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更新日:2017年4月1日
毎年、数名の児童生徒が自らの生命を自らの手で断っています。本年度これまでに女子中学生、女子高校生の2名が尊い生命を断ってしまいました。遺族はもちろんのこと、級友や教師など周囲の人々に大きな衝撃を与えました。後に残った者たちの嘆き悲しみは言葉にならないほどです。
普段元気なときは自殺など自分とは無縁だと思っていますし、身近な人が自殺するなんて思いもよりません。ところが、人間は何か苦しいことに直面したり、ショックを受けますと、それがきっかけとなってうつ状態となり、「死んでしまいたい」と思ったりするようになるものです。様々な調査によれば、「死にたい」と思ったり、自殺を肯定的にとらえている中・高校生はかなりいます。このことは、彼らが、「死にたい」と思ったからといってすぐに自殺に結びつくわけではないにしても、いつどんな動機で自殺するかもしれない不安定な心理状態にあることを示しています。中・高校生でささいなことで自殺する恐れのある者が、クラスの中に一人か二人はいることを念頭におかなければならない、と指摘する専門家もいます。
自殺願望者は死を望みながらも生き続けたいと願っており、そのために様々なサインを出し続けます。自殺の予防はここに着目することによって可能になります。
自殺を防止するためには、家庭との密接な協力の下に、児童生徒に共感的な態度で接し、深い心の絆を結ぶことが大切です。本号を参考に自殺についての理解を深め、その防止に努めて欲しいと思います。
平成元年12月25日 長野県教育委員会 生徒指導幹
県下の公立小・中・高校の児童生徒の年度別自殺者数は表1のとおりです(教学指導課調べ)。
昭和54年度から昭和63年度までの過去10年間に、小学生2人(4.5%)、中学生15人(34.1%)、高校生27人(61.4%)計44人となっています。男女別では、男子31人(70.5%)、女子13人(29.5%)です。平成元年度は、11月末現在で中学生女子1人、高校生女子1人の自殺者が出ています。全国の公立小・中・高校の状況は表2のとおりです(文部科学省調べ)。
区分 |
54 |
55 |
56 |
57 |
58 |
59 |
60 |
61 |
62 |
63 |
総数 |
380 |
233 |
228 |
199 |
237 |
189 |
215 |
268 |
170 |
175 |
小学生 |
11 |
10 |
8 |
8 |
6 |
12 |
11 |
14 |
5 |
10 |
中学生 |
107 |
59 |
74 |
62 |
83 |
66 |
79 |
110 |
54 |
62 |
高校生 |
265 |
164 |
146 |
129 |
148 |
222 |
235 |
244 |
111 |
103 |
昭和54年度からの過去10年間の状況は小学生95人(4.2%)、中学生753人(32.8%)、高校生1,446人(63.0%)計2,294人となっています。
自殺又は自殺未ついにまでは至らないが、自殺念慮(自殺したいという思い)を抱く中・高生は40人の学級で8人~12人ぐらいいる、といわれています。
児童生徒の自殺の原因には、社会環境や家庭環境、あるいは児童生徒自身の性格、さらには学校における人間関係の在り方などが複雑に絡み合っていると考えられます。昭和63年度全国の公立小・中・高校生の自殺者175人の直接的原因・動機をみると表3のとおりです(文部科学省調べ)。
小学生 |
中学生 |
高校生 |
計 |
||
家 |
家庭不和 |
1(10.0) |
4( 6.5) |
7( 6.8) |
12( 6.9) |
父母等の叱責 |
1(10.0) |
6( 9.7) |
6( 5.8) |
13( 7.4) |
|
貧 困 |
1( 0.6) |
1( 0.6) |
|||
その他 |
2(20.0) |
3( 4.8) |
3( 2.9) |
8( 4.6) |
|
小 計 |
4(40.0) |
13(21.0) |
17(16.5) |
34(19.4) |
|
学 |
学業不振 |
2( 3.2) |
4( 3.9) |
6( 3.4) |
|
進路問題 |
3( 4.8) |
6( 5.8) |
9( 5.1) |
||
教師の叱責 |
|||||
友人との不和 |
3( 4.8) |
1( 1.0) |
4( 2.3) |
||
いじめ |
2( 3.2) |
2( 1.1) |
|||
その他 |
6(60.0) |
2( 3.2) |
4( 3.9) |
12( 6.9) |
|
小 計 |
6(60.0) |
12(19.4) |
15(14.6) |
33(18.9) |
|
個 |
病気等による悲観 |
4( 6.5) |
6(5.8) |
10( 5.7) |
|
厭世 |
4( 6.5) |
10(9.7) |
14( 8.0) |
||
異性問題 |
6(5.8) |
6( 3.4) |
|||
精神障がい |
3( 4.8) |
16(15.5) |
19(10.9) |
||
小 計 |
11(17.7) |
38(36.9) |
49(28.0) |
||
その他(原因不明等) |
26(41.9) |
33(32.0) |
59(33.7) |
||
計 |
10(100) |
62(100) |
103(100) |
175(100) |
(注)( )内は、理由別の構成比である。
その他(原因不明等)が59人(33.7%)と最も多く、次いで「父母等のしっ責」「家庭不和」等家庭事情によるものが34人(19.4%)「進路問題」「学業不振」等学校の問題が33人(18.9%)、「精神障がい」等個人的な問題が49人(28.0%)の順となっています。
子どもの自殺には、さまざまな心理が含まれています。その主なものをあげてみます。
自殺は決して突然起きるわけではありません。一般的には、まず自殺を思い始める時期があり、その思いが次第に高まり、自殺を思いつめる時期へと移ります。この時期に何らかの動機があって自殺に至るといわれています。
未遂であれ、既遂であれ、自殺問題が発生することは大変不幸なことであり、あってはならないことです。子どもの自殺こそなんとしても防がなければならないことは言うまでもありません。不幸にして事故が起きた場合、学校としてどのように対応したらよいでしょうか。
考えもしなかったこと。
なぜわが子が。
なんて馬鹿なことを。
どうして話してくれなかったの。
自殺者が出た場合、最も衝撃を受けるのは、言うまでもなくその遺族、特に両親です。その心情ははかり知ることのできないほどで、時には錯乱状態に陥ることさえあります。寝込んでしまう者、急に老け込む者、立ち直れなくなる者など、危機状態に追い込まれてしまうこともみられます。このような遺族の大きな悲しみをしっかりと基本にふまえて、学校関係者として、子どもの自殺については適切な対応をしてゆかねばなりません。
思いがけないできごとに学校では、生徒はもちろんのこと教師集団、PTAにもその衝撃は大きく、動揺は隠せないものです。どんな場合でも、冷静沈着で、的確な対応に迫られます。
緊急処置
自殺が発生し、最初通報を受けた教師はまず校長に連絡します。連絡を受けた校長はいち早く現場へ急行、現場指揮に当たると同時に、教頭を学校に待機させ、緊急の学校体制を組織させ、指示を与えます。
教務主任、各学年主任、生徒指導主事を集め教頭と共に緊急対策を練ります。
養護教諭は学校医と連絡をとり当面の処置について指導を仰ぎます。
校長(または教頭)が所管教育委員会へこれまでの経過と学校のとった処置について簡潔に速報を入れ、必要な助言、指導を仰ぎます。
PTA会長に連絡をとり必要が生じた場合は遺族の対応にあたってもらいます。
表4 学校管理下における場合の緊急処置とその流れ
2.緊急職員会を召集
応急処置にめどがついたら、校長は学校に戻り、本部での打ち合わせに基づいて緊急職員会に臨みます。この職員会では正確な情報のもとに、教師の共通理解を図らねばなりません。そして事故発生以来の経過を逐一克明な記録にとどめておきます。
以上が学校の対応の基本ですが、実際の場面では、更に複雑な事態も予想されます。例えば事故生徒の家庭が留守、交通通信事情の混乱、校長が出張で不在等が考えられます。平素、緊急事態を考慮して学校体制を確立しておくことと、職員の役割分担を確認しておくことが不可欠です。
3.外部との対応
外部に対しては責任者を決めて対応します。
自殺者とその家族に対する心からの哀悼を示しながら、事にあたることが最も大切なことです。
事故発生後、必要があれば全校集会を開き、校長は不安と混乱を静め、冷静かつ厳粛な態度で、事実をわかりやすく簡潔に伝えます。この場合、詳細にわたったり、自殺ということを明言する必要はありません。生命の尊厳を強調し、いかに苦しいことがあっても前向きに生きるべきことを言葉だけでなく、心情として、表情や態度をとおして伝えなければなりません。なお、状況に応じて学級単位など小集団を対象に補足することも大切です。
A子は6月のある朝早く、増水した川の堤防を睡眠薬を飲んで、ふらふらしながら歩いているところを、通りかかった車の運転手に保護された。そこで入水を図ろうとしたらしい。直ちに119番へ通報し、救急車で病院へ運ばれ手当てを受けた。
幸い、睡眠薬の量が少なかったために生命には異常がなかった。
知らせを聞いて両親も病院へ駆けつけた。母親は、朝食を知らせに彼女の部屋へ行って本人がいないのに気付き、心配し、周りを探していた。
A子は、約半年ほど前に「最近どうも気分が優れない、勉強も能率が上がらず、学校が嫌になった」と担任に訴えたことがあった。その後も、気分はあまりすっきりしない日が多く、憂鬱そうに学校生活を送っていた。
A子が自殺を図った原因には、次のようなことが考えられる。
A子の問題行動発生後、学年会、生徒指導係会、職員会議等を開き、原因・背景等について研究会をもち、A子を含め、生徒の自殺防止対策について協議し、対応して行くことにした。
事故の数日後からA子は登校するようになった。しかし、まだ不安定になった気持ちは完全には回復せず、全ての授業には出席出来なかった。保健室へ行っては養護教論と接触することが多かった。担任は養護教諭と連絡を取り、気分の回復するのを待った。約1ヶ月程で担任あるいは、相談係との会話も多くなってきた。
担任、相談係、教科担任、クラブ顧問等が連絡を取り、本人の状況を観察しつつ、次のような指導をした。
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