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更新日:2023年1月30日
水産試験場
コレゴヌス養殖技術開発の記録
東部町和池のシナノユキマス
河野 成実
シナノユキマスの放流効果試験というものは、溜池にせっかく水が溜めてあるのだから、その本来の農業用の水利目的に使うだけでなく、ついでにこの魚も放流して生産に結びつけようという考えで行われていた。当時放流した池もいろいろあったが、高冷地の溜池では餌の問題もあり、お世辞にも成長が良いとは言えなかった・・・。
平成元年(1989年)5月に東部町役場から和池という溜池への魚の放流について相談が寄せられた。最初はいつもの試験のようにシナノユキマスの稚魚放流を考えていたが、地元の水利組合では毎年9月に池を干しており、「その時に食べられる大きなマスが欲しい」とのことだった。話の内容から、どうもニジマスを放流したがっているようなので、養殖業者を紹介したが、事のついでにシナノユキマスの成魚の試験放流をさせてもらうことになった。
5月下旬、ユキマス100尾と先方希望のニジマス136尾をトラックで運んで、水利組合の立会いのもと、池に放流した。この和池は、標高1,000mあたりにある1haほどのこぢんまりとした溜池で、イワナが棲んでおり、周りに栗の本がたくさんあった。また、ヨシノボリが排水路周辺のあちこちに見みられ、この魚の多さには驚かされた。
9月下旬、他の水干しをするという連絡があって、それではと現場で測定するための用具を準備することにした。鉛筆、記録紙、体長測定板・・・、最後に体重秤を用意する段になって、さて何gまで測れるものを持って行こうかと考えた。放流時のサイズは100gだったから、4か月で2~3倍になっていれば御の字だなと考えて300g秤を探したが見つからない。仕方がないので、400g秤を車に積み込んで和池へ出かけた。
池では、水利組合の人たちも既に集まっていた。前日から徐々に水落としされたらしく、だいぶ水量も減っていた。そうこうするうちに地底が見えてきて、なにやら魚が泳ぎ回っているのが見えてきた。取揚げが始まって、用意された水槽に魚が運ばれてくるのを見て驚いた。でかいのだ!ユキマスにしろ、ニジマスにしろ、放流時の面影は消え失せ、跳びはねる様子も「パタパタ」よりむしろ「バタバタ」という表現が似合っていた。
結局、用意してきた体重秤はほとんど役に立たず、数尾の標本を持ち帰って、測定し直すはめになった。幸い体長データは取ることができたので、体長-体重関係から取り揚げたユキマスの平均体重が366gあったことを推定することができた。また、この時の最大体重は500g近かったように記憶している。この結果は、養殖魚より成長が良かったことになる。何を食べたらこんなにでかくなれるのかと胃内容物を調べたら、ミジンコやヨシノボリを捕食していた。
それまで多くの湖沼や溜池で放流試験を行ってきたが、このような成長をみせた例は、この池だけであった。魚の放流に際しては、湖沼の特性に適した放流量と放流サイズが如何に重要であるかを、この池によって教えられた気がした。
和池の水を落とした状況 |
和池から取り揚げたシナノユキマス |
(注) 東部町:現 東御市
和池:かのういけ(和地区にある農業用の溜池)
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