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更新日:2023年1月30日
水産試験場
コレゴヌス養殖技術開発の記録
八ヶ岳湯川の濁水災害
深津 鎮夫
平成6年(1994年)7月11日未明、電話でたたき起された。千曲川が濁り、ユキマスが多量に死んでいるという。台風はなく、大雨が降った形跡もないのになぜ?
場に来てびっくりした。干曲川の水が真黄色であり、ユキマスの鰓に黄色い泥が詰まっている。職員の非常呼集をするとともに、下の養殖団地(民間のユキマス養殖業者)を見に行くと同じ状況であった。また、上流臼田町のニジマス養殖池群(河川水養殖)に飛んで行った。これも水車を回し、ポンプを動かし、必死になっている。一大事で、とにかく県庁水産係長、本場長に一報を入れた。
職員が水を測定すると、透視度2cm、PH 6.4という。泥はともかく、PHは魚が死ぬ値ではない。現に同じ水の濾過水で飼育しているユキマスは何ともない。今の池の水を早く入れ替えるしか手はない。その水も泥濁りだ。そのうちに、アユ飼育業者の所に行った職員から、2軒とも出荷直前のアユ15万尾が全滅したという情報が来た。
午前8時、地方事務所、佐久市、県庁、県会議員、新聞記者が押し寄せ、原因は何だと聞く。微細な泥が鰓に詰まり呼吸困難になったと答えた。事実、バケツの中の水は粘土質の泥が厚く沈殿し、鰓には泥がびっしり貼り付いて鰓葉が全く見えない。
被害量の算定などに忙殺されているうちに、八ヶ岳のみの局地的集中豪雨で、硫黄岳に崩落があり、前日の夕方、湯川に大量の濁流が起きたと情報が入った。この濁流が真夜中に突然、佐久の養魚地帯を襲ったのだ。一支流の出水のため、千曲川の水量は若干増えた程度で、被害は養魚場の魚と友釣シーズン中の干曲川の鮎であった。被害総額は2億円を超えた。本場、諏訪支場から応援が来てくれて、午後からは死魚の始末となったが、親魚をはじめ、業者に当日配布を予定していたユキマスの稚魚を含め、ほとんどの魚がへい死した。
後日、被害対策会議で養魚者は、泥で死ぬことはなく、毒物で死んだと言う。硫黄岳は30年前に先人が硫黄鉱山の開設に反対し、また、湯川は魚がすんでいないという。調べてみると、水源近くはPH 2~3であり、千曲川合流点て通常PH 4.5となっていた。硫黄岳の土を水に入れ、かき回すとPHはどんどん下がった。この土を混ぜた水で、ニジマス稚魚の急性毒性試験をすると、懸濁物質濃度2,000~4,000mg/L、PH 4~5でへい死した。どちらも単独では死なない数値である。すなわち、豪雨があっても普段は千曲川本流の水で薄められているが、そのまま流れて来たという数十年に一度の出来事であった。知事が「カクテルにせずに飲んだということか」と表現した。
その後、危険分散の意味で本場に飼育していたユキマス2年魚及び補正予算をお願いして民間養魚場の飼育魚を里帰りさせ、12月の採卵を間に合わせた。また、平成7年(1995年)には佐久・臼田の養魚者が結集して、千曲川上流地点に濁度とPHのセンサーを取り付け、再度、酸性水が来た時の対応ができるようにした。
湯川酸性水による死魚のかたづけ |
湯川酸性水によるへい死事故発生時の千曲川本流 |
(注) 臼田町:現 佐久市臼田
湯川:八ヶ岳硫黄岳中腹から流下し、南佐久郡小海町海尻地籍で千曲川と合流
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