指導資料No.42 校内暴力をなくすために~徹底した暴力否定と生徒理解を~
一部ではあるが深刻な校内暴力が起きています。普段から授業妨害、器物損壊、下級生への暴力、教師への暴言・暴力をくり返えしてきた数人が、職員室にまで押しかけてきて注意をした教師に襲いかかり、傷害を負わせるといった暴力事件さえ起きています。
このような事件が起こってくる背景としては、その生徒自身がもつ粗暴性、衝動的で情緒不安定、自制心のないこと等の性格上の問題、家庭環境、特に放任し、基本的なしつけをしない父母の養育姿勢に問題があると思います。このような背景のうえに、授業がわからない、何かにつけて悪者扱いされる、注意のしかたが悪い等々の学校での誘因が加わり、生徒たちの欲求、不満が爆発して校内暴力事件が発生していると思われます。
もちろん非行・暴力行為等問題行動にはきびしく対処しなければなりません。しかし、一方ではなぜ生徒がそのような行為に走るのかを理解しなければ根本的解決はできません。昨年実施された本県中学生対象のある意識調査によれば、約50%の生徒が「先生をなぐってやりたいと思うことがある」と答え、教師に対する不信、不満を示しています。他の多くの生徒の見ているところで器物を破壊したり、教師に暴力をふるうということは、それを心情的に支持している生徒が多数いることの現われであると受けとめることができると思います。
生徒指導の基盤は教師と生徒の信頼関係にあります。暴力行為に苦しんでいる学校はもちろんのこと、目立った暴力行為がなくても本号を参考にしてその兆しの有無を点検し、未然に防止するよう積極的に取り組んでほしいと思います。
平成元年8月28日 長野県教育委員会 生徒指導幹
目次
- 暴力行為の実態
- 具体的な指導の進め方
- 指導実践事例
1.暴力行為の実態
暴力行為の概況
小・中・高校生とも一時鎮静化していた暴力行為が再び増加しはじめ、その対応が急務となっています。
警察庁の調べによりますと、全国の63年中の校内暴力は943件で前年比4件(0.4%)減ですが、対教師暴力は543件で前年比61件(12.7%)も増加しています。
昭和63年中の県下の刑法犯少年の検挙補導状況をみると粗暴犯が415人で前年比156人(60.2%)と著しく増加し、学職別でみると小学生3人、中学生128人、高校生120人で増加の傾向を示しています。
また県警が認知した63年中の県下の校内暴力は中学校16件24人(前年5件15人)高等学校3件6人(前年0)。対教師暴力は中学校で8件14人(前年4件3人)と増加しています。
表1 校内暴力で検挙・補導された生徒の推移(県警資料に基づき作成)
暴力行為の具体例
県下では次のような中・高校生の暴力行為が発生しています。
- 学校内における暴力
- 対教師暴力
- 全校朝会に出席しない生徒(普段から怠学傾向)に巡視中の生徒指導主事が注意したところ、反抗し、殴りかかる。
- トイレや体育館用具置き場等で、教師に喫煙を注意されたことに腹を立て、数人で教師に襲いかかり、殴る、蹴るの暴行をはたらく。
- 清掃中、他学年の生徒が教室に遊びにきて、邪魔をしているのを見た教師が再三注意したところ、暴力を振るう。
- 授業をさぼった上級生が、下級生の授業を冷やかした。そのことを注意した教師に対し、暴力を振るう。
- 生徒間暴力
- ふざけ半分のようにしながら、弱い者に暴力を振るう。
- 「生意気だ」といいがかりをつけ、殴る蹴るの暴力を振るう。(動機は単純だが、件数は非常に多い)
- 知り合いの女子生徒をいじめたといって暴力を振るう。
- 「あいさつしない。生意気だ」といってクラブ部室へ連れ込み、殴る、蹴るの暴力を振るう。(女子)
- 「チクッタ」といって女子便所へ連れ込み、陰湿な暴行を加える。(女子)
- 出身中学間、グループ同士の勢力争いのけんか、暴力。
- 学校間の生徒間暴力
- 校外で、普段全く関わりのない弱い者に対し、いいがかりをつけ暴力を振るう。
- 以前から続いているいがみ合いが、あるきっかけから暴力行為に及ぶ。
- 暴力を仕掛けられ、報復行為にでる。(グループ同士の対抗や縄張り争いのための暴力行為)
- 学校間で、日頃から生意気だと思っているグループ同士が暴力を引き起こす。
- 複数の学校から集まった集団が、ある学校の情報を入手し、集団で押しかけ暴力事件を引き起こす。(威張っている、いじめられているということで、対抗意識や助っ人意識をはたらかせ押しかける)
- 校外での暴行・恐喝行為
- 中学生や高校生が有職・無職少年とともに、道路上、スーパーマーケット、駐車場等で「生意気だ」、「ガンつけた」などといいがかりをつけ、暴力を振るい、そのうえ金銭を巻き上げる。(小学生や青年に対しても)
- 縄張り争いから、相手を駅のトイレや人通りの少ないところへ連れ込み、リンチを加える。(女子)
- 「仲間の悪口を言った」、「チクッタ」といって同様の行為をする。(女子)
- 問題傾向を持つもの同士がグループをつくり、弱いものに因縁をつけ、暴力を振るい、負けたから金を出せと言って脅し、巻き上げる。また、暴行を加えた後仲間に引き入れる。
- ただその日の虫の居所が悪いというだけで行きずりの弱そうな相手に暴力を振るう。
暴力行為を起こす子どもの特徴
暴力行為に走る子どもたちには、次のような特徴が見られます。
- 善悪の判断、規範意識が薄い
やっていいこと、やってはいけないことの「ケジメ」が分からず、社会の一員として、共同生活の中でルールを守ろうとする意識が薄い。
- 自己中心的な言動が目立つ
「自分は悪くない、相手の方が悪い」などと、自分勝手な言い訳をして自分の行動の責任を相手に転嫁する気持ちが強い。
- 耐性が乏しい
我慢することができず、誘惑に負けたり仲間の言動に左右され、自分の思うとおりにならないと、物を壊したり、人を傷つけたりする。
- 学習意欲が乏しい
学習意欲に欠け、授業に出なかったり、出ても集中出来ず、私語をするなど授業妨害をしがちである。
- 衝動的・攻撃的である
情緒不安定で興奮すると手がつけられない。
- 劣等感が強く、自尊心を持てない
自分の育ってきた環境や学習が分からないこと等から劣等感が強く、自尊感情を満していない。
これらは暴力行為のみならず、非行に走る子どもたちに共通してみられる特徴ですが(4)(5)(6)は暴力行為を起こした子どもたちに顕著に見られる特徴です。劣等感から「自分は駄目だ」と思い込み、また自分のまわりの先生も親も近所の人達も自分を駄目な子どもだと思っているに違いないと信じ込んだり、あるいは周囲から「あの子は悪い子」というレッテルを張られていると受けとめ「どうせ駄目だ、どうにもなれ」「メンツがつぶれた」等開き直ったり、自暴自棄になったりします。さらに親や教師に対する不満や反発する気持ちを強く持っています。
このような特徴をもった子ども達が学校で仲間たちに無視されたり、教師の不用意な言動にあって自尊心を傷つけられると激高し、暴力行為に走りがちです。しかし、彼らは「無視しないでくれ」「俺たちの気持ちを分かってくれ」という強い意識を持っています。
いかに彼らを理解していくかが指導のカギになります。
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2.具体的な指導の進め方
生徒指導組織の確立
問題が発生した場合、事態が深刻になればなるほど、校長(教頭)のリーダーシップが問われます。それだけに、日頃の生徒指導組織が機能できるように工夫しておく必要があります。
- 加害生徒に対する責任の指導
- 暴力行為で相手を傷つけたり、校舎を破損したりした場合、その責任の取り方をはっきり示し、生徒に知らせておく必要があります。
- 同時に、そうした暴力行為に走らざるを得なかった「心情」を十分に受けとめたうえで、責任の取り方を納得のいくように指導します。
- 保護者に対しても、生徒と連帯して責任を負う必要のあることを連絡し、賠償等を求めていきます。
- 相談活動を通しての指導のあり方
- 日頃から、暴力行為に走りがちな生徒や彼らの集団に対して、気持ちの通じる教師、ものの言える教師を通して彼らへの理解を深めておきます。
- 生徒指導係(部)や生徒指導主事を中心にした相談体制を確立し、日常的に彼らの不満や要求をきき、情緒的に安定するように努力することも大切なことです。
- 生徒指導係(部)が中心になって、該当する学年の教師が指導に当たりますがそれ以外の教職員がどんな援助や指導が出来るかはっきりさせ、暴力行為にいたらないよう対策を立てていきます。
- 集団での暴力行為では、個々の人間関係よりも、仲間の論理が優先されます。そこでグループ全員に複数の教師による相談、助言、指導を行い生徒の心情を理解します。
生徒理解の充実
表2 「校内暴力のダイナミックス(力動)」―福島章著「非行心理学入門」から引用のうえ修正した
校内暴力は表2のようにして起ってくると考えられ、生徒理解をより充実させることが大事になってきます。
- 暴力行為を通して生徒たちが訴えようとしているものが何であるか理解する。
- そうした傾向を持つ生徒そのものの理解を深めます。
- 暴力行為を肯定してきた、家庭的背景はないか。
- 特に、父親等によって暴力的制裁で育てられてきたことはないか。
- かつて、暴力の被害者であったことはないか。
- 暴力についてどんな認識をもっているか
- 教師や学校に対して、どんな思いで反抗しようとしているか。
教師はともすると、「指導」には熱心ですが、子どもの訴えを聴き「理解」することに欠けていないでしょうか。
ある中学生の訴え(「児童心理」7月号から)
先生、聞いてください。
ぼくらの悩み、不平、不満を。
先生、話してください。
あなたの青春の夢や、希望を。
先生、叱ってください。
ぼくらのあやまちや、さぼりを。
先生、教えてください。
わかるまで、果てしない人生のつらさきびしさを。
暴力行為の進行段階の理解
こうした行為は突然おこるものではありません。一般的には初期(一期)、破壊期(二期)、荒廃期(三期)という三つの段階が考えられます。
- 初期(授業がしにくくなり始め、校内秩序が少しずつ崩れ始める段階)
- 落ち着きのない雰囲気の中で、遅刻が増え、提出物、宿題忘れ、授業中の私語が多くなります。教師の注意や指導に対しても反抗的、あるいは無視などの態度が見られるようになり、校則違反が目立ってきます
- 校舎内外の清掃や美化が徹底せず、紙くず、食べかす等が散乱し、掲示物が破られたり、落書きが増加してきます。
- 教師の目の届かぬ所で、エロ本の回し読み、教師への悪口の落書き、まじめで大人しい生徒への嫌がらせ、弱者いじめ等がひそかに広がっています。
- 破壊期(自浄力が低下し、突っ張り集団の支配下におかれる状態の段階)
- 突っ張りグループが自浄力の低下に乗じて公然化してきます。
- 大人しい教師や女性の教師をからかう等の行動を、他の生徒の前で示威的、英雄的に行います。
- 大人しい言うことをきく生徒に買い物等をいいつけて、自分達の部下のように扱います。
- 教師の目の届かぬ所で、喫煙、シンナー、集団万引、陰湿ないじめが行われます。一方では天井の穴あけ、トイレの腰板やドア等の破損、水道の蛇口や教室の螢光灯、窓ガラスなどの破損がみられます。
- 荒廃期(学校はまますます荒廃し、暴力行為の日常化、器物破損のゲーム化段階)
- 校舎内、教室内で喫煙、シンナー、リンチ、弱者いじめが行われます。
- 授業中、大声や奇声を出したり、教室を出入りし、他の教室に入り込んだりします。
- 染髪や眉の剃り落とし等で挑発し、自己を誇示します。
- 大人しい教師などのネクタイや上着を掴んでつめより、暴言を吐くようになります。
- 教師の注意が気にいらない等といって、教師に対する暴力をはたらくようになります。
日常的な指導の工夫
- 授業を大切にするためのルールを確立します。
- 遅刻防止のために、時間を守ることの大切さをくり返し説き、チャイムは重要な合図であることを認識させます。
- 始業のあいさつは全員の姿勢が揃うまで待つ。遅れて来る者には理由を聞く。欠席者の動向を級友に確認するなど、教師の目が常に一人ひとりに向けられ、学級全体にもそのことを意識させます。
- 真の学力は生きる上で必要であることを教師と児童生徒の共通課題として、分かる授業、魅力ある授業を推進します。
- 学習へのつまずきの発見と、個別補充指導を早期に行います。
- 校内を明るく清潔な雰囲気に満ちた場にするよう心がけます。
- あいさつ、清掃、花いっぱい活動などを、教師の側からも積極的に進めます。
- 問題を抱えている児童生徒には特に言葉をかける、ほめる、スキンシップなどで強い関心と受容の態度を示します。
- 校内巡視や校外巡視を定期的に行い、問題行動は、見過ごさない、見逃さない、見落とさないことです。早期発見と適切な指導が大切です。
- 学級づくりや、部活動、行事の中で目標に向かって全員が活動できるよう、どの生徒も生かす工夫をします。そして責任を持って役割を果たせるよう援助します。
- クラス通信や学年通信を通して、学校や子ども達の様子を家庭に伝え、ともに歩む姿勢の理解と協力を求めて行きます。
- 生命尊重や社会規範にかかわる事柄は、PTAや地域の協力なしには守ることができないので、日頃から連絡を取り合い、開かれた学校づくりを実践します。
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3.指導実践事例
校長のリーダーシップのもとに学校を立て直した中学校
1 問題行動の概要
- 中学入学から2年生まで
1年生の7月頃から、深夜徘徊等を繰り返していた2名を中心に、他校生への暴力行為、学校の指導に対する反抗等、いくつかの問題行動を起こしていました。
2年生になると、これらの生徒の怠学傾向が強まり、学級集団としても少しずつ授業がやりにくくなってきました。2学期になると1人の生徒の家が溜り場のようになって、近隣の中学校の突っ張りグループとのつき合いも始まりました。3学期には、他の学級の担任に給食の汁物をかけるとか注意を受けた教師に殴りかかるとか、対教師暴力が顕在化してきました。他の学級へ爆竹花火を投げ込んで脅すことや教卓の脚を切り落とすなど、器物破損も進行しはじめてきました。
- 3年生になって
こうした事態を何とか立て直すために、学級担任を替えたり、最上級生としての自覚を促したりしながら、新学期をスタートしました。
しかし、4月早々から、注意した教師の車をへこますとか、ガラス窓を割るとか、火災報知機へのいたずらとかが相次ぎました。
そして、授業を抜け出しての喫煙や飲食が次第に日常化し、4月下旬、数名の生徒が、学級活動に参加するよう厳しく注意した教師に殴る蹴るの暴力をふるい、止めに入った教師にも暴力を働き、警察へ連絡をせざるを得ぬ事態となってしまいました。
2 学校のとりくみ
基本的な指導方針
こうした異常な状況を立て直すために、4月に着任した学校長は、次のような基本的な内容を全職員に示し、協力を求めました。
- 彼らは病み苦しんでるのだから、受容的に接する。しかし、犯罪行為や妨害行為には厳しく対処する。
- 教師は絶対に暴力や体罰をしない。
- 逃げ腰にならずに取り組み、健全な生徒の声を大きくしていく。
この方針に基づいて、全体指導と個別指導の具体的な内容を次のように決めて、指導に当たるようにしました。
- 職員が歩調をそろえて、徹底した現場指導(その時、その場)をしていく。
- 鞄を持たずに登校する生徒へは、父母の協力を得て、指導に当たる。
- 家庭連絡を密にし、家庭での指導を徹底してやってもらう。また、PTA活動による保護者相互の注意のし合いを活発にしていく。
この全体指導は、清掃や給食、服装を中心にして徹底することにしました。
また、問題行動を起こしているメンバーを正確にとらえ、彼らのつながりを把握したうえで、個別指導の内容を次のように決めて、指導していきました。
- 暴力行為、ぐ犯行為は絶対に許さないことを、十分納得するまで徹底した指導をする。
- 授業の抜け出しや、屋上、無人教室、保健室等への無断、不要の立ち入りは授業妨害であり、家人に連絡し、共に指導に当たってもらう。
- 全校生徒に具体的事実を知らせ、協力を求める。(復讐や脅迫から守りながら)
- わかる授業を徹底し、学習の面白さを少しでも味わえるように努力する。
- 問題行動に走っている生徒の気持ちを受け入れながら、あたたかく接していく。
指導の具体的対策
こうした指導方針を確立しても、それを日常的にどのように徹底していくかが、最も重要な部分となります。A中学校では、次のように決め、前年度まで、できるだけ公にしなかったこともPTAにはっきり伝えて協力を強く要請しました。
- 授業中にいない生徒の確認をして、すぐに連絡をとり合う。(職員室内の黒板に欠席生徒名を掲示する)
- 巡視当番を決め、空き時間に巡視を徹底して行う。
- 清掃時間に教師の目の届かない場所のないようにする。
- 生徒会に働きかけ、自治的活動を活発にしていく。
- 破壊された施設等は、可能な限り修理し、きれいな環境を保つ。
- 次の点でPTAの協力をお願いする。
- 役員等による学校生活の実態把握のために自主的校内巡視を、給食時と清掃時に行う。
- 地域集会等を通して、親として最低やってほしいことを確認し、実践していく。
- 下校時に、校外の溜り場などの状況を巡視する。
- どんなことでも情報を提供してもらう。
3 具体的なとり組み
以上のような基本方針、具体的対策に基づいて日常的な取り組みを進めながら、A中学校では次のような大きな道筋を生徒に示して指導を具体化していきました。
- 修学旅行を本当に生徒自身の力でなしとげられるようになるまで、延期する。
- 修学旅行が成功したら、その力をさらに高め、秋の文化祭が成功するように努力していく。
- 最終的には、卒業を迎えて、それぞれの生徒が、自分の進路に向かって全力を上げられるように指導していく。
- 修学旅行を成功させたい
延期となると、生徒たちはさまざまな反応を示しました。「何で延期するのだ」「せっかく準備してきたのに」という不平と、「現状では無理もない。本当に楽しい旅行にならない」「今のままだと係としては不安でしょうがない」という心配とが表明されました。
学校側は、生徒の言葉をじっくり聞き、不平や不満を受けとめたあと、「修学旅行に行けるかどうかは、皆さんの決意一つにかかっています。本当にみんなが“いい修学旅行だった”と言えるようにがんばろうじゃありませんか」と訴えました。生徒の本来持っている力を信じ、それに頼る言葉でした。
学年生徒会は「どうしたらすばらしい修学旅行になるか」を各学級に再検討するよう要請し、教師も全力を上げて生徒の動きを支えるように力を注ぎました。
話し合いの結果、それぞれの係が苦労して示した係案や行動細案をもう一度真剣に検討し直して、集団行動の基準にすることで学年全体の意見がまとまりました。
2学期になって、生徒の気持ちはいよいよ高まり、どうしても修学旅行を成功させたいという声が主流を占めるようになりました。そのために、班や学級や学年全体にわたる集団訓練が何回も行われました。旅行の栞にそった読み合わせを何度もし、そうした行動を通して、学級のまとまりが次第に強まり、学年全体としても集団としてまとまってきました。
同時に、修学旅行に関する学習も深められ、心はずむ思いで、2学期の中頃に、中学校としては時期はずれの修学旅行が実施されたのです。
- 個別的な立ち直りへの援助
こうした修学旅行への取り組みと並行して、問題行動の中心になった生徒への立ち直りへの指導も、専門機関の援助を受けながら進められました。
中心人物のうちの一人のB君は、両親が共に店を持ち、経済的には裕福な家庭です。ただ、幼い頃から多忙であった母親に十分愛されなかったために、情緒的に安定しておらず、父親も仕事に追われて、放任の状態であり、厳しさの全くないまま成長したため、きわめてわがままにふるまっていました。
精神科医等の指示は、「自分の力のかなわない大きな力」で、正邪の判断をわきまえさせていくこと、そのために、警察や家庭裁判所等の力も必要があれば借りることというものでした。
これまで、子どもの問題行動を学校からいくら指摘されても「子どものことだから、そのうち何とかなる」と楽観していた父親も、教師に傷を負わせたという重大な事件にあって、やっと目が醒めたようです。
そして、夫婦が協力して子どもの成長のために努力するように少しずつ変わっていきました。学校ではこれを契機に、学級担任と生徒指導主事とが家庭訪問を継続し、親の相談に応じながら、B君の気持ちの安定にも努めてきました。
また、学級ではB君を何とか級友たちの中に位置づけようと考え係活動に責任をもつよう皆で援助しました。B君にとって幸いだったのは、相棒役を果たしていたC君が、鑑別所の判定を経て(4週間)教護院へ収容されたことです。B君は、突っ張っていることをC君に誇示する必要もなくなり、両親の援助もあって次第に学級に落着くようになっていきました。
- 文化祭の成功に向けて
修学旅行の成功は、生徒たちに大きな自信を与えました。「俺たちだってやればできる」と集団の可能性を知りました。この力がまとまって、文化祭の成功のために向けられました。
前年の文化祭は、楽しいだけのものであればいいという安易な考えによって充実しませんでした。その苦しさを知っている生徒会執行部は、文化祭を充実させるために、各学級で、そして各学年で討議するように求めました。
この中で目を見張ったのは、3年生の中から「新しい伝統を俺たちの手で」という意見が出て来たことです。修学旅行の成功に自信を得て、はじめて学校全体のリーダーシップをとることができるようになりました。「感動の二日間」と言えるほど、三年生は持てる力を十分に発揮することができました。
4 学校立て直しの陰に
文化祭の成功のあとは、進路決定と卒業へ向けた準備です。さまざまな紆余曲折を経ながら、何とか無事に卒業にまでこぎつらけれたのは、何よりも学校長のリーダーシップでした。そして、学校のできごとを包み隠さず公にし、積極的にPTAや地域の人々に協力を求めた姿勢です。
また、基本的な指導方針を明確にし、譲ってはならないところは決して妥協しない強さ。そして、全校あげた職員の取り組みでした。職員の心の底には「この子たちを決して見捨てない」という深い愛情があったことは、言うまでもありません。
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