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更新日:2016年12月1日
平成10年3月31日 長野県教育委員会
平成10年になって、中学生を中心とするナイフ等による殺傷事件が相次いで発生している。
これは、最近起こった事件の一部にすぎないが、このようなナイフ等による凶行をはじめとする子供たちの問題行動は、学校、家庭、地域社会のすべてが担うべき重大な教育課題となっている。とりわけ、最近の学校生活における子供たちの日常的な問題行動「荒れ」を、どのように認識し、受け止め、具体的に何をしなければならないか、学校、教師がいま問われている。
「このごろの子供の様子はどうもおかしい。自分の常識では理解できないことが多く過去の経験が通用しなくなってきている」と思い悩む教師、「自己抑制がきかず他者の尊重が全く身についていない生徒が増えた」と嘆く教師がいる。
最近、次のような声を聞いた。
学校での児童生徒の問題行動は、日常化し、粗暴化しつつある。「荒れ」を端的に示すものは、校内での授業妨害や対教師暴力、生徒間暴力、器物損壊などの暴力行為であるが、日常的に問題になるのは、身なりの問題、喫煙問題、いじめ等である。「しらけ」や「あきらめ」「疎外感」を持つ生徒も多く見られる。学校生活の「荒れ」は、校外における万引きなどの非行の激増、「援助交際」と称する性の逸脱行動、覚せい剤等の薬物乱用問題とも無関係ではない。そしてナイフ事件。子供の中には興味本位で、あるいは「護身用」と称して、ナイフ等を所持している傾向が見られる。県教育委員会の調査(本年2月実施)では、公立中学校の20.6%の学校で、正当な理由なくナイフ等を学校に携帯した生徒がいると確認されている。教育目的を実現する場に、こうした凶器が持ち込まれるような異常な事態が広がりつつある。
近年の児童生徒の問題行動の状況をみると、中学・高校生の発生件数が急増しているだけでなく、小学生の校内暴力・非行も増加するなど、低年齢化がみられる。量的変化だけでなく、質的変化も生じてきており、前兆をとらえにくい問題行動の出現、非行の凶悪化・粗暴化現象が顕著になってきており、学校での対応を難しくしている実態がある。
子供たちの「荒れ」の背景や要因としては、どのようなことが考えられるだろうか。ナイフ事件を通じて、さまざまな視点からの解釈がなされているが、一般的な見解としては、次のことが指摘できよう。
このような状況が複雑に絡み合って子供たちを追い詰め、うっ積したストレスや不満を解消することができず、それが時として攻撃性となって現れたり、人間関係をうまく結ぶことができず、居場所や存在感が感じられなくなり、反社会的な行動に走ったりするのではないかと思われる。
学校は、児童生徒や教職員が安心して学習活動ができる場所であることが必要であり特に生命・身体の安全は第一に尊重されなければならない。そのために、学校では指導の基本的な観点を明確にして取り組むことが重要である。
①信頼関係を深める日常的な努力
②問題行動への毅然とした対応
③児童生徒による自主的な取組
④家庭や地域社会、関係機関との積極的な連携(開かれた学校づくりの一環)
児童生徒の問題行動の中には、学校だけでは対応できないものも多くなってきており、子供の健全育成のために、家庭、地域社会はそれぞれの責任を果たすことが求められている。家庭においては、子供の養育に対する責任を自覚し、基本的な生活習慣や倫理観の育成など、本来の役割を果たしていくことが重要である。また、地域社会においては、全ての大人が、社会人として、地域の子供の教育に責任を持つという考えに立って、子供たちの健全育成を支援していくことが大切である。学校は、開かれた学校づくりを進める中で、PTAや地域と課題を共有し、協力してこの問題に対応していくことが求められている。さらに、警察や児童相談所、保健所、青少年補導センター等の関係機関との連携を深めることも重要であり、加えて、子育てに父親も責任をもって当たれるよう、企業に協力を求めるなどの新たな連携も必要になってきている。
児童生徒の問題行動に関し、連携のあり方が形式化したり、一部の関係者だけにかたよって全体のものになっていなかったりなど、必ずしも実効性のあるものにはなっていない面がありはしないだろうか。各学校に設置されている「いじめ等対策委員会」や市町村単位の「いじめ等対策連絡協議会」が有効に機能するよう常に点検しつつ、前向きに取り組んでいくことが期待される。
〔学校側の要因〕
〔保護者側の要因〕
〔関係機関側の要因〕
〔基本的な考え方〕
〔関係機関との連携〕
平成10年3月23日、文部省は「学校の『抱え込み』から開かれた『連携』へ-問題行動への新たな対応-」(児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議報告)を発表した。その中で「問題行動への対応について学校は万能ではなく『抱え込み』意識を捨てるべきこと」を提言し、「学校は問題の状況に応じ、速やかに関係機関への相談、対応の依頼をしていく」との方向を提示している。
学校も社会全体も意識転換していかなければ、新たな問題行動に対応できなくなってきている現実がある。
「内にも外にも開かれた学校づくり」、これがこれからの生徒指導におけるキーワードである。
なお、学級等で指導する際の参考資料を添付した。活用願いたい。
襲われるから?何となく不安だから?かっこいいから?君はなぜナイフを持ち歩くのだろう。
むかし、ぼくが中学生だったころ、肩をいからせたグループによくねらわれた。
休み時間に「放課後、ちょっと来い。逃げるなよ」と、学校の裏手にある原っぱを指定されるのだ。
呼び出しを何回かすっぽかしたあと、戦う準備を始めた。ズボンのベルトの上に、もう一本、革のベルトを巻いて登校した。殴られそうになったら、一瞬にべルトを抜いてムチのように振るい、相手がひるんだすきに逃げるつもりだった。
なぜ、ムチなのか。それは相手と間合いがとれるからだ。取っ組み合いは怖い。殴られるし、相手がどんな武器を持っているかわからない。
つまり、僕は弱虫だった。君たちからみれば、たぶんかっこわるい。
でも、弱虫でよかったと思っている。幸い、友だちが間に入ってくれてムチを使わずにすんだけれど、たとえ使っても、ムチなら相手も自分もそれほど傷つかずにすむ。そのぐらいの計算はしていた。
ナイフにも興味をもった。ただし小学生のころだ。なんとなくかっこよかったからだ。でも、中学で戦いが現実味を帯びてきたとき、ナイフは選ばなかった。どう背伸びしてみても、怖いものは怖いのだ。
君たちのあいだで、ナイフを持つのがはやっているようだ。
使うつもりはない、というのかもしれない。でも、それはおかしい。武器というものは、身につけるのと使うのとは同じといっていい。それほど近い関係にある。脅すためにちらつかせるだけだと思っても、ナイフを見てしまった相手がどのように反応するか。気が動転し、冷静さを失うだろう。ナイフ以上の武器を取り出すかもしれない。そうすれば、君が思ってもいない事態に巻き込まれる。
急所でなくとも、刺されたショックで死ぬことは珍しくない。君が刺しても刺されても、取り返しがつかないことになる。
これはとても怖いことだ。意味のない怖さからは逃げた方がいい。怖くても一人ででも、立ち向かわなければならないことは、これからの人生にいくらでもある。正義や誇りのために。そっと持っているだけだから、というのなら、なぜ持つの。イライラや不安が少しは和らぐというのかな。
でも、ナイフは何もしゃべってくれないし、迷いの答えも教えてくれない。ナイフが何の解決にもならないことは、これもちょっと考えればわかるはずだ。
君の周りにも、信頼できる友だちもいるだろう。親や先生がいやなら、電話相談でもいい。イライラすることがあったら、うまく説明できなくてもいいから、思い切って言ってみようよ。
ナイフを使った出来事に、驚いた大人たちは持ち物検査とか、刃物を売るなとか、さまざまな対策をとり始めている。
君たちがナイフを持ちたいと思う気持ちが、こういう対策で消えるものではない。だから、またムカつくかもしれない。でも、命にかかわる事件をとりあえずとめるには、と大人が当然考える策なのだ。
社会がこのように動き出すのも、十分予想できることだろう。
人を死なせることにもなる武器を身に帯びることが、どのような事態を生み、波紋を広げるか。君たちは一人で、あるいはみんなで考えられるはずだ。
(朝日新聞 平成10年2月5日付け社説より)
3月8日付の中学生は、持ち物検査に抗議をしていましたが、その意見に少し疑問を感じました。「プライバシー」を強調し、教師の「職権乱用」と強く批判していましたが、学校に行くのにそんなに個人的に大切なものを持って行くのですか?かばんを他人に開けられることに抵抗があるのでしょうが、逆に見られて困るものは本来学校生活に不必要なものではないでしょうか。学校は公共の場であり、公共のマナーやルールがあります。「持っているだけで他人には迷惑はかけない」と主張されるかもしれませんが、それは言い訳で、普通は目的を持ってかばんに入れていると思います。危険物は言うに及びませんが、お菓子やマンガ・雑誌でも、もし授業中にそれを食べたり読んだりすれば、授業に専念している先生や生徒の権利の侵害です。(大阪府豊中市 35歳の女性)
うちの子供たちも普通に育っていると思うのだが、態度や言葉が瞬時に変わる。「てめ-」だの「うっせ-」だの言う時はこちらも大人げなく怒る。またお金やものを次から次に欲しがる。言い草は「みんな持っているから」。専用のテレビ、電話、MDコンポ、ブランド衣料など高価なものを列挙する。みんながこんなにそろえているとすれば、それこそ異常なのではないか。ぜいたくだとはねつけると、「古い」と決まり文句が返って来る。自分の子供だけ良く育てようとするのは無理のようだ。みんな良くならねば子供社会は荒れ放題である。子供を悪くするもの、例えばいじめにつながりかねないテレビ番組、わいせつ情報を提供するサービスなどは自重してほしい。(愛知県豊田市 46歳の女性)
今30歳の息子が中学1年の冬のころ、乱雑な机の上を整理し、ついでに彼には怒られるのを承知で、引き出しの奥をのぞいてびっくり。明らかに凶器と思われる品々が隠してあったのだ。切り出しナイフ小2丁と釣針の束、鉛の塊、指を通してパンチを与える鉄製の道具……。
いつから不良の仲間に入ったのか、あのおとなしい子が……。学校から帰るなりそれらの物を前にして必死で彼に馬乗りになってしりと言わず、頭といわずたたいた。彼は謝る代わりに泣いた。「いくら護身用に持っているだけだと言っても理由にならない。持っているだけでも罪になるのだ!」。私は涙をふきもせずたたき続けた。 (東京都北区 58歳の女性)
(以上 毎日新聞 平成10年3月15日付け投書欄より)
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