指導資料No.77 スクールカウンセラーがやってきた! ~スクールカウンセラー活用法入門~
中学校を中心にスクールカウンセラーの配置校が増えています。これをきっかけに、誰でも気軽に相談を受けられる学校作り、カウンセリングマインドを持って児童・生徒に接する教師集団作りをすすめたいものです。
そのためには、スクールカウンセラーと、児童・生徒、保護者、教師との関係作りがカギとなります。
- スクールカウンセラーと共に築く学校づくり
- 学校へのお願い
- こんな活用法はいかがでしょうか?
平成15年(2003年)3月20日 長野県教育委貞会
1 スクールカウンセラーと共に築く学校づくり
スクールカウンセラーってどんな人?
臨床心理士、精神科医、心理学系の大学の先生など、教育相談や心理臨床の経験豊かな「心の専門家」です。
スクールカウンセラーって何をする人?
子どもたちの悩みを聴き、カウンセリングを行います。また、子どもたちへの対応に悩む保護者や教職員に対する助言や連携した指導を行います。不登校だけでなく、いじめや友人関係、家庭の問題についても相談にのっています。
事例1 |
小学校2年生のA君は、落ち着いて集団の活動に取り組むことができません。担任のB先生は、授業中すぐに席を離れてしまうA君をつい叱ってしまい、自分の指導に行き詰まりを感じていました。
母親との相談の中で、自分の正直な気持ちを伝えたB先生は、スクールカウンセラーとの相談を勧めました。
最初は懐疑的だった母親も、継続したカウンセリングの結果、自分の子どものありのままを受け入れられるようになりました。
さらに、アトピー性皮膚炎の受診と合わせて訪ねた専門医から、LDとの診断を受け、以前は自分の子を好きになれず、手もつなげなかった母親が「この子のためなら何でもしてやりたい」と強く感じるようになり、対応も穏やかになって行きました。
B先生も、カウンセラーのコンサルテーションを受け「ほめるときはうんとほめ、叱るときははっきり分かるように短く叱る」という対応を続けた結果、クラスの友達も担任のまねをして、A君をほめることが多くなりました。帰りの会などでも「叩いたけど謝ってくれた」「ちゃんとイスに座っていた」など良いことを取り上げて発言し、それにつれて、A君の行動は次第に落ち着いてきました。
関係諸機関との橋渡し→保護者を支える
保護者は、自分の子どもに対する不安や自分自身の心の問題を担任に相談できずに悩んだり、漠然とした不安感を子どもに直接ぶつけてしまったりすることがあります。そんな時、学校と直接かかわらない第三者で、しかも心の専門家であるスクールカウンセラーに話を聞いてもらえるということは、保護者に大きな安心感をもたらします。
A君の母親が、担任からは勧めにくかった病院の受診を決断したのも、我が子に対する見方を変え、正面から向き合うことができるようになったのも、スクールカウンセラ一との継続的なカウンセリングから生まれた信頼感によるものです。
そのことが、結果として子どもの成長に結びつきます。
「見立て」にもとづいた助言→担任と共に
この事例のB先生のように私たちは、子どもの接し方に迷うことがあります。そんな時、スクールカウンセラーから専門的なアドバイスを受けることで、今までの私たちの子ども理解や援助方法を見直し、新たな視点で自信を持って子どもにかかわることができるようになります。
A君のような子どもの場合、非指示的な対応は本人の不安や混乱を招きやすく、担任が受容的かつ指示的なかかわり方をすることが、本人に安心感をもたらすと言えます。児童・生徒への的確な見立て(アセスメント)が子どもを支えることにつながっていきます。
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事例2 |
スクールカウンセラーのC先生は、「不登校生も学校に来れる日を作れないかなあ」と考えました。相談室担当のD先生と相談し、文化祭の第一日目の「夜のE中祭に集う会」を、職員会に提案しました。
相談室登校生や在宅の生徒達に参加を呼びかけると、生徒、保護者、家族が合わせて22名、この集いに集まりました。
生徒達は、各教室の展示を見学した後、文化祭のメイン会場である体育館に立ち寄りました。そこには多くの教職員が残って職員合唱の練習をしていました。
教頭先生が司会を務め、校長先生の歓迎の言葉、職員合唱の発表、先生方の自己紹介などほのぼのとしたセレモニーが即興で行われました。
翌日の文化祭閉祭式では、校長先生が「夜のE中祭に集う会」の様子を紹介し、不登校生も参加することができた文化祭の成功を共に喜び合いました。
この集いをきっかけに生徒達は、学校や教師に対する信頼感を高め、自分がE中の一員であるという誇りを感じながら、この後も「夜のE中講座(理科や英語の授業)」「チャレンジ相談室(映画を見に行こう)」など様々な取組へと積極性を見せるようになっていきました。
学校職員との共同作業(コ・ワーク)→チームでかかわる
スクールカウンセラーは万能ではありません。学校では孤立無援になりがちです。したがって、担任や養護教諭、生徒指導主事などと「どの段階の、どの場面で何ができるか」等の役割分担を明確にして、児童・生徒の支援を進めて行く必要があります。
例えば、学級内の友人関係のトラブルで不適応気昧になっている児童・生徒の場合、担任や生徒指導主事が本人を取り巻く環境(学級)に働きかけ、スクールカウンセラーはその生徒の当面の居場所の確保や援助を引き受けることになります。
また、学校や担任への不信感が強い保護者や児童・生徒への対応をスクールカウンセラーが引き受けて、学校や担任との関係を調整することで、保護者の感情が和らぎ学校との心理的距離が近づくことがあります。
学校や教師のあり方を見つめなおす→チームでかかわる
不登校など学校が抱える課題を子どもの側からとらえ直すスクールカウンセラーの視点を、学校行事や教育課程などに反映したいものです。
不登校生を学校の中心にすえながら一人一人の生徒が活動できる場を広げたE中学校の取組は、子どもの自立を促すとともに、保護者の信頼感につながり、さらに「不登校生の存在は、担任や担当者だけの課題ではなく、本校の教育全体にかかわる課題である」という教職員の認識の変化をもたらす結果となりました。
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学校へのお願い
1 相談室の整備をお願いします
- 相談室は相談者の内面に触れる場所です。リラックスできる環境をできる限り整えてください。
- 誰もが気軽に相談でき、秘密が守られる場所を校舎内で検討してみてください。
2 スクールカウンセラーを学校組織の中に位置付けてください
- 年度初めに、全校集会や学年集会・PTA懇談会などでスクールカウンセラーを紹介しましょう。
- 学校だよりや学年通信等で、スクールカウンセラーの来校日時を保護者・児童・生徒に知らせてください。
- 職員室に机を置いたり、下足箱・ロッカーを準備し、配布物等も職員同様に配布するなどの配慮が必要です。スクールカウンセラーによっては、職員と一緒にお茶を飲みながら情報交換したり、懇親会に参加されたりする方もおられます。
- スクールカウンセラーを校務分掌に必ず位置付けましょう。
例)不登校対策委員会、教育相談係会、就学指導委員会、いじめ等対策委員会など
- 係会、学年会、事例検討会等で助言をしてもらうこともいいでしょう。
- スクールカウンセラーを講師として、教職員やPTAのカウンセリング研修や講演会を企画してみましょう。
- スクールカウンセラーをアドバイザーとして、不登校生の親の会を計画的に運営しましょう。
3 先生方との相互理解が子どもへの有効な支援のカギを握ります
- 教職員・保護者・児童・生徒との橋渡しの役割を果たすコーディネーター(キーパーソン)を決めておきましょう。コーディネーターは、教育相談の日程調整だけでなく、学校全体の子どもの様子を把握し、相談の優先順位や個々の状況に応じた教育相談設定ができる教頭、生徒指導主事、教育相談係、養護教諭等が望ましいと思います。
- 学校の児童・生徒の実態、来校しているスクールカウンセラーの得意な手法や持ち昧に合った、その学校独自の活用方法を焦点化し、職員間で共有しましょう。
- 対象児童・生徒に対するスクールカウンセラーの見立てが、支援の方法を大きく変えることがあります。教職員とのコンサルテーションの時間を、短時間でも日程の中に必ず確保してください。
- スクールカウンセラーが、児童・生徒の活動(授業や給食、行事など)に参加したり、学年会や職員会等の会議で教職員と話し合ったりすることも、支援のあり方を探る有効なヒントになるでしょう。
- 相談者との信頼関係の確保のため、スクールカウンセラーには相談内容についての守秘義務があります。しかし、スクールカウンセラーが教職員と連携して子どもへの支援を行うために、相談者の同意を得て、相談内容について情報を共有する場合もあります。
- 臨床心理士: 日本臨床心理士協会が認定した心理療法の専門家
- キーパーソン: スクールカウンセラーと連絡調整を行う養護教諭や相談担当などを指す
- コンサルテーション:専門家が問題解決のための方法を教示したり、助言すること
- 守秘義務:相談者との信頼関係のため相談内容について口外しない義務
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こんな活用はいかがでしょうか?
自分の通っている学校でない方が相談を受けやすい保護者や子どももいます。
中学生の相談を出身小学校でやってみたら……………
小学生の相談を中学校に来てもらってやったら…………
他の児童・生徒がいなくなれば学校の門をくぐれる子どももいます。
カウンセラーの了解を得て、対応時間をずらしてみたら………
学校以外の場所なら相談できるという場合もあります。
近くの公園や中間教室など、相談場所を変えてみたら………
中学校1年生の時期に、不登校やいじめが急増する傾向があります。
小学校6年生の相談で得たスクールカウンセラーの情報を、学級編制や新入生の学校不適応の早期対応に活かしてみたら……
中学校生活に不安を感じている不登校傾向の小学校6年生に対して、中学校配置のスクールカウンセラーがその不安を解消する情報を伝えることで……
学級の中で人間関係を作ることが苦手な子どもが増えています。
学活や道徳で、人間関係作りを意図した体験的な授業を提案してもらったら……
担任とティームティーチングの形で授業をやってみたら…
学級集団の実態に基づき、ねらいを明確にした構成的グループエンカウンター(SGE)も有効です…
- 人間知恵の輪
- ノアの箱舟
- 誕生日チェーン
- ブラインドウォーク
- みんな集まれ
- すごろくトーキング 等
リラクゼーション
ソーシャルスキルトレーニング
学校の危機対応に関して
子どもたちが地震、火災等の被災、自殺、交通事故、傷害、性的被害、DVの被害など危機的な出来事を身近に経験すると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等、生涯にわたる大きな影響を残す場合があります。(激しい恐怖感を伴う悪夢やフラッシュバック、無力感など)
事件発生後72時間以内に、混乱している児童・生徒、教職員、保護者を対象に、スクールカウンセラーを中心とした「緊急支援プログラム」を実施することで、自ら問題に対処する力を回復し、正常な生活に戻ることが可能になります。
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