃から教育相談的態度で接していくことが、いかに大切であるかを、児童の変容から、体験的に学んだ事例です。
2年生のC男やD男を中心とした6人のグループが、夏休み以降、授業に出ずに校内を徘徊し、注意した教師に反抗するようになりました。日を追って、器物損壊をするようになり、事態は深刻になっていきました。学級担任を中心に様々な指導を試みましたが、改善されず、かえって保護者との関係も悪くなり、学年や生徒指導係の援助もゆきづまってしまいました。
年度末、今までの指導を見直し、今後の指導のあり方を求めて、全職員で検討しました。
その結果の一つとして、新年度から生徒指導係とは別に、相談担当の係を置くことになりました。相談担当の係は、生徒の相談相手になることに徹し、また、教師の生徒とのかかわり方について、助言をしていくことになりました。
新年度になり、相談担当となったE先生は、担任や生徒指導係とは違った立場で、まず生徒と自由にものが言え、聞きあえる関係をつくろうと考えました。
6人グループの様子は、2年生の時とあまり変わらず、荒れ狂ったときは、全職員で対応することもありました。そんなときも、E先生は、それとなく彼らに付かず離れずの位置を保ちながら、彼らがどんな思いで、何を訴えようとしているかを感じとることに努めました。
E先生が常に在室するようになった相談室に、グループの生徒が訪れるようになったのは、6月になってからのことです。
ある日、グループが散らかした物を片づけていると、
数日後、昇降口でたむろしている彼らに、「こんな所にいないで、俺の部屋にこないか」と声をかけました。
次の日、彼らは相談室に来ました。
しかし、その後、彼らは時々相談室に来ては、彼らのペースで振る舞っていましたが、次第に担任や親への不満、将来への心配などを、自分たちの間で話すようになりました。
このことは、E先生が、相談室を、生徒達が警戒感を解き、身構えずに自由に話ができる場にしようと努力した結果でもありました。
相談室には登校拒否気味の女子生徒が、時々訪れていました。しかし、C男達が来ると、保健室へ行ってしまいました。
そんなある日、C男達と女子生徒が鉢合わせになってしまいました。C男達は、女子生徒が部星から逃げられないようにしながら、いろいろ話しかけたそうです。自分たちの担任の悪口をさんざん言った後で、「お前のとこの担任は話せそうだ。今から学級にでないと、先が長くて大変だぞ。保健のおばちゃんは話せるか。この部屋のセンコウはどうか。」などを話したとのことでした。
このことがあってから、C男達の相談室へ来る回数が増え、また、保健室へ頻繁に出入りするようになりました。それにともなって、校舎内の徘徊がめっきり減りました。さらに、登校拒否気味の女子生徒も口数が多くなりました。C男達が来ても逃げ出さなくなる、級友の持ってきてくれる給食を待つようになる、などの変化がみられるようになってきました。
E先生は、傍で見守りながら、この生徒たちの交流を大切にしていきました。
夏休み直後、C男一人で相談室に来ました。ぽつり「俺を入れてくれる高校あるかなぁ」とつぶやきました。そこで、進路について1時間あまり話し合いました。E先生は、C男の進学したい気持ちに寄り添い、話の内容に一つ一つ丁寧に応じて、まだこれから努力すれば、希望がかなうことを話しました。
次の日、C男は不得手としている数学を、E先生に教えてくれと言ってきました。E先生は、数学をC男と一緒に学ぶ姿勢をとり、C男のペースで学習を進めました。学習の合間に、C男からC男達のこと、仲間のこと、将来のことが語られることもあり、数学の学習を通して、また一段と信頼関係が深まっていきました。
このことをきっかけにして、C男はかなり落ち着き、授業にも出るようになっていきました。
C男の変化は、グループ内の他の生徒にも良い影響を及ぼし、次々と学級に戻っていきました。
その後、F中では、学級担任を中心に、C男たち6人グループに対して、個別指導を含む進路決定に向けての援助を開始しました。
つっぱり傾向を示す生徒がグループ化した時の対応は、思うにまかせず、苦労することが多い。
この事例では、相談室担当のE先生を、生徒の相談相手であるという立場を明確にし、E先生もその立場に徹することで、つっぱりグループとの関係がついたのです。
そして、ちょっとしたきっかけを生かし、彼らの気持ちや思いに焦点をあてた対応をすることで、信頼感が深まったのです。
彼らの言動に振り回されずに、そうせざるを得ない彼らの心情に、焦点をあてたかかわりをすることの大切さが、示唆されました。
G校には、「生徒相談室」というカウンセリング室が開設され、生徒指導専門教員が常に在室しています。
この相談室は、安定した学校生活が送れるように、生徒の悩みへの相談をすることを、主な目的としています。
G校では、悩みや不安を抱いていても、解決への手立てを持てない生徒が急増している中で、この生徒相談室の果たす役割は重要になっています。
ここでは、相談室で行なった相談事例の中から、H君の事例について述べます。
相談室や校内で会った際には、積極的に話しかけて来て、自分の気持ちを吐露できるようになってきました。そこで、次の点に配慮した指導を進めていきたいと思っています。
相談内容 |
相談対象者別相談件数 |
|||||
小学生 |
中学生 |
高校生 |
計(件) |
計(%) |
||
1 |
登校拒否 |
525 |
662 |
261 |
1,448 |
55.6 |
2 |
進路 |
5 |
114 |
90 |
209 |
8.0 |
3 |
学習 |
50 |
66 |
35 |
151 |
5.8 |
4 |
情緒障がい |
37 |
61 |
11 |
109 |
4.2 |
5 |
教師 |
39 |
36 |
9 |
84 |
3.2 |
6 |
学校生活 |
28 |
27 |
25 |
80 |
3.1 |
7 |
いじめ |
14 |
43 |
10 |
67 |
2.6 |
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