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更新日:2014年6月24日
水産試験場
コレゴヌス養殖技術開発の記録
発眼率向上のための試験
塩瀬 淳也
昭和53年(1978年)度に多量の採卵ができるようになったが、発眼率は散々な成績であり、特に、魚種、年齢毎の各々の魚群とも採卵初期以外はほとんど発眼卵が得られなかった。卵質向上のための対応が求められた訳である。採卵時の状態では、頭を上にすると流れ落ちるものから強く搾ると採卵できるものまで様々だが、どの状態での採卵が良いのか、今行っている採卵間隔4~5日間で卵質低下が起こっていないか、そして、夏期24℃にも達する親魚飼育水温の影響はないだろうか等がとりあえずの検討事項になった。
次年の昭和54年(1979年)度には、搾出状態のメモをとりながら採卵してもらい計60尾を上回る個体別の発眼率を求めた。メモにある採卵状態が千差万別でどの様に分類すべきか悩む状況であったが、平均ではニジマスのように「比較的容易に搾出できる」ものが良い成績であり、マレーナでは「自然に流出するもの」も良かった。しかし、どの分類にも低い発眼率のものが含まれ、搾出状態からの適期判断は困難であった。また、搾出卵の外観と発眼成績を比較してみると、過熟卵が混入しないきれいな卵が良い成績になったものの、同様に外観状態の段階すべてで悪い成績のものがあり、外観からの卵質判定も困難と考えられた。
この冬には東京水産大学の酒井清先生が来て、数日間も宿直室へ泊まり込んで卵質問題の解明に取り組んでくれた。顕微鏡的な卵性状と発生状態について調べ、顕微鏡的にも卵形態にバラツキがあり、表層原形質が厚く油球が小さい等の卵が良い発眼成績を示した。なお、これらの試験は、卵質向上を求める試験の指標を求めることと共に、事業的な採卵の中で不良卵を除いて卵管理を容易にし、ふ化中の無用な減耗も少なくしようというねらいもあった。
次に、同時に進めたものであるが放卵後の卵質変化がどうなっているかということである。放卵間近と思われる親魚を標識して5日毎に鑑別し、少量ずつ採卵ふ化した。結果は、採卵できない状態が続きながらある日突然放卵済みになってしまうものや、採卵できても成績が著しく悪かったものが突然素晴らしい成績になり、次の採卵ではまた0になってしまうというものがあり、卵質の維持においても個体差の大きいことがわかった。翌昭和55年(1980年)度にはマレーナ、ペレッドとも毎日少量搾出する区、1日おきに搾出する区を設定して個々の卵のふ化状況を調べた。結論は全体の成績を向上させるためには1~3日間隔で採卵作業を行ったほうが良いというものであった。卵質が不十分ということもあろうが、それにしてもこの低水温の中でこの様に短期日で卵質低下が起こるとは予想もしなかったことである。
この試験の間は休日も皆で出勤して採卵をし、シャーレの水替え等の卵管理を続けたものである。今はどうであろうか。事業的継代の中で、親魚養成環境に合った魚、卵質変化の穏やかな魚への選抜が加わって、かなり安定してきたのではないだろうか。
親魚の飼育環境に関しては、夏前に親魚の一部を低水温の立科マスセンターに移して飼育してもらい、また、採卵期前から無給餌にする区を設けて、一般飼育魚との比較を行った。試験区で採卵できた魚は7尾、17尾と少なくなってしまい、卵質の個体差が大きいため物の言える結果は得られなかったが、少なくとも発眼成績が良くなる傾向は見られず、むしろ移動等の影響を受けたのか、成績が悪くなる傾向がみられた。また、採卵期に0℃近くになる佐久の水温の影響を懸念して、排卵前の魚を5℃の池に移して飼育し、採卵に至ったものの、成績も個体差の変動に埋没して傾向も掴めなかった。しかし、その後の佐久支場における採卵経過から低水温の影響はなかったものと考えられる。
シナノユキマスの卵(顕微鏡写真)
中央やや下のものが表層原形質が厚く油球が小さい"良卵"
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